全国で広がる「宿泊税」を、四要素・動的モデルで読み解く ― 現場で働く私たちが、街の未来を見通すために ― 北村剛史


北村

北村氏

はじめに

 全国のホテル・旅館の現場で働く皆さんにとって、「宿泊税」は、すでに身近な制度になりつつあります。フロントでは、お客様への説明が必要になります。予約サイトや旅行会社における表示方法を確認し、会計システムを変更し、特別徴収義務者として、徴収した税を自治体へ申告・納入しなければなりません。都道府県と市町村の宿泊税が併存する地域では、それぞれの制度の違いを正確に理解する必要もあります。

 現場から見れば、宿泊税は新たな事務負担です。しかし、少し視点を広げてみると、宿泊税は単なる税金ではありません。その街にどれほど多くの人が訪れているのか。観光客の増加によって、交通、清掃、景観、文化財、自然環境、住民生活などに、どのような負担が生じているのか。そして、その街が将来に向けて、どのような観光地になろうとしているのか。宿泊税の制度には、そうした街の現在地と将来への意思が表れています。

 近年、宿泊税を導入する自治体は急速に増えています。従来から制度を運用してきた東京都、大阪府、福岡県、京都市、金沢市、福岡市、北九州市、長崎市、倶知安町などに加え、2026年から2027年にかけて、北海道、宮城県、広島県、長野県、沖縄県をはじめ、多くの都道府県や市町村で導入または制度改定が予定されています。

 同じ「宿泊税」でありながら、税額も課税方法も地域ごとに大きく異なります。定額制もあれば定率制もあり、税率の階層数や上限額も自治体ごとに違います。都道府県税と市町村税を併課する地域もあれば、単独で制度を設ける地域もあります。

 なぜ、地域によってこれほど制度が違うのでしょうか。

 その違いを整理し、地域の背景を読み解くための一つの視点が、株式会社日本ホテルアプレイザルが、ホテル評価と地域分析の実務経験から体系化した「四要素・動的モデル」です。弊社では、宿泊税を導入している、または導入を予定している自治体を対象に、このモデルを用いた実務的な整理を行いました。その結果、地域ごとの制度の違いは、需要と受入能力の組み合わせによって、いくつかの類型に整理できることが見えてきました。

 

 なお、本稿は、宿泊業の現場に向けた実務的な分析枠組みを示すものであり、四要素・動的モデルについて、統計的な因果関係がすでに確立されていると主張するものではありません。モデルの妥当性と適用範囲については、今後、地域別の実データを用いて継続的に検証していく必要があります。その一方で、全国で異なる宿泊税制度の背景を整理し、自分の働く地域の現在地と将来を考えるための補助線として、このモデルは有効な視点を提供します。

 

1.四要素・動的モデルとは何か

 都市や地域の構造をどのように捉えるかについては、これまでも、同心円モデル、セクターモデル、多核心モデル、中心地理論、経済基盤分析など、さまざまな理論が積み重ねられてきました。四要素・動的モデルは、こうした先行研究の考え方に学びながら、人口減少、観光需要の拡大、空き家・空きビルの増加、都市機能の更新といった、現在の日本が直面する変化を、宿泊業の実務の目線から捉え直そうとする枠組みです。

 四要素・動的モデルでは、都市や地域の将来価値を、次の構造で捉えます。

都市の将来価値=(基礎需要+外部流入需要+回遊・滞在需要)×土地利用転換力

 

 基礎需要とは、その街で暮らし、働く人々によって生まれる需要です。人口、世帯数、雇用、所得、企業活動、医療、教育、行政機能、日常的な買い物や飲食などが含まれます。観光客が来ない日でも存在する、地域社会そのものが生み出す需要といえます。

 

 外部流入需要とは、街の外から訪れる人々によって生まれる需要です。観光客、訪日外国人、出張者、学会や大会の参加者、イベント来場者、帰省客など、ホテル・旅館が日々迎えているお客様が中心になります。人口が減少している地域であっても、外部から人を呼び込むことができれば、新たな需要を生み出すことができます。

 

