ジャパン・レジリエンス・アワードで城崎が最優秀賞 観光レジリエンスで初のマニュアル策定


「ジャパン・レジリエンス・アワード2026」受賞を報告する、門間雄司豊岡市長(写真左)と城崎温泉旅館協同組合の大西伸弥理事長

「ジャパン・レジリエンス・アワード2026」受賞を報告する、門間雄司豊岡市長(写真左)と城崎温泉旅館協同組合の大西伸弥理事長

 今年4月、「ジャパン・レジリエンス・アワード2026」で、兵庫県豊岡市の城崎温泉観光レジリエンスマニュアル検討会議(座長=松井裕一朗・ミネルヴァベリタス代表)が最優秀賞を受賞した。自然災害や大規模な感染症の流行など観光産業が直面するリスクへの対応強化の必要性が指摘される中、昨秋に宮城県仙台市でアジア・太平洋地域で初めての観光レジリエンスサミットも開催。「仙台声明」が採択されるなど、観光レジリエンスへの意識の高まりが見られ始めている。城崎をはじめとする各地の取り組みを追った。

 ジャパン・レジリエンス・アワードは、レジリエンスジャパン推進協議会(東京都千代田区、廣瀬道明会長)が次世代に向けたレジリエンス社会構築へ向けて、先進的な企業・団体を評価、表彰する制度。城崎温泉は温泉観光地として日本初の「観光レジリエンス都市」を目指した「城崎温泉観光レジリエンスマニュアル」策定プロジェクトの取り組みが評価された。

 城崎温泉は昨年、温泉街が壊滅的な被害を受けた北但大震災から100年を迎えた。これに先立つ23年から「100年記念プロジェクト実行委員会」を立ち上げ、教育や交通・まちづくりなどに関する部会を立ち上げて課題を議論。その中で「地域版BCP(事業継続計画)」策定の意見が出たことをきっかけに、観光レジリエンスマニュアルづくりを始めた。

 城崎温泉では北但大地震以外にも、2015年に大規模火災が発生したほか、昨年も温泉街で火災が発生。24年元日の能登半島地震では豊岡市沿岸部だけに津波警報が発出されたことにより、避難対応だけでなく、風評などへの対応を迫られるなど、危機管理対応だけでなくその後の観光事業の継続への課題意識が高まっていた。

 そこで昨年8月から、レジリエンスの専門家であるミネルヴァベリタス社の助言を受けながら、豊岡市城崎振興局や同市消防本部城崎分署、城崎温泉観光協会、城崎温泉旅館協同組合、全但バスなどでつくる検討会を立ち上げ。全4回の検討会を経て、レジリエンスマニュアルの第1版を完成させた。

 マニュアルでは冒頭で、観光関連事業者における防災と事業継続の違いについて解説。防災は「命と財産を守る取り組み」である一方で、事業継続は「自然災害が発生した際に観光商品やサービスの供給を継続することで、観光客や他事業者に迷惑をかけないようにするとともに、従業員の雇用を維持すること」と確認。さらに同温泉の地震や雪害などのリスク評価と、被災時の防災、事業継続両面での最優先事項を示した。

 このうち事業継続の観点では、地域全体被災の場合は外湯の復旧を、一部被災の場合は業種を超えた連携・協力による被災対象の復旧を最優先事項とした。その上で、各種災害時の防災、事業継続の両面での災害対応を時系列で整理した。

 特に事業継続に関しては、被災によるブランドイメージの棄損とこれによる中長期的な観光業の衰退の影響を指摘。普段から「まち全体が1軒の宿」のコンセプトの下、各事業者の経営資源についての情報共有と、商品やサービス供給停止時の相互補完関係の構築、正確かつ的確、迅速な情報の取りまとめと発信による風評被害対策の実施も示した。

 さらに外国人旅行者、従業員の特性を踏まえた災害対応として、災害対応用の多言語ツールに関する情報を整理掲載。またハラール認証を取得した備蓄品の配備などの新興・文化的価値観の違いに配慮した対応への準備の必要性なども説く。

 約40ページからなるマニュアルだが、その後半は、災害対応チームメンバー表や供給能力分析票など、観光レジリエンス体制の構築のためのテンプレートや各種資料からなっており、より実践的な内容となっている。

