【VOICE】ユニバーサルツーリズム 亜細亜大学経営学部ホスピタリティマネジメント学科 准教授 久保田美穂子氏


久保田氏

耳で観る観光 触って完成する観光

 アイマスクで目を覆ったとたん、足元の砂利を感じ、鳥の鳴き声、遠くの路面電車の音が聞こえてきた。これは富山市の城址公園で、視覚障害者向けプログラムを検討する富山市郷土博物館と富山国際大学の方々との実験中のこと。

 視覚を使わない体験といえば、ダイアログ・イン・ザ・ダーク(東京)が有名だ。ここは、光を感じる屋外実験とは比べものにならないほどの真っ暗闇。視覚障害者のアテンド(案内者)がリードし、ユニークな体験をさせてくれる。どんなに目を凝らしても何も見えず、全身をセンサーのように意識を集中していると、同行者がそこにいるありがたさや声の柔らかさが身に染みてくる。驚いたのは、途中で、踏切やハクチョウの鳴き声、打ち上げ花火の音を聞いた時にそれが「観えた」こと。正確にはそんな気がしただけなのだが、今でも思い出せるほどの強い印象を得た。

 この数年、縁あってユニバーサルツーリズムについて関わる機会が増え、業界や企業の取り組み、政策などについて勉強している。まだまだ「誰もが」「気兼ねなく」旅行できる状況だとは言い難い社会であり、解決すべき課題も多いが、本稿は少し別角度の話。

 冒頭の二つの体験は、私がユニバーサルツーリズムという言葉に対する認識を拡張して捉え直した瞬間だ。障害者、高齢者など不自由な人のための旅行だと思われがちなこの言葉。しかし、ユニバーサルツーリズムは、きっかけは誰かの不自由への対応だとしても、結果的に自らの身体を見つめ、五感を研ぎ澄まして楽しむことを教えてくれるツーリズムなのでは?と気付いたのだ。観光は五感で楽しむとよくいうが、本当に五感を使って観光している人がどのくらいいるだろうか。

 博物館では新しい考え方の取り組みが始まっている。大阪の国立民族学博物館(通称みんぱく)の広瀬浩二郎准教授は、視覚障害者のための不自由をサポートする展示ではなく、新しい鑑賞方法として、触らなければ分からない、触ることにより完成する作品や展示を研究・実践していて、みんぱくは昨秋、誰もが作品に触りまくる前代未聞の特別展「ユニバーサル・ミュージアム」を開催した。

 コロナ禍は、一度足を止め、振り返って考える時間をくれた。再び大きく動き出す観光は、旅人はもちろん事業者にとっても、感性的な気づきや発見のある豊かな観光にしたい。耳で観る観光、触って完成する観光などはどうだろう。「ユニバーサル」のそんな柔らかな解釈を通じて、多様性が当たり前な世の中へのアプローチを探りたい。

久保田氏

 
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