 回遊・滞在需要とは、訪れた人が街の中をどれだけ歩き、食事をし、買い物をし、体験し、宿泊し、連泊するかという需要です。来訪者数が多くても、短時間で通過するだけでは、地域に残る経済効果は限定的です。反対に、来訪者が地域の複数の場所を訪れ、食事や買い物、文化体験を楽しみ、宿泊日数を延ばせば、同じ来訪者数でも、地域に残る価値は大きくなります。

 

 土地利用転換力とは、需要の変化に合わせて、街の空間や建物の使い方を変えられる力です。空きビルをホテルや店舗に転換できるか、古い旅館や歴史的建築物を再生できるか、駅前や中心市街地を更新できるか、景観や文化を守りながら新しい都市機能を導入できるか。さらに、従業員住宅、交通、飲食、観光施設、公共空間などを、需要の変化に合わせて整えられるかどうかも、この力に含まれます。

 

 このモデルの実務的な特徴は、最初の三要素が足し算であるのに対し、土地利用転換力だけが掛け算として位置づけられていることです。これは数学的必然を主張するものではなく、実務の観察から導かれた考え方です。

 

 観光客が増え、宿泊需要が高まっても、泊まる場所、食事をする場所、移動する手段、働く人の住まいなどが十分に用意されなければ、需要を地域の価値へ変えることはできません。需要を受け止める空間や機能がなければ、需要は地域を通過し、価値として定着しないのです。需要が増えることと、その需要を街の豊かさへ転換できることは、同じではありません。

 また、このモデルでは、一つの要素だけが突出すればよいとは考えません。外部流入需要が強くても、回遊・滞在需要が弱ければ、来訪者は地域を通過するだけになります。回遊・滞在需要があっても、土地利用転換力が低ければ、宿泊施設、店舗、交通、人材供給が追いつきません。二つ以上の要素が連動し、それを土地利用転換力が受け止めたとき、初めて持続的な地域価値へつながります。

 

2.宿泊税は、街の成長と負担の顕在化によって現れる

 宿泊税は、観光客が増えたからといって、直ちに導入されるものではありません。また、必ずしも地域の成長だけを示す制度でもありません。観光需要の拡大や高度化によって、それまで見えにくかった地域の負担や、維持すべき観光資源の存在が顕在化したときに検討される制度でもあります。

 外部流入需要が拡大すると、宿泊施設の稼働率や売上が上昇する一方で、公共交通の混雑、道路の渋滞、ごみ処理、観光案内、多言語対応、文化財や自然環境の保全、災害時対応、住民生活との摩擦など、新たな行政需要も生まれます。さらに、宿泊施設で働く人の不足、従業員住宅の不足、タクシーやバスの供給不足、飲食店の混雑など、地域の受入能力に関わる問題も表面化します。

 その負担が既存の財源だけでは支えにくくなったとき、来訪者にも一定の負担を求め、その財源を観光地の維持と改善に充てる仕組みとして、宿泊税が検討されます。

 もっとも、宿泊税の導入や税率の設計には、地域の政治的な合意形成、他の観光振興財源との関係、入湯税との調整、宿泊事業者や住民との対話、徴収事務の負担、国や都道府県の観光政策、近隣自治体との比較など、需要と受入能力以外の多くの要因も関わります。宿泊税の姿は、四要素だけで決まるものではありません。

 それでも、地域ごとに異なる宿泊税の姿を整理し、その背景を実務的に読み解く際、四要素・動的モデルは有効な補助線になります。四要素・動的モデルで見れば、宿泊税の導入は、外部流入需要の増加が、回遊・滞在環境や土地利用転換力に影響を与え始めたことを示す、一つのサインと捉えることができます。

 

3.全国の宿泊税を、四要素で類型化する

 宿泊税を導入している、または導入を予定している自治体を四要素・動的モデルで整理すると、地域ごとの制度の違いは、需要と受入能力の組み合わせによって、概ね五つの類型に分けて考えることができます。

 第一は、需要が極めて強く、土地利用転換力に厳しい制約がある地域です。京都市や、大都市として強い需要を持ちながら、既存市街地の構造や各種規制の影響を受ける地域がこれに該当します。この類型では、外部流入需要と回遊・滞在需要がともに強い一方で、新しい施設の建設や用途転換には制約があります。そのため、宿泊料金に応じて税額を細かく分ける多段階の定額制や、高価格帯の需要を捉えやすい制度が採用されやすくなります。