 「当初はお客さまへの対応面だけを念頭に入れていたが、城崎温泉で働く人への対応も重要であるとの考えに至った。また外国人従業員も数多くいることから、彼らが安心して働き続けられるような取り組みも盛り込んだ」と同観光協会の野竿翔太氏は振り返る。

 同温泉では観光レジリエンスマニュアルの実効性を高める組織として、今年6月に官民による観光レジリエンス推進協議会(会長=西村総一郎・西村屋社長)を発足した。今後は同協議会を中心に、マニュアルに基づいた机上訓練を重ねるとともに、来年度には各種条件を仮定した上での実地訓練を行う考えだ。

 城崎のマニュアルは、昨年11月9~11日に観光庁が世界観光機関(UNツーリズム)と連携して、仙台市で開催した「観光レジリエンスサミット」(既報)で採択された共同声明「仙台声明」も引用、これを踏まえた内容ともなっている。

 仙台声明では、自然災害やコロナ禍を経て再認識された観光分野の脆弱(ぜいじゃく)性とともに、観光の規模拡大による、経済・社会での観光の影響が増大すると指摘。取り組みの方向性として、(1)危機や自然災害による影響の予防・最小化(2)危機や自然災害による影響の吸収、回復過程の適応と変革―の二つの観点を挙げた。

 このうち(1)については、各地域の地理的状況や観光産業の特性を踏まえたリスク把握・評価、関係者の役割分担の明確化と連携体制の構築などとともに訓練やシミュレーションによる個人・組織の対応力向上の必要性を指摘。

 (2)については教訓の観光戦略への活用や各地域の将来像に沿った新たな観光商品の開発などを方策として示した。実際、城崎のマニュアルではこの声明に準ずる形で、事業継続に当たり、復興ツーリズムや復興コンテンツへの取り組みの必要性を説明。また、「城崎温泉復興の歴史から学ぶCSRプログラム」のような取り組み事例も紹介している。

 観光地BCPに関しては、2020年に神奈川県箱根町が策定した第2次箱根町HOT21観光プランなど、コロナ禍以前から災害時の観光客の安全確保体制の構築と、観光産業の早期復興体制の構築を盛り込んだ観光計画が一部先進地域で見られたが、観光レジリエンスに特化した取り組みはなかった。

 城崎温泉以外でも、観光レジリエンスの強化に力を入れる観光地は出てきている。今年4月に2030年までの新たな観光計画を策定、発表した静岡県熱海市。同計画では「熱海が将来にわたり選ばれ続ける温泉リゾートとなるための確かな基礎を築く」とのKGI(重要目標達成指標)に向け、観光地経営の「VICEモデル」(Visitor/Industry/Community/Environment)に、熱海市独自の「Resilience(危機対応力・回復力)」を加えた「VICE+Rモデル」を採用した。

 「コロナ禍という観光事業者にとって危機的な状況を目の当たりにして、段階的な回復の必要性を感じていた。また近年のさまざまな自然災害やこれに伴う鉄道の大規模運休などを鑑みると、観光レジリエンス力を高める取り組みを計画に盛り込むことが必要ではないかとの考えに至った」と同市。

 レジリエンスに関するKPI(重要業績評価指標)としては(1)観光関連事業者のBCP整備率を70%以上(2)防災情報の多言語化整備率を90%以上(3)主力市場(南関東)以外の宿泊客の割合を24年度の28.5%から35%程度にまで引き上げる―を掲げた。BCP整備率に関しては「緊急連絡体制」「代替調達・代替要員の確保」「初動対応手順」の3要素を満たすものを、簡易BCPとして独自基準を設定し、事業者の大小にかかわらずBCP策定に取り組みやすいようにした。(1)、(2)については今年度中に現在の取り組み状況を把握すべく整備率を調査し、今後の進捗(しんちょく)指標作りに反映させる予定という。

 仙台声明にあるような、防災・危機管理と、観光事業への影響吸収とその回復の両面を意識した観光レジリエンスの取り組みは、各地で始まったばかりだ。自然災害等の影響を受けやすい観光産業が、地域経済への影響力を拡大している今、防災だけでなく、事業の回復力と継続性を高める意識は、全ての観光事業者、観光地に求められるものだ。自事業、自地域の取り組みをこの機会に見直し、再構築してみてはどうだろうか。

 【小林茉莉】

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