熊の出没・災害時の危険区域も「離れた場所から点検可能」
東日本旅客鉄道(JR東日本)は5月8日、線路内を自律走行するロボットによる線路点検の推進を発表した。大雨や地震の発生時に係員が危険区域へ立ち入ることなく、事務所などの離れた場所から点検作業ができる体制の確立を目指すもので、2026年10月末までに実用化に向けた機体製作を行い、11月以降に在来線を中心とした走行試験を予定している。
開発中のロボットは鉄道の線路上を自律走行し、搭載したカメラや各種センサーで線路とその周辺の映像・データを自動で取得する。取得データは機体内に保存されると同時に、事務所内などの離れた場所にいる係員にリアルタイムで送信。AIが支障物の検知を補助し、列車の運行に支障を及ぼす異常の有無は係員が最終的に判断する仕組みだ。

徒歩巡回に潜む二次被害リスク、熊の出没も課題
これまでJR東日本は、大雨や地震の発生時に係員が線路沿線を徒歩などで巡回し、路盤の崩壊や線路内への土砂流入など列車の運行に支障を及ぼす事象が発生していないかを目視で確認してきた。
この作業には二次被害のおそれがあるほか、近年では熊の出没増加による係員の安全確保も課題となっている。
こうした状況に対応するため、JR東日本は「事務所内などの離れた場所にいながらできる」点検手法の確立に向けて、ロボットなどの遠隔操作・制御に関する研究開発に取り組んできた。
今回の取り組みは、JR東日本グループのグループ経営ビジョン「勇翔2034」に掲げた「技術力の深化と進化」による安全安定輸送の向上と、LX(ライフスタイル・トランスフォーメーション)の実現に向けた「AIとロボットを駆使した働き方改革」の一環でもある。
Preferred Roboticsと共同開発、6線区で実証実験
ロボットの開発は2024年4月より着手。株式会社Preferred Robotics(プリファード ロボティクス)との共同開発として開始した。Preferred Roboticsは、深層学習技術に強みを持つ株式会社Preferred Networks(プリファード ネットワークス)のグループ企業で、ロボティクス分野の研究開発・事業展開を行っている。
概念実証(PoC)を2段階にわたって実施し、八高線など計6線区で実証実験を行ってきた。開発フェーズは、2024年度に主に走行機能を検証する概念実証(第1段階)、2025年度に主に計測機能を検証する概念実証(第2段階)として進められ、現在は機体製造の段階にある。
全長0.8m、重量約100kg LiDARで30m先まで検知
開発中のロボット(プロトタイプ)の基本仕様は以下の通り。
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外形寸法:全長0.8m × 全幅1.2m × 全高1.8m
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重量:約100kg
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最高走行速度:時速15km
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連続稼働時間:約3時間(バッテリー電動)
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走行可能条件:勾配35‰以下、曲線半径100m以上
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カメラ(光学):線路および周辺環境の映像を自動取得
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LiDAR:約30m先まで検知、距離精度±2cm
搭載センサーはLiDAR(レーザーで周囲との距離を測るセンサー)とGNSS(衛星を利用して位置を把握する仕組み)を組み合わせており、これらから得られる情報をもとに安全に走行する(線路内自律走行)。機体には回転灯、照明、LiDAR、カメラ、バッテリーが搭載されている。
実証実験では、ロボット搭載LiDARの取得データにより、進路上にある物体を支障物(赤色表示)として認識する支障物検知の動作確認も実施した。
点検作業の「前」と「後」を比較
ロボット導入前後で点検作業がどう変わるか。JR東日本が示した比較をまとめると以下の通りだ。
点検方法
これまでは係員が線路沿線を徒歩などで巡回し、目視で列車の運行に支障を及ぼす異常の有無を確認していた。ロボット導入後は、ロボットが線路上を自律走行し、取得したデータを係員がリアルタイムで確認して異常の有無を判断する。
取得データ
これまでは係員の目視結果を紙や端末への手入力で記録していた。ロボット導入後は、カメラ・センサーにより映像・データを一括で取得する。
異常検知
これまでは係員の経験・知見に基づく判断に依存していた。ロボット導入後は、補助的にAIが自動解析して線路内の支障物を検知し、最終判断を係員が行う。
安全面
これまでは獣害リスクや災害時の危険区域立入りなど、点検者への身体的なリスクがあった。ロボット導入後は、係員が離れた場所にいながら点検でき、人が危険区域に入る必要を減らすことができる。
データ蓄積
これまでは点検結果の記録が中心だった。ロボット導入後は、走行毎にデータを蓄積し、設備管理に活用できる。
将来はドローン発着機能の付加も視野に
今後は大雨や地震の発生時の点検においてロボットを活用することで、係員が危険な区域へ立ち入ることなく事務所内などの離れた場所から点検作業を行うことや、熊などの野生動物に遭遇するおそれのある徒歩などによる作業からの解放により、働く環境の改革を実現するとしている。
将来的には、取得した映像や3D点群データの設備管理への活用や、ドローンの発着機能の付加による線路周辺のより詳細な状況把握など、ロボティクスとAI技術を活用して鉄道インフラにおける維持管理業務の高度化を目指すとしている。
なお、2026年10月末までに実用化に向けた機体製作を行い、11月以降、在来線を中心にさまざまな路線で走行試験を行う予定。プロトタイプ機体の外観および仕様は、実用化時には変更になる場合がある。




