フィンランド国立博物館は歴史あるナショナル・ロマンティシズム様式とJKMMアーキテクツの設計により増築された現代建築が融合。写真: Tuomas Uusheimo
フィンランドの首都・ヘルシンキ市からダニエル・サゾノフ市長らが来日し、10月13日、ヘルシンキの建築物や博物館をPRするイベントをANAインターコンチネンタル東京で開いた。アルヴァ・アアルト財団のユッカ・サヴォライネン館長は「世界遺産登録の意義とアアルト建築の現在」を講演。フィンランド国立博物館の来館体験責任者であるリーサ・ロッタンデル氏は、「100年以上の歴史を持つ博物館の大規模リニューアル」について説明した。また、建築デザイン博物館のピルヴィ・カルハマCEO兼館長は「2030年に向けたロードマップ」を話した。JKMMアーキテクツの創設パートナー兼クリエイティブパートナーのサムリ・ミエッティネン氏は、「歴史的都市における現代建築のアプローチ」を語った。
イベントではサゾノフ市長が冒頭に挨拶。「日本とフィンランド、それからヘルシンキと東京の間には自然な結びつきがある。ともに気持ちを込めて作られたものへの質、機能性、美しさといったものに価値を見出す文化を持っている」と述べた。
東京都と新たな協力合意を締結

ダニエル・サゾノフ市長
ヘルシンキ市は10月13日、イベント当日の朝に小池都知事とヘルシンキ市・東京都間の新たな協力合意に調印したことを明らかにした。サゾノフ市長は「人々が住む素晴らしい新たなアーバンデザイン都市、そして持続可能でレジリエンスに優れた生活の場をどうやって作るのかについて、お互いにたくさんの面で学ぶことができる」と協力への期待を示した。
デザインに対するヘルシンキ市の根本的な立場も明確にした。「デザインということは究極的に人間、人々のためのものだ。人間が仕事に行くときにどう道を経験するか、子どもがどう公共のスペースを使うか、お年寄りがどんなふうにサービスを利用できるのか。良いデザインは日々の生活をちょっと楽に美しく、温かくしてくれるものだ」と語った。
ヘルシンキのデザインは単に著名なフィンランドブランドや建造物だけを指すものではなく、建物、公共空間、図書館、学校、新しい地区計画の在り方にまで及ぶとも説明した。現在、「都市をより楽しめる、建築的に興味深く、そしてより美しくするにはどうしたらよいか」を本格的に考える新プログラムを進めているという。
アアルト作品群、2026年7月にユネスコ世界遺産へ登録

フィンランディアホール(写真)、アアルト自邸、スタジオ・アアルト、文化の家、フィンランド国民年金協会 KELAは、
ユネスコ世界遺産に登録されたアアルト作品群の一部。写真: Juho Kuva, Finlandia Hall

ユッカ・サヴォライネン館長
ユッカ・サヴォライネン館長は、フィンランド全土に点在する13の建築「Aalto Works(アアルト作品群)」が2026年7月にユネスコ世界遺産に登録されたことを報告した。先駆的なモダニズム建築家アイノ、エリッサ、アルヴァ・アアルトによる作品群で、建築における人間中心のアプローチが国際的な建築思想に影響を与え続けていること、また、ウェルビーイング、平等、コミュニティの暮らしを支えるデザインの役割が世界的に高く評価された結果だ。
サヴォライネン館長は「今回の世界遺産への登録というのはアアルトの建築にとってのみではなく、ユネスコにとっても、そしてフィンランドのデザインにとっても重要な意味がある」と強調した。
13の建築のうち5作品がヘルシンキに位置し、作品群の中でも最多。ヘルシンキはこの世界遺産の魅力を探る出発点として理想的な場所だと位置付けられる。
ヘルシンキのMunkkiniemi(ムンッキニエミ)にあるアアルト自邸は、アイノとアルヴァ・アアルトが自宅兼オフィスとして設計し1936年に完成した建物だ。スタジオ・アアルトはアルヴァ・アアルト建築事務所専用の仕事場として1955年に完成。いずれもガイド付きツアーで見学できる。アアルト一家の日常生活、創造的プロセス、建築とデザインへのアプローチに直接触れられる場所だ。
アルヴァ・アアルト財団は1966年の設立以来、コレクションを5大陸48カ国・140以上の都市で展示してきた実績を持つ。10万点以上の図面や模型、300を超える建造物などの知的遺産を管理している。「アアルトの遺産は人類全て、我々全員のものである」とサヴォライネン館長は伝えると語った。
ユネスコ世界遺産アアルト作品群のハイライトのひとつが、ヘルシンキ中心のトーロ湾沿いに立つフィンランディアホールだ。堂々とした大理石のファサードから家具、照明、内装にいたるまで、建物のひとつひとつのディテールがアルヴァ・アアルトによって丁寧にデザインされた芸術的な建物。大規模改修を経て、アルヴァ、アイノ、エリッサを中心とした没入感のある展示、Finlandia Café&WineやFinlandia Bistroでのフィンランドの食体験、フィンランドデザインのショッピング、建物内のFinlandia Homesへの宿泊まで楽しめる文化的デスティネーションへと進化した。国際会議やコンサート、カルチャーイベントの主要会場でもある。
フィンランド国立博物館、2027年4月に再オープン

