駐日スペイン大使 イニゴ・デ・パラシオ・エスパーニャ閣下
スペイン大使館観光部は6月23日、東京・白金台の八芳園で「第1回 Spain Talks: Caring for the Future ~未来を思い描く~」を開催した。Turespaña(スペイン観光推進局)が2024年より世界各地で展開する国際カンファレンス「Spain Talks」のアジア初開催。日本およびスペインの観光業界の専門家や行政関係者が一堂に会し、持続可能な観光のあり方について多角的な議論が交わされた。
当日は午前9時から午後2時まで、日本語・スペイン語の同時通訳のもと、基調講演・3つのセッション・表彰式・ネットワーキングランチという構成でプログラムが進行した。約100名が参加した。
「これは偶然ではない」——なぜ今、東京で
開会にあたり、駐日スペイン大使のイニゴ・デ・パラシオ・エスパーニャ氏が登壇。スペイントークスの東京・アジア初開催を「偶然ではない」と位置づけた。
「観光業は世界でも第一の産業になりつつある」と大使は述べた。観光収入は11.6兆ドルの収入を創出し、雇用創出においても世界経済を支える基幹産業として成長し続けているとの認識が示された。
スペインはその観光業において世界的なリーダーの地位にある。宿泊数や観光客数いずれの指標でも世界最高水準を維持し、50年以上にわたりトップクラスの地位を占めてきた。かつて4100万人だった観光客数は近々1億人の達成が見込まれる水準にまで拡大している。
一方、日本の伸びはスペインをも上回る。この15年間で約500万人から4270万人へと急増し、成長率においてスペインを凌駕。スペイン観光推進局の責任者は「日本は現在、世界で最もホットな観光地」と評した。
統計上の予測としては、2026年には世界全体で52億人の旅行者が達成できるとされており、日本市場がその成長を牽引するとの見通しも示された。
「旅行は豊かさ、仕事、知識の開拓にある」——成長の光と影
急拡大する観光需要に歓迎の声が上がる一方、深刻な課題も提起された。
駐日スペイン大使はオーバーツーリズムの問題に言及し、「地域や地域の中で強い圧力を受けた時代がある。それについては悲しみなく話す必要がある」と率直に語った。観光地の住民からの反発、政治的な摩擦、新興観光地における管理の難しさ——こうした現実が正面から議論の俎上に載せられた。
「旅行は旅行を拒否することではない。逆に、旅行は豊かさ、仕事、知識の開拓にあるものだ。問題はより良い行動を行うことだ」とも述べた。訪問者を単に増やすことを目標とするのではなく、住民の生活を守り、地域の利益を確保し、訪問者と受け入れる側の双方が豊かになる観光のあり方こそが求められるという主張だ。
スペイン観光推進局の担当者は、日本についても同様の視点から「訪問者の集中、住居環境、住民との交流、他の地域への利益を広げる必要がある」と指摘した。
観光の成長を管理するための施策として、環境配慮、社会経済的な分散、サステナビリティある観光の促進など、複合的な公共政策の実施が不可欠との認識が共有された。スペイン政府の観光担当局は「適切な公共政策・観光政策を実施することによってマイナスの影響を抑える努力をしようとしている」との方針を改めて確認した。
パンデミックが示した国際的な連帯の価値
議論の中では、新型コロナウイルスの世界的流行(パンデミック)が国際観光に与えた影響も振り返られた。
「パンデミックの難しい年々において、国際的な価値が強化された」と大使は述べた。困難な時期を経て国際旅行の価値は見直され、単なる消費行動としてではなく、文化的・社会的な結びつきの手段としての旅の意義が再認識されたという。
ただし、「この改善は単に以前の状態に戻ることではない。私たちは未来をより考えることを求める」とも強調した。回復をそのまま過去のモデルに乗せるのではなく、持続可能な方向へとアップデートしていくことが、両国共通の課題として提示された。
航空運賃やエネルギー問題が旅行者の信頼に影響を与えているとの指摘もなされた。こうした状況のなか、日本とスペインをつなぐコネクティビティの価値が改めて強調された。「アジアとヨーロッパの端と端に位置する日本とスペインの間の直接的な連携は、特に利益をもたらすものだ」との見解が示された。
「コネクティビダ」——スペインが仕掛ける日本戦略
スペイン側が日本市場向けに展開する観光促進戦略として、「コネクティビダ」が紹介された。1年半前に発表されたこの戦略は、文化的な親近性、社会的な紐帯、スペインの食・芸術・遺産・体験の質といった強みを軸に、日本人旅行者の誘致を本格的に推進するものだ。
