トラベルテクノロジーのグローバルカンファレンス「WiT Japan2026」が6月1・2日の2日間、ウェスティンホテル東京で開かれた。JTBの山北栄二郎社長も2日に登壇した。
山北社長は2日、WIT(ウェブ・イン・トラベル)創設者のヨー・シウフン氏によるインタビュー形式のセッション「AIとおもてなしの出会い──なぜAI時代においても旅行が重要なのか」に登壇。おもてなしの本質からJTBのグローバル戦略まで、幅広いテーマについて見解を語った。
おもてなしは「精神」、AIとの相乗効果に期待

山北社長はまず、「おもてなし」という言葉の定義について言及した。「おもてなしとは、作法でも行動でもない。それは精神、サービスの向こう側にある理念のようなもの」と説明。相手の状況や心を読み、先回りして満足させることがその本質だと述べた。
「まず空気を読む。これが重要な日本語のキーワード。その人によって、その人がどう反応するか、表情を読むということが重要だ」と語った。
続いて、AIとおもてなしの関係性について独自の見解を示した。「AIはデータを読む、あるいはシグナルを読むのが得意だ。おもてなしは雰囲気を読む。お互いに補完することができるのかもしれない。それが一緒になって相乗効果を上げられるか考えてみたい」と話した。
「おもてなしはなくならない」、DNAに刻まれた特性
AIの台頭、労働問題、高齢化社会が進む中で、おもてなしの精神が失われつつあるのではないかという問いに対し、山北社長は明確に否定した。
「おもてなしの精神を失っているとは思わない。AIやテクノロジーがそのホスピタリティ、日本のおもてなしを高めることができると思うから」と述べた。
若い世代がデバイスに費やす時間が増え、人と人のコミュニケーションが希薄になっていることへの懸念は認めつつも、「これは100%教育するものではなく、日本人の性質かもしれない。DNAに刻まれている特性なので、なくなることはない」と断言した。
その上で、「人間投資のインターフェース(人と人の物理的な関わり)がなくなっているということは、人と人の関係が重要だということ。それがJTBのビジョンだ」と語り、人と人の交流、実際の旅行やイベントの重要性を強調した。
2035年までに海外売上比率を14%から50%へ
山北社長はJTBの中長期ビジョン「オープンフロンティア2035」についても詳しく語った。現在、JTBの海外売上比率は14%、国内が86%。2035年までにこれを50%対50%とする目標を掲げていると明かした。
「今日本中心のJTBとしては大きな変化になる。おもてなしというコンセプトをグローバルに拡大する中で、このおもてなしをどのように活用するかが問われる」と語った。
そのビジョンの根底にあるのは、AIが顧客インターフェースを支配する時代という認識だ。「AIがあって、AIが支配的なお客様のインターフェースになる。全てのプロセス、この旅行業界の処理の中でAIが実装されてくると思っている。AIなしにもう未来を語ることはできない」と述べた。
デスティネーションサービスに三本柱
AI時代においてJTBがフォーカスするのが「デスティネーションサービス」だと山北社長は強調した。「ただ単にお客様を獲得するだけではない。AIはこの部分が得意。お客様とのインターフェースを作るのは得意だが、価値を作るのはデスティネーションだ」と語った。
グローバル展開に向けては三つの柱を示した。
一つ目は「デスティネーションマネジメント」。世界中の観光地におけるサービス開発で、特に団体旅行のサービスに力を入れる方針だ。「団体旅行は非常に複雑で、本当の実際の人と人のインターフェース、グループの中での人の思考が違うのでコミュニケーションが重要だ。AIは一対一のコミュニケーションは得意だが、人間は多くの人とコミュニケーションを取ることができる」と説明した。
二つ目は「MICEイベント・カンファレンス」。「感動を受ける瞬間、完璧な瞬間というのが私たちのキーワードで、ミーティングでの出会いを支える」と述べた。
三つ目は「コンテンツビジネス(IP)」。スポーツやエンターテインメントを軸に、「ライブイベント、スポーツ中心、エンターテインメント中心のライブとデスティネーションサービスの強化で美しいプロダクトを作り、コミュニティトラベルを盛んにする」という方針を示した。
「デスティネーションマネジメントのルネサンス」
かつて旅行業界の中心的存在だったデスティネーションマネジメント(DMC)が一時衰退し、また再び注目されていることについて、山北社長は「トラベルのルネサンスだと思う。ただ、異なる方法で」と語った。
「昔はインターネットがなかった時代。予約を取るとか、そういったドメスティックなアレンジを提供していた。でも今は予約なんかはテクノロジーでできるようになった。だから、実際のインターフェースがもっと大事だ。物理的な人間と人間のインターフェースということだ」と述べた。
アウトバウンド苦戦の原因はプロモーション不足、AIで補完へ
日本のアウトバウンドビジネスが苦戦している現状についても触れ、「人は興味をデスティネーションに対して少し失っているような状況だ。それは一部私たちの理由でもあるかもしれない。情報をきちんと提供できていない」と認めた。
特に日本人が海外デスティネーションの魅力を発信することへの課題を指摘。「日本人の表現が難しいところ、あまり得意ではないところを、AIがサポートすることができる。より個々のニーズに合わせて魅力を訴えかけることができる。そうすることによって、また日本人は旅行に戻ってくると思う」と話した。
従来のステレオタイプなプロモーションへの反省も口にした。「ステレオタイプのプロモーションが行われ、私たちはプロモーションに大きな金額を投資してきた。ただ十分ではなかった。もっとスタートアップやパーソナライズコンテンツ中心の価値中心のプロモーションをするべきだ」と述べた。
スタートアップとの連携やインキュベーションにも触れ、「イノベーションセンターがある。スタートアップとも連携をしている。また、企業データ分析が得意なところとジョイントベンチャーを作ってコンテンツを作り、エンターテインメントを使って新しいコンテンツを作っている」と現状を紹介した。
旅行の次の時代は「感じること」
旅行体験の変遷についても独自の見解を示した。「旅行がまず見るということが最初の時代だったとしたら、今は体験の時代だ。次の時代は感じることだと思う。精神的な部分がキーワードになってくる」と語った。
「体験という意味でも、感じることが新しいものになってくる。見て、アクションをするということではなくて、状況を感じるとか、いい気持ちになるということだ。やはり、おもてなしから来ている」と結んだ。
「日本はもっと論理的に、表現をうまく」
セッションの最後に、日本が変わるべき点について問われた山北社長は、「もっと論理的になるべきだと思っている。AIのサポートがあり、日本はもっと論理的に、そして表現をもっとうまくできると思う。そこが日本の弱点だ」と語った。
また、「AIの時代の未来が来て、人はやはり人でありたいと思う。そこには日本が貢献できるところがある」と述べ、日本の精神的な調和や伝統と未来志向のバランスを世界に発信していく意義を強調した。
セッションの締めくくり、「自分のアバターに持ってほしい唯一の超能力は何か」と問われた山北社長は、「常に人を幸せにできる。戦時中であっても、人を笑顔にすることができる──それを超能力として欲しい」と答えた。

【kankokeizai.com 編集長 江口英一】