フィンランド国立博物館は歴史あるナショナル・ロマンティシズム様式とJKMMアーキテクツの設計により増築された現代建築が融合。写真: Tuomas Uusheimo

フィンランド国立博物館の来館体験責任者、リーサ・ロッタンデル氏
リーサ・ロッタンデル氏は、フィンランドで来館者数が最も多い国立博物館がその歴史上最大規模の変革を経て、2027年春(4月)に新時代を迎えると説明した。
「この博物館は、フィンランドという国家を定義し、フィンランド人のアイデンティティを語る場所として19世紀に建てられた。一世紀以上たった今も、同じ質問を投げかけ続けている。フィンランドはどのようにして現在の国になったのか。答えはもはや一つではなく、進化し続けている」とロッタンデル氏は語った。
リニューアル後の博物館では、著名な3人の建築家ヘルマン・ゲセリウス、アルマス・リンドグレン、エリエル・サーリネンにより設計されたナショナル・ロマンティシズム様式の建物が修復され、JKMMアーキテクツの大胆な設計による現代的な増築部と融合する。建築、デザイン、歴史、現代文化が一つになり、建物全体が芸術作品となる構成だ。
新しい空間の90%が地下に配置されることで、歴史的建造物の外観はそのまま維持される。地下には6,000平方メートルを超える柔軟な展示・イベントスペースが新設され、没入感のある大規模な国際的展示、文化フェスティバル、プライベートイベントの会場として機能する。これまで外から閉ざされていた庭園も、ヘルシンキ中心の緑の公共スペースとして一般開放。新しいパビリオン、レストラン、ミュージアムショップも整備される。
「単に広くなるという話ではない。フィンランドで最も愛される文化的ランドマークの一つとしての歴史的特徴を保ちつつ、展示、イベント、美味しい食事、様々な文化、生き生きとした社交が一体となった体験を提供できるようになる」とロッタンデル氏は強調した。
リニューアルされた国立博物館は単なる博物館ではなく、展示、建築、イベント、市民生活が集約された文化的な見どころであり公共空間でもあると説明された。国を定義するために創られた博物館は、繰り返し再構想されるフィンランドらしさを探求する場所として生まれ変わる。
建築・デザインミュージアム、新コンセプト「Designed & Loved」を展開

新しい建築・デザインミュージアムの建築コンペに提出された624の作品の中から、ヘルシンキを拠点とするJKMM
アーキテクツのプロポーザルが選出。イメージ :JKMM Architects

建築デザイン博物館のピルヴィ・カルハマCEO兼館長
ピルヴィ・カルハマCEO兼館長は、建築・デザインミュージアム ヘルシンキがヘルシンキ南港に2030年完成予定の新ミュージアム建築に向けて大きな変化の時期を迎えていると説明した。
現在Korkeavuorenkatu(コルケアヴォオレンカトゥ)通りにある現行ミュージアムでは、来春、展示、イベント、サービスをシームレスに体験できる「Designed & Loved」という新コンセプトを展開する。ミュージアムは2027年1月7日から一時閉館し、3月5日に再オープンする予定だ。
リニューアル後のミュージアムの中心には、フィンランドの建築とデザインの歴史を多角的に探るコレクション展が据えられる。ミュージアムの展示場全体を使い、これまで一般公開されていないものを多数含む所蔵品数百点を展示。1階は無料で誰もが自由に出入りできるウェルカムフロアとなり、より大きなデザインショップ、新しいブックギャラリー、新しいカフェ「Café Nolita」が設けられる。
カルハマ館長は「建築とデザインを単なる素晴らしいオブジェクトや完成品としてではなく、社会そのものを理解するための生きた道具として発見していただきたい」と語った。
日本からの来館者数についても具体的な目標を示した。「現在の年間25万人から45万から50万人まで倍増させることを目指している」。現行ミュージアムはクリエイティブ分野に特化した国立博物館として約100万点のコレクションを保有しており、この膨大な資産を活用した観光誘客を本格化させる方針だ。
新ミュージアムはヘルシンキ南港のサウスハーバー地区に建設される。これまで臨海工業地帯だったエリアが芸術とミュージアムを中心とするウォーターフロント地区に生まれ変わる。フィンランドここ数十年で最大規模の文化施設投資とされる。
JKMMアーキテクツ、ヘルシンキの文化景観を形成する3大プロジェクト

