首都直下地震・富士山噴火・サイバー攻撃…東京商工会議所が5つの重点項目で国に災害対策を要望、会員企業のBCP策定率は約4割にとどまる


 東京商工会議所は9月10日、「国の災害・リスク対策に関する要望」を取りまとめ、公表した。首都直下地震対策、富士山噴火降灰対策をはじめとする5つの重点項目を掲げ、今後、国土交通省・内閣府等の関係先に対して要望の実現を働きかける方針だ。

 本年7月に熊本県で最大震度7の地震が発生したほか、8月には千葉県でレベル5の大雨特別警報・土砂災害特別警報が発表された。加えてサイバー攻撃・感染症・ミサイル攻撃等、事業者を取り巻くリスクは多様化・複合化しており、事業継続に向けた備えの必要性が一層高まっている。

重点要望① 過去の震災を教訓とした首都直下地震対策

 首都圏では30年以内に70%の確率で首都直下地震が発生すると言われており、国が昨年公表した新たな被害想定の最大値では、死者最大約1.8万人、全壊・焼失建物約40万棟、経済的被害約83兆円と試算されている。

 東日本大震災では首都圏鉄道の運休により約515万人の帰宅困難者が発生した。首都直下地震の発生時には行き場のない帰宅困難者が約66万人発生すると推計されており、東商は実効性ある帰宅困難者対策の推進を求めた。本年の会員企業へのアンケート調査では、帰宅困難者対策条例について努力義務の内容を含めて知っていると回答した企業は約4割にとどまっており、周知の徹底が急務だ。

 交通・物流ネットワークの強靭化についても要望を盛り込んだ。能登半島地震では道路損壊や家屋倒壊に伴う電柱傾斜が2,300件、電柱折損が約750件に上り、復旧作業や物資輸送に遅延が生じた。国土交通省は本年6月に「第3次無電柱化推進計画」を公表しており、地方公共団体の無電柱化事業に対するきめ細かな支援展開を求めている。

 情報発信機能の強化も重点要望項目だ。熊本地震では、デマや真偽の不確かな情報がインターネット上で拡散し、熊本県警が把握した件数は135件に上った。NICTが能登半島地震の発災から24時間以内に書き込まれたXの投稿を検証した結果、約1割が偽情報と判定されたことも明らかになっている。本年6月改定の「首都直下地震緊急対策推進基本計画」では新システム等を活用した被害情報の集約と情報発信体制の強化が掲げられており、具体的な官民連携の枠組みや運用手順の明確化、訓練実施等の対策推進を訴えた。

 感震ブレーカーの導入促進も要望した。本年の会員アンケートでは設置率は10.7%にとどまり、「設置しているか把握していない」が過半数を占めた。「設置していない」事業者のうち「設置を検討したこともない」が約4割に上り、認知度・関心の低さが浮き彫りとなった。「首都直下地震緊急対策推進基本計画」では緊急対策区域における設置率を今後10年間でおおむね設置へ引き上げることが掲げられており、住民だけでなく事業者を含めた設置支援強化、賃貸物件オーナーへの啓発、簡易型感震ブレーカーの無償配布等、地方公共団体と連携した取り組みを求めている。

 このほか、液状化対策の推進、エレベーター閉じ込めに備えた対策も盛り込んだ。能登半島地震では21府県で約1.6万台のエレベーターが停止し、14件の閉じ込めが発生。東京都の被害想定では都内のエレベーター約16.6万台のうち、最大約2.2万台が非常停止する可能性があるとされている。

重点要望② 自助・共助の力を高めるための支援強化

 阪神・淡路大震災の救助主体の割合は、自助(自力・家族)が66.8%、共助(友人・隣人)が30.7%であり、公助(救助隊等)はわずか1.7%にとどまった。東商はこうしたデータを踏まえ、住民や事業者が「自らの命は自らが守る」という意識を醸成することの重要性を強調している。

 本年の会員アンケートでは、BCP(事業継続計画)の策定率は全体で38.2%にとどまる。大企業の策定率は74.3%であるのに対し、中小企業は29.9%と大きな差がある。BCPを策定していないいずれも未策定の中小企業は29.3%に達する。

 策定済みのBCPにおける想定リスクは地震が90.7%と最も高く、感染症55.6%、水害54.1%、情報セキュリティ41.9%と続く一方、火山噴火は19.2%にとどまり、オールハザード型は8.2%にすぎない。

 東商は本年1月よりAIを活用したBCP策定支援システム「SONAE-AI(ソナエアイ)」の提供を開始している。要望では、BCP策定支援の促進に加え、新たにBCPの実効性を高める訓練実施支援を重点項目として追加した。本年のアンケートでBCP策定済み企業の約7割が見直しを、約5割が訓練を実施しており、こうした取り組みの後押しが必要と指摘している。

 内閣府では2005年に事業継続ガイドライン第1版を策定して以降随時改定を行い、本年7月には改定に向けた検討会を発足させた。現行ガイドラインは文量が膨大であり、初めてBCP策定に取り組む事業者にとってハードルが高いとの指摘があることから、敷居を下げる取り組みも合わせて実施するよう求めた。

