誰もが楽しめる旅を創る じゃらんリサーチセンター センター長 高橋佑司氏に聞く


じゃらんリサーチセンター センター長 高橋佑司氏

「アクトタンク」を標榜 人生に旅は不可欠

 地域に伴走する調査研究機関「じゃらんリサーチセンター(JRC)」は2026年4月、高橋佑司氏を新センター長に迎えた。「地域の『当たり前』を価値に変え、誰もが楽しめる旅を更に創っていきたい」と語る高橋氏に、就任の経緯から、若者向けプロジェクト、地域観光の課題まで聞いた。

 ――まず、ご経歴と今のお立場について教えてください。

 「リクルートに入社したのは、私の地元である東京下町のまだ知られていない魅力を多くの人に伝えたい、当時閑散としていた目の前の隅田川に賑わいをつくりたいという想いからでした。リクルートが得意とするマッチングの力と人を動かす仕組みを学び、地域に貢献したかったのです。最初は『ホットペッパーグルメ』に所属し、神楽坂エリアを担当。飲食店の皆さまと食の魅力訴求による集客に取り組みました。転機は2011年。地元の墨田区観光協会へ出向し、東京スカイツリー開業前後の観光振興に最前線で携わりました。ここで地域の方々と共に悩み、楽しみ、動くということの大切さを学びました。2013年よりJRCに在籍し、首都圏や関西エリアの皆さまと様々な事業を実施してきました。また、京都観光振興計画マネジメント会議等の各自治体の委員も務めましたが、一貫しているのは現場主義です」

 ――前任の沢登次彦氏は2007年からセンター長を務められていました。引き継ぐプレッシャーはありましたか。

 「10年以上JRCで一緒に事業を進めてきましたので、そこまでプレッシャーはありません。私たちが掲げるのは、単なるシンクタンクではなく、実践を重んじる『アクトタンク』です。どんなに素晴らしいデータや調査研究も、現場の施策としてカタチにならなければ意味がない。『現場で本当に使える調査データや研究結果を提供する』という姿勢は引き継いでいきます」

 ――温泉文化を未来に継承していく取り組みとして「ONSEN BATONプロジェクト」を始めたとのことですね。

 「2025年の冬からスタートしました。20代の温泉への関心が低下する中、若者自身の目線で温泉の価値を再定義し、そのノウハウを地域に提供するプロジェクトです。若年層向けレジャー体験予約サイト『マジ部』に登録している学生を中心にプロジェクトメンバーを募り、あわら、伊香保、猪苗代、花巻の4温泉地に学生が宿泊し、企画提案を行いました。花巻温泉郷では、学生考案により地域の魅力を紹介した『花巻湯めぐり愛すごろく』が生まれ、今年7月から貸し出しが始まっています」

 ――プロジェクトを通じて、具体的にどのような発見がありましたか。

 「温泉単体ではなく『周辺の観光資源との掛け合わせ』が重要だという発見もありました。あわら温泉のワークショップでは、魅力のある足湯があっても『歩く道中に何もないように感じて寂しい』という意見が出ました。宿が点在するエリアでは、点と点をつなぐ仕掛けが不可欠です。 さらに驚いたのは、『畳のある旅館に入ったことがない』という学生が多かったこと。都会暮らしの若者にとっては、引き戸をガラガラと開ける音や木造建築の佇まい自体が『エモくて新鮮!』と映るのです。私たちが当たり前とスルーしていた日常こそ、若者には唯一無二のエンターテインメントになる。ここには大きな伸び代があります」

 ――国内旅行の需要全体についてはどう見ていますか。

 「インバウンドの活況に対し、国内の観光を目的とした宿泊旅行実施率は20年前の65%から、2025年度にはと、直近3年は5割を切っています。人口減少率よりも減少幅が大きい。私はこれを課題と捉えています。データを分析すると、最も減少幅が大きいのは実は『シニア層』でした。雇用延長や家族の介護、ペットの家族化が影響しています。また、年収による二極化も顕著です。世帯年収400万円未満の層の実施率が約40%にとどまる一方、1千万円以上の層は70%を超えています。私は、旅を一部の人だけの贅沢品にしてはいけないと考えています。誰もが常を離れて旅行できる文化をどう作るか。あらゆる人が『人生に旅は不可欠だ』と思える豊かな社会をつくりたい。これが私の抱負です」

 ――長年、全国各地の観光振興に携わってきた中で感じる課題は何でしょうか。

 「最も大事なのは『自分たちがこの地域を牽引していくのだ』という地域側の強い覚悟です。『専門家からアドバイスをもらえれば何とかなる』という受け身姿勢では、地域は変わりません。だからこそ、私たちは取り組む地域の方々とは『一緒に汗を流す覚悟』を最も大切にしています。主役は地域の方々です。また、観光地経営においてはDMOなどの組織が地域のネットワークの『ハブ』になり、地域が目指す未来のベクトルを地域内で揃えること。そして地域の顔として観光を通じた地域づくりを牽引していくことが大切です」

 ――最後に、全国の観光行政・自治体へのメッセージをお願いします。

 「旅行需要を力強く底上げすること、観光によって地域が豊かになる取組みに伴走すること。この2つの軸に取り組んでいきます。 同時に、私たちの調査研究の最新成果を、これまで以上に分かりやすく、現場で今すぐ使える形でお届けしていきます。研究冊子『とーりまかし』やセミナー、ウェブサイトを通じ、常に皆様の身近な武器であり続けます。 日本の観光には、まだまだ眠っている価値がたくさんあります。地域の『当たり前』を価値に変え、誰もが旅を楽しめる未来を創っていきたいです。」

 

高橋 佑司氏(たかはし・ゆうじ)氏 じゃらんリサーチセンター(JRC)センター長。観光に関する研究冊子『とーりまかし』編集長。東京都墨田区出身。2006年リクルート入社。13年じゃらんリサーチセンター所属。23年同地域創造部部長。26年4月から現職。

【kankokeizai.con 編集長 江口英一】

 
 

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