写真左から、山田、ゲレイロ、ロドリゲス、牧野の各氏
ブッキング・ドットコム・ジャパン株式会社は6月2日、「AI×世界中3.7億件のレビューから読み解く、地域観光の新たな可能性とは」と題したイベントを東京都内で開催した。観光カリスマとして知られる山田桂一郎氏(JTIC.SWISS代表、和歌山大学客員教授)と、メタ観光を推進する牧野友衛氏(一般社団法人メタ観光推進機構代表理事)をゲストに迎え、データやテクノロジーを活用して、まだ知られていない価値ある日本の地域へ旅行者をどう誘致できるかを議論した。
高山、奄美、野沢温泉——ゴールデンルートに非ずとも世界が認める地域の魅力

イベントの冒頭、Booking.com日本代表のルイス・ロドリゲス氏が登壇し、世界中の旅行者から寄せられた3.7億件を超えるクチコミをもとに、卓越したホスピタリティを一貫して提供しているパートナーを表彰する「Traveller Review Awards」を紹介した。
合わせて、今年2月に発表した「2026年の日本で最も居心地の良い都市10選」も取り上げた。ロドリゲス氏は「10選に選ばれている高山、奄美、野沢温泉、由布などは、いわゆる東京・京都・大阪の都市を結ぶゴールデンルートではないですが、世界の旅行者から非常に高い評価を得ています」と説明。定番の観光地を巡る旅から、その土地ならではの体験や地域コミュニティとの深いつながりを求める旅へと、旅行者のニーズが明確に変化している現状を指摘した。
「日本への注目度は世界で突出」——東京・大阪以外への分散が急務

続いて、Booking.com北・南アジア地区リージョナルディレクター アジア太平洋地域代表のヌノ・ゲレイロ氏が登壇。アジア太平洋地域の成長ぶりを示した。
「アジアは、Booking.comにとって世界で最も成長が著しい市場であり、航空券、レンタカー、体験型観光などあらゆる分野で昨年比で2桁の成長を記録しています。特に日本の注目度は世界で突出しています。外国人旅行者が『次に訪れたい場所』を検索した際、世界の上位検索都市に同じ国から2つの都市(東京と大阪)が同時にランクインしている国は、世界のどこを見ても日本以外にありません」と強調した。
その上でゲレイロ氏は、「2030年までに訪日客6,000万人という目標がある中で、東京や大阪以外の地域へどうやって旅行者を分散させるかが課題。Booking.comは、テクノロジーを活用してこの地方分散をサポートしたい」と述べた。
旅行者が求めるものの変化にも言及。「旅行者は単なる観光だけでなく、地方での伝統的なワークショップなど『本物の体験(オーセンティックな体験)』を求めています。テクノロジーは恐れるものではなく、日本の地方にある小さなビジネスと、世界中の旅行者を結びつける力を持っています」と語った。
「100万人×1カ所」から「1万人×100カ所」へ——メタ観光が描く新たな地域の可能性

その後、牧野友衛氏とゲレイロ氏によるパネルディスカッション「データ×AIで探る地域の魅力」が行われた。
牧野氏はまず「メタ観光」の概念について説明した。「これまでの観光は、Googleマップや電話帳に載るホテルやレストランなど、一般的な施設が中心でしたが、SNSやスマートフォンの普及により、人々の関心は多様化しています。アニメの聖地、ドラマの舞台や古い建築など、従来の観光では捉えきれなかった多様な魅力が地域に存在しており、それを情報として楽しむのが『メタ観光』です」と解説。
さらに牧野氏は「100万人が集まる巨大な観光地がなくても、1万人が集まる魅力的な場所が100カ所あれば、多くの人を集めることができます」と述べ、ニッチな魅力を集積することの重要性を訴えた。
質の高い口コミがAIの最適な提案を生む——「アナログな経験がデジタルの源泉」
ゲレイロ氏が「AI機能を使い、ゲストが自分たちに関連する適切な体験や目的地を見つけられるようにしたいが、そのためには、具体的に口コミデータなどをどのように活用できるでしょうか?」と問いかけたのに対し、牧野氏はこう答えた。
「旅行を考える上でAIの活用は必須になるが、AIが正しい回答を出すためには、質の高いデータ(口コミ)が不可欠です。外国人旅行者が地域の魅力に気づいて書き込んだレビューは、AIの最適な提案につながるでしょう」
また、「良い口コミの背景には、『店に料理がなかったが、別の良い店を紹介してくれた』といった、人との触れ合いやアナログな実体験があります」と述べ、アナログな経験がデジタルの源泉となることを強調した。
外国人旅行者が見出す日本の魅力についても具体例を挙げた。「例えば『東京の港区で、子供が1人でランドセルを背負って歩いている』という治安の良さは、日本人にとっては日常だが、外国人にとっては世界に類を見ない驚きの魅力。外からの視点(口コミ)によって、日本人が自国の魅力に気づくことができますね」と語った。
「地域の暮らしや空気感」こそが観光資源——スイス・ツェルマットから学ぶ地域経営