 また、中小企業防災・減災投資促進税制について、認定期間の延長とともに、防災を目的とした蓄電池やガラスの飛散防止フィルムも対象設備に追加するよう求めている。

重点要望③ 頻発化・激甚化する風水害への対策

 気象庁のデータでは、1時間降水量80ミリ以上等の豪雨は近年増加傾向にあり、1980年頃と比べて発生回数がおおむね2倍程度となっている。昨年発生した線状降水帯の事例数は11に上った。

 大規模水害時の広域避難計画モデル(昨年3月公表)では、避難先の確保が必要な広域避難者を約74万人と試算している。

 本年5月、気象庁は新たな防災気象情報の運用を開始。また同月、線状降水帯が発生する可能性が高まっていることを発生2〜3時間前に知らせる「線状降水帯直前予測」の運用も始まった。ただし運用直後の的中率は想定の5割を下回る31%にとどまっており、予測精度のさらなる向上が課題だ。

 本年8月の千葉豪雨では線状降水帯が3回発生し、これまでの想定を超えた降水量となった地域もあったことから、対策の前提となる想定条件の引き上げや見直しも求めている。

 昨年の会員アンケートでは、大規模風水害が見込まれる場合の情報提供として「被害・復旧の見通しや公共交通機関・主要駅の情報等を地域一括で情報提供してほしい」が78.5%、「空振りでもいいから早めに情報提供してほしい」が66.4%を占めた。

 新規要望項目として、AIを活用した効率的な水害対策の推進も盛り込んだ。増水時に河川や水路の水位をAIカメラで探知し、自動音声で避難を呼びかける実証実験が進められており、先行事例を参考にした取り組みの推進を求めた。

重点要望④ 富士山噴火降灰対策の強化

 本年3月、内閣府と東京都を座長とする「首都圏における広域降灰対策具体化協議会」が発足し、富士山噴火時の被害想定への関心が高まっている。

 本年の会員アンケートでは、富士山噴火による影響を「非常に懸念している」が46.0%、「ある程度懸念している」が28.6%で、約7割の企業が影響を懸念している。

 降灰対策ワーキンググループの報告書によると、東京都への影響が最も大きくなる場合、多摩地域をはじめ区部の大部分において最大10cm程度以上の降灰が発生し、除灰が必要な火山灰量は約1.2億㎡と想定される。

 ライフラインへの影響として、電力は降雨時3mm以上の降灰で絶縁不良による停電発生、水道は水源の水質悪化や停電エリアでの断水発生が懸念される。

 要望では、降灰除去体制の構築(仮置き場の選定・確保等)、降灰に耐えうるライフライン整備、交通インフラの降灰対策強化(人員・資機材の確保、訓練実施等)、適切な降灰対策の啓発(火山灰処理方法の周知等)の4項目を掲げた。

重点要望⑤ サイバーセキュリティ対策の強化

 本年7月、大手食品メーカーが第三者による不正アクセスを受け、商品の出荷停止や情報漏洩が発生した。NICTによれば、昨年確認されたサイバー攻撃関連の通信数は過去10年間で約5倍に増加している。

 本年の会員アンケートでは「自社がサイバー攻撃を受けたことがある」と大企業の20.9%、中小企業の7.5%が回答。「取引先や委託先が被害を受け自社業務に影響したことがある」は大企業で30.7%、中小企業で16.8%に上る。

 BCP策定済み企業でサイバーセキュリティのリスクへの備えが必要と感じている企業が約9割であるのに対し、BCPで対策できている企業は約4割にとどまる。

 2024年の会員アンケートでは、中小企業のサイバーセキュリティ対策への年間投資額が「投資していない」「50万円未満」と回答した企業が約5割を占めており、対策費用への補助拡充による投資の後押しを求めた。

 要望では、IT導入・活用と合わせたサイバーセキュリティ施策の展開、サイバーセキュリティ対策支援の強化・意識醸成の2項目を柱とした。経済産業省が進める「デジタル化・AI導入補助金」や「マナビDX」による人材育成支援等の周知強化を求めるとともに、専門家派遣等の支援強化も訴えている。

継続要望項目と今後の働きかけ

 重点要望に加え、継続要望として「レジリエントなまちづくり」「迅速な復旧体制の整備」「災害・リスクへの社会的意識向上」の3項目を掲げた。

 迅速な復旧体制の整備では、防災庁の年内設置に向けた体制整備の加速を求めた。複合災害に備えた避難所等の生活環境の改善・確保として、イタリア・台湾の事例を参考にした簡易トイレ・キッチンカー・段ボールベッド・個室テント等の迅速な設置も要望項目に盛り込んだ。

 災害・リスクへの社会的意識向上では、マイナンバーカードの災害時の対応機能強化、国が保有する災害・リスク関連情報のオープンデータ化による官民連携強化、外国人の避難誘導方法の確立(多言語案内表示、訪日外国人向け災害時情報提供アプリの普及等)なども求めている。

 東商は今後、国土交通省・内閣府等の関係先に対して本要望の実現を働きかけるとともに、引き続き関係府省等と緊密に連携し、首都圏・東京における災害・リスク対策の促進に取り組む方針を示している。今回の要望は2026年9月10日の第263回議員総会・第795回常議員会で決議された。前回の要望は2025年10月に取りまとめられており、今回はBCPの実効性を高める訓練実施支援、AIを活用した効率的な水害対策の推進が新規項目として加わった。

 
 

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