JKMMアーキテクツの創設パートナー兼クリエイティブパートナーのサムリ・ミエッティネン氏
サムリ・ミエッティネン氏は、同事務所が手掛けるヘルシンキの主要3ミュージアムプロジェクトを紹介した。
最初に紹介したのは2018年にオープンしたAmos Rex(アモス・レックス)ミュージアムだ。地下のギャラリーと、特徴あるドーム型の屋根が突き出る公共広場によりアート、建築、都市生活を統合させた施設。「地下の新館が旧広場に生き生きとした都市文化の中心という新しいアイデンティティを生み出している」とミエッティネン氏は説明した。
次に2027年完成予定のフィンランド国立博物館の増築部。地下の展示・イベント空間を備え、特徴的なアーチ型の入口と丸みを帯びたお皿のような屋根を持つ。屋根の上には1年を通じて公共の公園が整備される。「誰でもがすぐに理解できて、同時にいろいろな解釈を許すような建築を作りたかった」とミエッティネン氏。屋根の表面にはハート型や十字架、三つ葉のクローバーのような形が施され、中庭の構造はフィンランドでクリスマスに飾られる伝統的な麦わらのモビールからヒントを得たデザインだ。設計にはフィンランドの自然、季節の移ろい、岩盤、島々、湖、森林、空と雲などからも着想を得た。
そして624の作品が集まった国際建築コンペで選出された新しい建築・デザインミュージアム。ヘルシンキ中心部のウォーターフロントに建設され、2031年春の一般公開を予定している。「フィンランドのデザインと建築の豊かな伝統と革新的な精神を世界へ発信する拠点となる」とした。国際コンペの中心的な問いは「文脈とアイデンティティをどう捉えるか」であり、「普遍性と個性をどうバランスさせるか、意外性と永続性を同時にどう両立させるデザインにするか」が最大の課題だったと語った。
どのプロジェクトでも、JKMMはミュージアムを展示会場としてだけでなく、文化、学び、交流、都会の日常生活など人々のためにある場所としてアプローチしている。「建築は単に職業や産業としてではなく、私たちを取り巻く世界を形作る上での文化的な力として議論される場所であるべきだ」とミエッティネン氏は強調した。
市民参加については、新しい建築・デザインミュージアムのコンペ最終審査の際に5つのファイナリスト案を展示し、市民から展示内容やプログラムに関する意見を直接収集した。その声をもとに現在設計を進めているという。「市民の方々に安心して自分たちが欲しいものができる、自分たちのものだという気持ちを持っていただけるようにしている」と関係者は述べた。
日本でもヘルシンキを体験 各地で展示・出店相次ぐ
日本にいながらヘルシンキらしさに触れられる機会も相次いでいる。
1935年ヘルシンキで創業のArtek(アルテック)が日本初の直営店を東京・神宮前(東京都渋谷区神宮前5-9-20, 1FB1)にオープンした。約200㎡の店内には、アルヴァ・アアルト等フィンランドデザインの巨匠による家具、照明、テキスタイルから、現在グローバルに活躍するデザイナーの最新作まで一堂に会する。
1852年創業のフィンランド最古のベーカリー・パティスリー・カフェ、Ekberg(エクベリ)は2026年7月、初の海外進出先として新宿伊勢丹(東京都新宿区新宿3-14-1 伊勢丹新宿店本館地下1階)に出店した。フィンランド人の愛するシナモンロール「korvapuusti(コルヴァプースティ)」や「voisilmäpulla(ヴォイシルマプッラ)」などを提供している。
ヘルシンキを拠点とするジュエリーブランドKalevala(カレワラ)は2026年9月、日本初のコンセプトストアをニュウマン高輪(東京都港区高輪2-21-1 ニュウマン高輪 North 2F)にオープンした。ヘルシンキの自社工房で受け継がれてきた職人の技や、北欧の自然・文化を感じられる空間を届ける。
展示面では、フィンランドのサウナ文化・歴史・日常生活における役割を探る巡回展「フィンランド スピリット サウナ」が富山市ガラス美術館で2026年10月31日から2027年1月24日まで開催される。マリメッコの巡回展「模様のちから Marimekko: Art of Printmaking – Beauty, Dream, Love」は東京都庭園美術館(東京都港区白金台5-21-9)で2026年10月3日から12月20日まで開催中。京都での開催に続くもので、東京終了後は広島など全国各地を巡回する予定だ。
ヘルシンキ・フィルハーモニー管弦楽団は2026年10月9日から18日まで、首席指揮者ユッカ=ペッカ・サラステ氏率いる日本ツアーを実施。ソリストに角野隼斗氏(ピアノ)、東亮汰氏(ヴァイオリン)を迎え、高崎、大阪、川口、東京、浜松、上田(長野県)、横浜の各都市で8公演を行った。東京公演は10月13日サントリーホール、10月14日東京オペラシティでそれぞれ実施された。
サゾノフ市長は「活気ある文化的な生活が都市に個性と他とは違う魂を与えてくれて、人々が出会い新しいアイデアが生まれる場所にしてくれる」と述べ、デザインと建築、文化を通じたヘルシンキへの誘客に強い意欲を示した。アアルト作品群のユネスコ世界遺産登録、フィンランド国立博物館の大規模リニューアル、建築・デザインミュージアムの刷新と新施設建設、そして日本国内での体験機会の拡充。ヘルシンキ市は複数の柱を立て、日本からの観光客誘致を本格的に加速させる構えだ。
Visit Finland(フィンランド政府観光局) https://www.visitfinland.com/
【kankokeizai.com 編集長 江口英一】