後半は、山田桂一郎氏とロドリゲス氏によるパネルディスカッション「地域の日常と観光エコシステム」が展開された。
山田氏は観光の本質についてこう語った。「外国人が価値を感じているのは、観光スポットだけでなく、日本の四季、里山里海、農業、お祭り、時間通りに来る公共交通機関といった『地域の暮らしや空気感』です。無理に新しい施設を作るのではなく、地域に既に存在する価値を見つめ直し、それを顧客が魅力を感じるように編集すること。そして、プロダクトとして届けることが重要です」。
ロドリゲス氏から「海外の成功事例から、日本の地域観光に生かせることはありますか?」と問われると、山田氏は自身が住むスイス・ツェルマットの例を挙げた。「一般車両の乗り入れを禁止するなど、不便を受け入れても美しい景観と静けさを地域全体で守り続けています。これは単なる観光政策ではなく、地域らしさを未来へ残す『地域経営』そのものです」と説明した。
さらに、「集客競争によって住民の暮らしや地域の誇りが失われては本末転倒。観光は地域を良くするための手段であり、地域全体で価値を共有するエコシステム(行政、交通、宿泊、一次産業、教育、フィンテックの連携)を構築することが最も重要です」と訴えた。
ディスカッションを締めくくる形でロドリゲス氏は「本日の議論を通じて、地域が持つ小さな魅力を皆で見つけ、それを大きな価値へと育てていくことが、訪日客6,000万人という目標がある日本の強い土台になることがよく分かりました」と述べた。
オーバーツーリズムは「仕組みや対応の問題」——「圧倒的多数の地方はアンダーツーリズム」

質疑応答では、オーバーツーリズム対策についての質問が寄せられた。
山田氏は「日本の圧倒的多数の地方は『アンダーツーリズム(観光客不足)』だ。オーバーツーリズムが起きているとされる場所でも、原因を正しく把握することが解決への近道になると思う」と述べた。
牧野氏も「他国のように、駅や空港で配車サービスを呼べるようにし、地方の人口はタクシー、観光客は配車サービスといった棲み分けができれば解決できる問題もあるのでは」と補足した。
若者の海外旅行離れは「可処分所得と時間」の問題——「年に一度は2週間の休暇を」
若者の海外旅行離れについても質問が上がった。
牧野氏は「コロナ禍で経験の機会が失われたことが大きいが、パスポート取得費用の引き下げや、修学旅行での海外渡航などを通じて、5年・10年単位で回復していくと考えている」と語った。
山田氏は、「実は現在パスポートを取得しているのは20代が最多だが、出国率が低いのは『可処分所得と時間』がないからではないか。経済政策の改善に加え、国際労働機関の基準(ILO132号)に合わせた連続した有給休暇の取得など、法制度の整備が必要だ。将来的には、誰もが年に一度は2週間の休暇が取れる社会にすることが大切である」と訴えた。
イベント概要と今後の取り組み
本イベントの概要は以下の通り。
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タイトル:AI×世界中3.7億件のレビューから読み解く、地域観光の新たな可能性とは
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開催日時:2026年6月2日(火) 14:30〜16:00
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開催場所:東京都内
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登壇者:牧野友衛氏(一般社団法人メタ観光推進機構代表理事、JNTOデジタル戦略アドバイザー)、山田桂一郎氏(観光カリスマ、実業家、JTIC.SWISS代表、和歌山大学客員教授)、ヌノ・ゲレイロ(Booking.com北・南アジア地区リージョナルディレクター)、ルイス・ロドリゲス(Booking.com日本代表)
ブッキング・ドットコムでは今夏、日本の地域の魅力を発信する「おもてなしバトンリレープロジェクト」を展開し、日本の魅力をさらに世界に広めていく方針だ。
ブッキング・ドットコムは1996年にアムステルダムで設立され、Booking Holdings Inc.(NASDAQ:BKNG)の一員。「すべての人に、世界をより身近に体験できる自由を」を企業理念に掲げ、多種多様な宿泊施設と移動手段を簡単かつワンストップで予約できるプラットフォームを通じて、世界中の旅行者に思い出に残る体験を提供している。


写真左から、山田、ゲレイロ、ロドリゲス、牧野の各氏