 第二は、国際的な観光需要が急速に拡大している一方で、地域基盤の整備が追いついていない地域です。北海道ニセコエリアの倶知安町などが代表例です。この類型では、外部流入需要が短期間で大きく伸び、宿泊単価も国際的な水準に近づく一方、従業員住宅、二次交通、除雪、環境保全など、地域を支える基盤への投資が課題になります。定率制は、宿泊価格帯の幅が大きい地域において、宿泊料金に応じた負担を求める方法として合理性を持ちます。

 第三は、県内に多様な観光資源が分散し、広域連携によって回遊・滞在を促す必要がある地域です。長野県、宮城県、広島県、沖縄県などがこの類型に近いと考えられます。この類型では、一つの都市の混雑問題というより、県全体としての受入環境整備、二次交通、情報発信、人材育成などが課題になります。都道府県税として比較的広く薄く負担を求めながら、市町村税との調整を行う制度設計が採られやすくなります。

 第四は、温泉、歴史街並み、湖畔、山岳、リゾートなど、特定の観光資源に強く支えられている成熟観光地です。熱海市、高山市、下呂市、鳥羽市、湯河原町、松江市、那須町などがこの類型に近いと考えられます。この類型では、外部流入需要は一定程度確立している一方、人口減少によって基礎需要が縮小し、観光資源や既存施設の維持・更新が重要な課題になります。入湯税との関係に配慮しながら、比較的低額の定額制や段階的な導入が選択されることが多くなります。

 第五は、基礎需要が強く、外部流入需要も多層的な総合都市です。東京都、大阪府、福岡県、福岡市、北九州市、仙台市、熊本市、宮崎市、岐阜市などがこの類型に近いと考えられます。この類型では、観光だけでなく、ビジネス出張、MICE、教育、医療、イベントなど、複合的な外部流入需要が存在します。土地利用転換力も他の類型に比べれば相対的に高い場合が多く、複数の価格帯に対応した定額制や、都道府県税と市町村税を組み合わせた制度になりやすい特徴があります。

 これらの類型は、明確に線を引けるものではありません。実際の地域は、複数の類型の特徴を併せ持つことがあります。しかし、四要素・動的モデルで整理することで、それぞれの宿泊税制度が、その地域のどの需要の強さや、どの受入能力の制約に対応しようとしているのかが見えやすくなります。

 

4.類型を代表する三つの事例

京都市――需要の大きさと、都市の受入容量との調整

 京都市は、世界的に高い知名度を持ち、外部流入需要と回遊・滞在需要が非常に強い都市です。一方、歴史的景観や文化財を守るため、建物の高さ、外観、用途などにさまざまな配慮が求められます。ホテル、店舗、交通施設などを、需要の増加に合わせて無制限に拡大できる都市ではありません。これは、需要が極めて大きい一方で、土地利用転換力には一定の制約がある状態です。

 京都市は2026年3月から宿泊税を見直し、宿泊料金に応じて、200円、400円、1,000円、4,000円、1万円という五段階の税額を設定しました。税収は、観光の推進だけでなく、市民生活と観光の調和・両立にも活用するとされています。

 この制度は、観光客を一律に抑制するものというより、宿泊料金に応じた負担を求めながら、都市の受入環境を維持するための財源を確保する仕組みと考えられます。四要素・動的モデルで見れば、強い外部流入需要によって生じた負担を、交通、景観、文化、市民生活、観光環境などへ再投資する制度と読むことができます。

 土地利用転換力に制約があるからこそ、新しい施設を増やすだけではなく、既存の街をより丁寧に使い、価値を高める必要があります。

 

倶知安町――国際リゾートの価格構造に対応する定率制

 北海道ニセコエリアの倶知安町では、宿泊料金に一定割合を掛ける定率制が採用されています。2026年4月からは、北海道の宿泊税導入に合わせ、倶知安町が北海道宿泊税を代理徴収する「町道宿泊税」の仕組みが始まり、町宿泊税と北海道宿泊税を合算した宿泊者の負担額が、宿泊料金の3%に統一されています。

