経験こそが財産 自らの経験値で問い直せ
愛知県観光コンベンション局では、政策立案の基盤としてEBPM(エビデンス・ベースト・ポリシー・メーキング)の推進に取り組んでいる。その場限りのエピソードや思いつきに頼るのではなく、データと根拠に基づいて政策をまとめることを目指す姿勢だ。
一方、それ以前の観光行政の現場では、豊富な経験と鋭い勘、度胸のある判断ができる、いわゆるKKD(経験・勘・度胸)を体現する人物が、職人芸として一定のリスペクトを集めていた。ともすれば、最新の科学的アプローチと昔ながらのやり方という対比で語られがちだが、実際にはKKDは今も評価され続けており、EBPMを実践しながらKKDも発揮するハイブリッド型の人材が増えているというのが実感である。
2022年11月にOpenAIがChatGPTを発表して以降、観光業界でも生成AI活用の必要性は十分に認識されながら、実際の活用方法は手探りの状態が続いているのではないだろうか。
生成AIの登場は、さまざまな場面で新たな対応を求められている。愛知県の公式サイトもその一つで、AI検索や生成AIが回答を生成する際に、最も信頼できる引用元として選ばれるよう、GEO(生成エンジン最適化)への対応、すなわち掲載情報の質の向上と公平性の担保が求められている。今の段階ではこの対応が最適解と考えているが、数カ月先では違う対応が求められるかもしれない。
日々の業務でも、生成AIに1次情報を求めてプロンプトを入力すると、信頼できる情報源をもとに出典を明示しながら誠実に回答してくれる。学習を重ねるごとに精度も増し、実務における判断の効率化を日々実感している。
その一方で、EBPMの浸透によりやや影の薄くなっていたKKDの価値を、改めて貴重なものとして再認識するようにもなった。生成AIはいかにも経験者のように語るが、それはあくまで生成AIが自ら経験したものではない。そこに漂う「何かが違う」という違和感を覚える瞬間にこそ、KKDの真価が発揮されるのだと思う。
現場で培った勘や度胸は、一朝一夕に身につくものではない。長年、判断を積み重ねてきた同世代の仲間たちには、その経験こそが財産であることを伝えたい。生成AIがどれほど進化しても、現場の空気を読み、責任を背負って決断を下す力は代替できない。データやAIの答えをうのみにせず、自らの経験値で問い直せる人材が、これからは求められると考える。

武田氏




