石田氏
富裕層ブランドを強化 日本旅館は文化の発信基地
――JTBグローバルマーケティング&トラベルの2025年度の取り組みを振り返ると。
当社はJTBの祖業である訪日インバウンドを担い、日本で最古、最大の訪日インバウンドに特化したDMCだ。昨年度は、JTBから分社して設立20周年の年だった。コロナ禍からの正常化に向けた最終準備期間と位置づけ、経営理念を刷新するなど、第二の創業として新たなスタートを切った。
昨年の訪日外国人旅行者数は前年比116%の4268万人で過去最高だったが、その波にしっかり乗ることができた。大阪・関西万博、アフリカ開発会議(TICAD9)といったビッグイベントも獲得できた。レジャー事業ではコロナ禍の混乱期を経て、人員・体制を整え、BPR(業務改革)とアウトソースを進めた結果、コア事業に専念できる環境が整った。
――成果が上がった具体的な取り組みについて教えてほしい。
「サンライズツアー」では今年3月から、JR東海との連携のもと、ローカル列車をインバウンド専用の特別列車として週3日運行するツアーを展開している。東海道本線から身延線へ直通運転し、富士宮方面から眺める富士山をテーマに据えた。地方分散につなげる取り組みでもある。先日、英国のラジオ局の取材を受けるなど、海外からも注目されている。この他にも、大相撲の観戦ツアーが完売している。ジブリ美術館・ジブリパーク関連の商品も引き続き販売が好調だ。
――26年度の訪日インバウンド市場の見通しは。
日中関係や中東情勢を背景に総量としては前年を下回ることも想定している。ただ、当社は購買力の高い顧客層へのシフトを進めているため、影響は限定的とみている。一方、航空便の減便が続けば、インバウンド全体に影響が出るのは避けられない。こういった不確実な局面こそ、今年度の当社のキャッチフレーズ「Swift care(47)Warm heart(47)Always beyond(迅速な対応、おもてなしの心、期待を超える提案)」を体現し、次の信頼につなげる。
――26年度に重視する事業は。
まずは、訪日富裕層向けブランド「BOUTIQUE JTB」の強化だ。体制面では担当課を「BOUTIQUE JTB営業部」として独立させた。BOUTIQUE JTBは富裕層向けの観光事業者で構成される国際コンソーシアム「VIRTUOSO」に加盟しており、これまで北米を中心に取引していたが、今後は欧州でのコンソーシアム加盟も視野に入れ、欧州での展開を本格化させる。サービス基準も再構築し、富裕層向けエージェントの中でも選りすぐりの事業者に対して特別なサービスを提供していく。
ターゲットとしては、中東地域にも対応していく。昨年、「アジア・中近東営業部」を立ち上げた。現状では現地にレップを置き、情勢の影響の少ない中東の特定国やトルコに絞って深掘りしている。例えば、オマーンでは、大手財閥系の旅行会社と契約を結んだばかりだ。
他には、「シート・イン・コーチ」のような乗合型周遊バスツアーを日本国内で、海外エージェント向けに提案している。現在は英語、スペイン語、イタリア語でのバスツアーが中心であるが、ポルトガル語、フランス語も販売を強化していく。これはもともとJTBのグループ会社が世界中で展開している事業だが、日本でも訪日外国人旅行者向けに拡大したい。
――訪日インバウンドでは、オーバーツーリズムが問題視され、地方誘客が課題になっている。
欧米豪などのロングホールの旅行者ほど滞在期間が長くなり、1都市滞在型ではなく、周遊型になり、地方分散が進む可能性がある。これを促進するには、ルートをまとめ上げる旅行会社の役割が不可欠だ。自治体・DMOと旅行会社が、官民一体で地方誘客に取り組む必要がある。行政は単年度予算を基本としている一方、旅行会社は1~2年先の中長期で営業を進めており、両者の時間軸には違いがある。この違いを踏まえた連携の工夫が求められている。複数年度の予算執行が実現すれば、官民一体での地方誘客はさらに成果が上がるはずだ。
通訳ガイド(通訳案内士)の不足も深刻だ。英語以外の言語の通訳ガイドは人数が少なく、各社の取り合いになっている。通訳ガイドは、高い知識に加え、ホスピタリティ、ユーモアなど求められる要素が多い。人財の確保と育成は喫緊の課題の一つだ。
また、地方誘客に限らず、訪日インバウンドの構造的な問題として指摘したいのは、旅行業法を無視した事業者が関与しているケースが散見されること。当社は今後もコンプライアンスを重視して事業を進めていく。
――旅ホ連への期待、要望を聞かせてほしい。
25年度下期のJTB国内旅行キャンペーン「日本の旬 沖縄」では、初めて当社も目標設定をいただき、社員研修の設定やさまざまなご支援を頂戴した。改めて会員施設の皆さまに感謝を申し上げたい。一方で訪日インバウンドの受け入れという観点では、準備にご苦労されている施設もあり、受け入れに当たって丁寧に説明し、お客さまをお送りすることも当社のミッションの一つと考えている。
特に、日本旅館は日本文化の発信基地だ。その土地の歴史や文化を、体験とコミュニケーションを組み合わせて提供すれば必ず人気になる。語学が堪能でなくても魅力を伝えることはできる。泊食分離の宿泊プランも増えており、オンラインでも販売しやすくなってきた。強固に連携し、訪日誘客、地方誘客の流れを共につくっていきたい。

石田氏