 定率制の特徴は、宿泊料金が高くなるほど税額も増えることです。高額なホテル、コンドミニアム、長期滞在型施設などが多い国際リゾートでは、宿泊商品の価格帯が幅広く、定額制よりも定率制の方が、市場構造や宿泊者の負担能力に対応しやすい面があります。

 四要素・動的モデルで考えると、倶知安町は、外部流入需要が急速に拡大する一方、宿泊施設、従業員住宅、交通、除雪、環境保全など、地域を支える基盤への投資が求められている地域です。外部流入需要だけが強くなり、従業員住宅や交通、地域サービスが追いつかなければ、地域全体の持続可能性は損なわれます。

 ここでは、宿泊税は需要を抑えるためだけの仕組みではなく、外部流入需要によって生まれた価値の一部を、土地利用転換力や地域基盤へ戻し、国際リゾートとしての成長を地域の持続可能性につなげるための財源と位置づけることができます。

 

長野県――広域観光を支える基盤づくり

 長野県は、市町村をまたいで、山岳、高原、温泉、スキー、歴史文化など、多様な観光資源が分布する地域です。2026年6月から導入された長野県の宿泊税は、原則として1人1泊300円ですが、制度開始後3年間は200円とされています。また、1人1泊当たりの宿泊料金が6,000円未満の場合は課税されません。独自の宿泊税を導入する一部の市町村では、県税額を調整し、市町村税との合計で徴収する仕組みが採られています。

 長野県の事例は、一つの都市の混雑問題だけを対象とするものではありません。県全体の観光資源の充実、旅行者の受入環境整備、人材確保、二次交通、情報発信など、広域的な課題に対応するための制度です。

 四要素・動的モデルで見れば、地域ごとに分散している外部流入需要をつなぎ、回遊・滞在需要へ転換するための投資と読むことができます。一つの観光地だけで旅行を完結させるのではなく、複数の地域を巡り、滞在日数を延ばしてもらう。そのための交通、情報、体験、観光人材、施設整備を充実させることが、宿泊税の重要な役割になります。

 

5.税額が低い、あるいは未導入だからといって、需要が弱いとは限らない

 宿泊税の税額だけを見て、地域の観光力や成長性を判断することはできません。税額が低い地域であっても、外部流入需要が弱いとは限りません。制度導入時の合意形成、宿泊事業者の事務負担、既存の入湯税との関係、都道府県と市町村の役割分担、地域の宿泊単価、徴収コスト、近隣自治体との比較など、さまざまな事情が税額に影響します。

 同様に、宿泊税を導入していない地域が、必ずしも観光客の少ない地域や、受入上の問題がない地域であるとは限りません。外部流入需要が増加していても、制度設計や地域内の合意形成が進んでいない場合があります。観光客が特定の季節や一部の場所に集中しているため、地域全体として税制化の必要性を共有しにくい場合もあります。また、観光客数は多くても、日帰り客が中心であり、宿泊税では十分な財源を確保できない地域もあります。

 したがって、四要素・動的モデルによる分析では、宿泊税の有無や税額だけで判断するのではなく、地域人口、雇用、所得などの基礎需要は安定しているか、観光客、訪日外国人、出張者などの外部流入需要は増えているか、来訪者は地域内を回遊し、食事、買い物、体験、連泊をしているか、需要の変化に合わせて建物、交通、観光施設、従業員住宅などを更新できているかを、合わせて確認する必要があります。

 この四つを重ねて見ることで、初めてその地域の現在地が見えてきます。

 

6.宿泊税は、四要素をつなぐ「再投資装置」である

 宿泊税を四要素・動的モデルで考えると、最も重要なのは、税を徴収することではなく、その税収を何に使うかです。

 宿泊税収を、観光案内、多言語対応、公共交通、歩行環境、文化財保全、自然環境保護、人材育成、施設改修、災害対応、観光DXなどに活用すれば、回遊・滞在需要や土地利用転換力を高めることができます。

