小池氏
秩序ある共生社会の構築を 「地域の生活者」視点が重要
観光経済新聞、東京交通新聞、塗料報知、農村ニュース、ハウジング・トリビューンの専門5紙誌では、2025年度の共同キャンペーン企画として「地方創生の出発点~”人”を生かす~」を展開する。「地方創生2.0」が打ち出される中、地方創生を若者、女性、外国人という「人」に焦点を当て掘り下げる。3回目のインタビューは、一般財団法人自治体国際化協会(CLAIR・クレア:Council of Local Authorities for International Relations)の理事である小池潔氏に協会の取り組みや現場での状況などについて話を聞いた。
――まず、貴協会の役割と、自治体と連携して多文化共生の地域づくりに取り組む意義は。
自治体国際化協会(CLAIR)は、地方自治体が共同で設立した団体で、自治体の国際化を支援する役割を担っている。昨今、外国人政策についての社会的関心は一層高まっている。秩序ある共生社会の実現に向けた取り組みを進める中で外国人材の活躍を地域の活性化につなげていくためには、雇用する企業の取り組みに加え、自治体や地域社会が連携し、生活環境の整備や機運の醸成を行うことが重要だ。自治体は住民にとって最も身近な存在であり、さまざまな施策について最前線で日々、懸命に業務に当たっている。この現場の自治体が行う取り組みを支援するのが、自治体の共同組織として設立された当協会の使命である。
――自治体の現場では、具体的にどのような対応が求められているのか。
外国人住民は増加傾向にあり、2025年6月末時点で約396万人と過去最多を更新している。さらに、2027年度には技能実習制度が「育成就労制度」へ移行するなど、外国人材の受け入れを巡る制度は大きく変化している。地方では製造業・建設業・農業などにおいて人手不足が深刻で、外国人材は地域の産業や暮らしを支える存在でもある。そうした、地域に住み、働く外国人を、企業や自治体が協力して、地域の生活に円滑に適応できるよう、生活や日本語学習などの受け入れ環境を整備することが求められている。
――協会が行っている多文化共生の取り組みは。
(1)情報提供・災害対応支援(2)政策・立案支援(3)多文化共生の担い手育成・連携支援(4)NGO/NPO等との連携促進(5)地域国際化協会の活動支援、が主な柱である。一つ目の情報提供は、SNSやホームページでの情報発信とともに、自治体等が地域に合った施策を進める上で参考となるよう、全国の優良事例をまとめた「ツールライブラリー」を公開している。
また、災害対応支援は、日本の災害に不慣れな外国人住民に適切に対応できるよう、自治体に向けた災害時の多言語支援等に関するマニュアルや、避難所において活用できる多言語表示シートなどのツールを提供している。これらは自治体が研修等で活用したり、実際に避難所などで利用したりすることを想定している。
――二つ目の政策立案支援では、どのような事業を行っているのか。
多文化共生に向けた取り組みは重要である一方、自治体等が直面する財政的な制約もある。そこで当協会の自治体や地域国際化協会が実施する多文化共生事業への助成制度があり、それを活用して、新規事業や先進的な取り組みを実施していただき、また、優良事例を全国で共有し、各自治体が参考にできるようにしている。
――3番目の担い手育成について、協会が養成・認定している「多文化共生マネージャー」の役割は。
多文化共生マネージャーは、地域での共生社会の実現に向けた施策の立案・調整を担う人材として、当協会が研修を行い、これまでに全国で約800人を認定しており、地域の多文化共生の推進に欠かせない存在として活躍している。多文化共生マネージャーは、自治体、地域国際化協会、NPO・NGO等さまざまな立場の方がおられ、自治体の多文化共生推進プランの策定や地域日本語教室の開催など活動も多岐にわたる。
――4番目のNPO・NGOとの連携促進では、どのような支援を。
多文化共生分野では、豊富な知識や経験を持つNPO・NGOが多く、自治体とこれらの団体が連携して取り組むことが重要であり、当協会はその連携を後押ししている。当協会が実施している「地域国際化推進アドバイザー」制度では、有識者、現場経験の豊富な専門家を自治体等に派遣し、研修や政策に関する助言を行い、自治体のニーズに合わせて専門家を選定するオーダーメイド型の支援により、地域の課題に対応できる体制を整えている。
――5番目の地域国際化協会の活動支援とは。