「スペインは日本人旅行者にとって、財産(パティモニオ)、食(ガストロノミア)、芸術(アルテ)、本物の体験(オーテンティシダッド)、体験の質(カリダッド・デ・ラ・エクスペリエンシア)といった多くの魅力を持つ」と説明された。
スペイン側は、こうした魅力の潜在力を最大限に引き出すためには「より直接的で、より安定した、より競争力のある航空ネットワークの実装が必要だ」との立場を明確にした。日本の航空関係機関がこの課題に取り組んでいくことが表明され、イベリア航空の日本発着便の確保に向けた意欲も示された。
「スペインという国は、魅力的な観光地であり続けるだけでなく、パートナーと対話を重ねながら責任ある観光運営を行う国としても位置づけられたい」との言葉も登壇者から発せられた。
基調講演から3つのセッションへ
プログラムは開会挨拶ののち、基調講演へと続いた。株式会社アクセス・オールエリア代表取締役の浜田岳文氏が「なぜ人は、一皿のために旅をするのか~スペインと日本に見るサステナブルツーリズムの可能性~」と題して講演。日本を代表する美食家として知られる同氏が、ガストロノミーと旅の視点から両国における観光とサステナビリティの課題と可能性を語った。
セッション1「国家観光戦略(行政)」では、観光庁国際観光部長の中野岳史氏とスペイン観光推進局総局長のミゲル・サンス氏が登壇。行政の立場から両国の観光政策の現状と今後の方向性が議論された。
セッション2「ベストプラクティス(オーバーツーリズム対策および新興観光地)」には、京都市観光政策監の西山真司氏、一般社団法人岐阜県観光連盟事務局長兼統括事業部長の加藤英彦氏、ラ・リオハ州政府観光・地域振興総局のビルヒニア・ボルヘス氏、カタルーニャ州政府観光局アジア・パシフィックディレクターのラウル・ゲラ氏が参加。各地の先進事例や実践的な経験が共有され、オーバーツーリズムに直面する地域が責任ある成長に向けてどのような戦略を構築できるかが考察された。
セッション3「観光における体験およびベストプラクティス(観光業界)」では、日本旅行業協会理事長の蝦名邦晴氏とスペイン観光庁観光担当国務長官室顧問のイネス・クレスポ氏が登壇。業界の立場から持続可能な観光の実践について意見交換が行われた。
3つのセッションはそれぞれ「行政」「デスティネーション」「旅行産業」という異なる視点から構成されており、観光政策、地域との共生、業界の役割など、これからの観光に求められる実践的な論点が多角的に掘り下げられた。
Spain Talks Awards——持続可能なスペインを伝えたメディアを称える
イベントの締めくくりには「Spain Talks Awards」の表彰式が行われた。日本国内においてスペインを「サステナビリティに真摯に取り組むデスティネーション」として発信し、その認知向上に貢献したメディアおよびコンテンツクリエイターなどの功績を称えるアワードだ。
両国の「グッドプラクティス」共有へ
閉会にあたり、登壇者は今後の協力体制への期待を示した。
「それぞれの国からの良い教訓を学んで、オーバーツーリズムの問題と新興市場の開発の問題についてお互いに教訓を交換していかなければならない」とスペイン観光推進局の担当者は述べた。「どのような効果的な政策が取られてきたか、そして双方のグッドプラクティスが共有されることを期待する」とも語った。
駐日スペイン大使も「スペインはさまざまな経験を日本とのコラボレーションに提供できる。日本は、世界で経済の優等へのサービスに関わるような素晴らしい文化を提供できる国だ。2つの国が共に必要なことを共有することができる」と述べ、両国の協力の意義を強調した。
今回のイベントには決定事項として、東京でのスペイントークス開催を通じた日本とスペインの観光交流強化、持続可能な観光運営の推進、航空ネットワークの安定化と競争力強化、オーバーツーリズム対策に関する両国の知見共有、公共政策の適切な実施によるマイナス影響の抑制、地域の多様性や文化的価値の保護を重視した観光業の成長支援が盛り込まれた。
今後は交流イベントやパネルディスカッションを通じて、具体的な施策や成功事例のさらなる共有が図られる見通し。日本とスペインの間の夜間航空便の安定的かつ競争力のあるネットワーク実装に向けた具体的計画の策定も今後の課題として挙げられた。
今回のSpain Talksを主催した駐日スペイン大使館観光部の観光参事官、エンリケ・ルイス氏は国際観光分野で約30年の経験を持つ。スペイン観光推進局の北東アジア地域統括責任者を兼任し、グローバルマーケティング責任者、ベルリン・ブラジル・シンガポール・ロンドンにおけるスペイン政府観光局長を歴任した国際観光の専門家だ。

駐日スペイン大使館観光参事官 エンリケ・ルイス氏
【kankokeizai.com 編集長 江口英一】