 例えば、駅や空港から観光地までの移動を改善すれば、旅行者の行動範囲が広がります。地域内を結ぶ交通を充実させれば、一つの観光地点だけでなく、複数の地域を巡ってもらえるようになります。歴史的建築物や空きビルの改修を支援すれば、地域固有の宿泊施設、飲食店、文化施設として再生できる可能性があります。観光人材を育成すれば、サービス品質が高まり、再訪や長期滞在につながります。従業員住宅や働く環境を整備すれば、宿泊業や観光業を支える人材を地域に定着させることができます。

 この循環は、次のように表せます。

 外部流入需要の増加

→ 宿泊税収の増加

→ 交通・環境・文化・人材・施設への再投資

→ 回遊・滞在需要と土地利用転換力の向上

→ 地域価値の向上

 

 したがって、宿泊税は、土地利用転換力の限界を示すだけの制度ではありません。外部から訪れる人によって生まれた価値の一部を地域へ戻し、次の価値を生み出すための、都市・地域の再投資装置と位置づけることができます。

 そして、再投資された財源によって地域の受入環境が改善されれば、それが新たな外部流入需要や回遊・滞在需要を生み出します。宿泊税は、一度徴収して終わる制度ではなく、四要素をつなぎ、地域価値を循環的に高めるためのフィードバック機能を持つ制度と考えることができます。
 
 ただし、その機能が働くためには、少なくとも三つの条件が必要です。

 第一は、使途の透明性です。徴収した税収が、どの事業に、いくら、どのような目的で使われているのかが、旅行者、住民、宿泊事業者にとって分かる形で示されている必要があります。事業ごとの支出額、実施内容、成果指標、翌年度の使途計画などが明らかになっていなければ、宿泊税は「取られるだけの税」として受け止められかねません。

 第二は、使途の適切性です。宿泊税収が、その地域にとって本当に必要な四要素の強化に向けられているかが問われます。外部流入需要は十分にある一方、回遊・滞在需要や土地利用転換力が弱い地域で、税収の多くを追加の観光宣伝に使っても、地域のボトルネックは解消されません。反対に、まだ知名度が十分でない地域で、受入設備の維持だけに使っていては、外部流入需要を育てる機会を逃す可能性があります。地域の現在地に応じた使途設計が必要です。

 第三は、効果の検証です。宿泊者数、滞在日数、観光消費額、交通の利便性、住民満足度、事業者の実感など、複数の指標を用いて、税収によって地域がどのように変わったかを確認し、次年度以降の使途に反映していく必要があります。

 宿泊税の成否は、税額の高低ではなく、徴収した財源がどのように使われ、地域がどう変わったかによって判断されるべきです。

 

7.宿泊施設の現場だからこそ、見えることがある

 宿泊施設は、地域の変化を最も早く感じ取る場所の一つです。予約の時期が変わった。外国人のお客様が増えた。連泊が増えた。特定の曜日や季節だけ需要が集中するようになった。タクシーが不足している。夕食を食べる場所が足りない。従業員の住まいが確保できない。古い建物がホテルや飲食店へ変わり始めた。観光客は増えているのに、街中の店舗には人が流れていない。こうした現象は、四要素が動いている兆候と読むことができます。

 宿泊施設の現場で得られる情報は、単なる接客上の気づきではありません。地域の基礎需要、外部流入需要、回遊・滞在需要、土地利用転換力の変化を示す、重要な観測情報です。

 例えば、連泊率の上昇は、回遊・滞在需要が強まっている可能性を示します。タクシー不足や従業員住宅不足は、外部流入需要の増加に土地利用転換力や地域基盤が追いついていない兆候かもしれません。観光客が増えているにもかかわらず、飲食店や商店の売上につながっていないのであれば、外部流入需要を回遊・滞在需要へ転換できていない可能性があります。

 だからこそ、宿泊税を「徴収しなければならない面倒な税」として見るだけでは、もったいないのです。どのような宿泊者が負担しているのか。税収は何に使われているのか。導入後に、交通、案内、景観、観光施設、働く環境がどう変わったのか。現場で働く私たちが、その効果を確認し、必要な改善を伝えていくことが重要です。

 