地域国際化協会は、都道府県と政令市に設置されており、行政だけでは対応しきれない専門性や地域ネットワークを担い、自治体と協働しながら、地域の多文化共生の推進に重要な役割を果たしている。当協会は、これら地域国際化協会の事務局の役割を担い、意見交換の場の提供や職員の研修、その他の協会の活動支援を行っている。
――災害時に外国人住民はどのような困難に直面するのか。
災害時には「言葉・制度・心」の三つの壁が顕著に現れるといわれている。言葉の壁は、例えば災害用語は日本人なら理解できるが、外国人には意味が伝わりにくいことがある。制度の壁として、どんな支援が受けられるのか、どこに相談すればよいのかが分からないケースが多くあり、さらに、心の壁として、不安や孤立感が強まったり、周囲からの誤解や差別が生じやすくなったりする。
避難所という概念自体が存在しない国もあり、「避難所とは何か」から説明が必要な場合もあり、平時には見えにくい課題が災害時には一気に表面化する。
――そうした災害時の外国人支援として、自治体の対応は。
大規模災害が発生した場合、自治体等に求められる対応として、多言語での情報提供や相談対応がある。これらの拠点として、自治体と地域国際化協会が連携して「災害多言語支援センター」を設置するケースがある。
当協会では過去の災害時における多言語支援センターの活動をもとに平時や災害時の取り組みなどを具体的に示したマニュアルを作成した。最近の改訂では、能登半島地震において、石川県と県国際交流協会がセンターを迅速に立ち上げ、支援を行ったことを反映した。
――地域での共生を進める上で最も重要な視点は。
地域に住み、働く外国人住民を「地域の生活者」として捉え、ともに地域で生きるという視点を持つことが重要だと考える。
――「地域の生活者」として外国人住民が日本の生活になじむために必要なことは何か。
外国人住民が日本語を学び、日本社会のルールや習慣を理解すること、また日本側もそうした外国人住民を地域の一員として受け入れることが必要。日本では日常生活の中にさまざまなルールやマナーが多く存在する。例えば、ゴミの分別は世界的に見ても丁寧に行われているといわれており、こうした習慣がない国から来た人には理解が難しい。
まずはこれらのルールをしっかりと伝えることが必要で、日本で生活する以上、一定のルールを守ってもらうことも重要である。ただし、生活上の困りごとや制度の違い、言語の壁など、外国人住民がつまずきやすい点も多いため、支援体制の整備が欠かせない。当協会としても、生活ルールやマナーを伝える情報発信や、相互理解を深める取り組みが行われるよう自治体を支援している。
――こうした中で外国人住民と地域住民の相互理解を深めるには、どのような取り組みが効果的か。
重要なのは、日常的な接点を生み出すことで、そのために自治体や企業、地域の団体が協力して交流の場をつくることが効果的である。例えば、鹿児島県では県内で働く外国人が地域に愛着を持ち、安心して暮らせるよう、交流や異文化理解のための取り組みを実施している。自治会や企業が協力し、伝統行事(秋祭り・餅つきなど)に外国人を招き、外国人側も自国の文化や料理を紹介し、双方向の交流を実現した。地域への愛着に加え、住民からは「地域の仲間」として認識される効果もあった。
――今後、特に力を入れていきたい取り組みは。
最も重視しているのは担い手の育成で、多文化共生マネージャーの養成、各種研修の実施、自治体・地域国際化協会の人材育成となる。外国人住民と関わる分野は多様化しており、行政だけでなくNPOなど幅広い主体が関わる。そのため、現場で支援に携わる人材を継続的に育てることが、秩序ある共生社会に向けた基盤になると考えている。
――国や自治体への要望は。
今年1月、国は「外国人の受入れ・秩序ある共生のための総合的対応策」を改定した。その中で、ルール順守や制度の適正化など、秩序ある共生社会の構築が掲げられている。さらに外国人受け入れを巡る自治体の負担が増加していることや、外国人の受け入れに当たり国・自治体や関係機関の役割分担等が不明確であるとの問題提起もなされている。国にはこうした課題について着実に検討を進めるとともに、自治体が施策を進めていく上で必要な財源の確保を行っていただきたい。
また、自治体に対しては、住民に最も身近な存在として必要とされる事業を着実に実施していただきたいと考えており、自治体の共同組織であるわれわれは、今後も、自治体や地域国際化協会の実務に役立つ支援をしっかりと進めていきたい。

小池 潔氏(こいけ・きよし)昭和61年東京都入都、オリンピック・パラリンピック準備局次長、主税局長などを歴任し、令和5年から現職。