8.自分の街を考えるための四つの問い

 自分が働く街の将来を考えるときは、次の四つの問いを立てることができます。

 第一に、地域の人口、雇用、所得、企業活動など、基礎需要はどのように変化しているでしょうか。

 第二に、観光客、訪日外国人、出張者、イベント参加者など、外部流入需要はどの程度増えているでしょうか。

 第三に、来訪者は街の中を回遊し、食事、買い物、体験、連泊をしているでしょうか。それとも、一部の観光地点だけを訪れ、地域を通過しているでしょうか。

 第四に、需要の変化に合わせて、空き建物、老朽施設、駅前、市街地、交通、従業員住宅などを更新できているでしょうか。

 そして、すでに宿泊税がある地域では、もう一つ問いを加える必要があります。

 宿泊税収は、四要素のどこを改善するために使われているのか。

 この問いを持つことで、税額の高低だけでは見えなかった、地域の課題と可能性が見えてきます。

 

9.今後に向けて――実データによる検証

 四要素・動的モデルは、ホテル評価、事業性分析、地域観察といった実務の蓄積から体系化された枠組みです。その妥当性と適用範囲については、今後、実データによって継続的に検証していく必要があります。

 具体的には、各都市や地域の人口、世帯数、雇用、所得、延べ宿泊者数、外国人宿泊者数、平均宿泊日数、観光消費額、地価、空き家率、用途変更件数、新規開業件数、宿泊税収などのデータを用いることが考えられます。

 これらのデータを時系列で比較することにより、四要素がどのように変動し、地価、雇用、観光消費、施設投資などの地域価値と、どのような関係にあるのかを分析できます。また、宿泊税の導入前後で、滞在日数、交通環境、観光消費、施設更新、住民満足度などがどのように変化したかを検証することも重要です。

 宿泊税を導入する自治体が増加している現在、自治体間で比較可能なデータも、今後さらに蓄積されていくと考えられます。実データによる検証を積み重ねることで、モデルはより精緻になり、地域分析、投資判断、観光政策、宿泊施設運営への応用力も高まっていくはずです。

 そして、宿泊業界の現場で得られる観察は、この検証を支える重要な情報源になります。統計だけでは見えない、お客様の行動、交通の不足、従業員住宅の問題、街中の人の流れなどを、現場は日々観察しています。

 現場と分析を往復させながら、モデルを継続的に磨き、地域の実務に役立つ道具へ育てていくことが、私たちの次の仕事です。

 

おわりに

 宿泊税は、観光客に負担を求めるだけの制度ではありません。その街にどれほど人が訪れ、どのような価値と負担が生まれ、将来に向けて何を整備しようとしているのかを示す、地域からのメッセージです。

 四要素・動的モデルを使えば、宿泊税の違いを、単なる制度や税額の違いとしてではなく、地域ごとに異なる需要と受入能力の関係として整理して読み解くことができます。需要が極めて強い一方で土地利用に制約がある地域、国際リゾートとして急拡大している地域、広域で観光資源を結ぶ必要がある地域、特定の観光資源に支えられた成熟観光地、基礎需要と多層的な外部流入需要を持つ総合都市。それぞれの地域に、それぞれの制度の背景があります。

 ただし、モデルは未来を自動的に予言するものではありません。四つの要素に関するデータと、宿泊施設の現場で起きている変化を重ね合わせ、地域の動きを考えるための道具です。

 宿泊税の導入は、その街が成長の限界に達したことだけを意味するものではありません。成長によって生まれた負担を調整し、次の成長へ向けた再投資を始めたことを示す場合もあります。

 大切なのは、税を取るか取らないかだけではありません。集めた税を、地域の未来へどのように戻すかです。そして、その使い道が地域の課題と本当に合致しているか、効果が現場で実感できるものになっているかを、問い続けることです。

 宿泊施設で働く私たちは、地域を訪れる人々の声と行動を、毎日、最も近い場所で見ています。その気づきを、街の将来を考える力へ変えていく。制度を、単なる負担として受け止めるのではなく、地域の変化を読み解く手掛かりとして捉え直す。そして、税収が地域のどこに還元され、どのような価値を生み出しているかを、現場から見続ける。四要素・動的モデルは、そのための共通言語になり得るのです。

株式会社日本ホテルアプレイザル代表取締役/株式会社サクラクオリティマネジメント代表取締役/一般社団法人宿泊施設関連協会副理事長 北村剛史

 
 

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