【道標 経営のヒント145】「部屋食」のゆくえ 福島規子


 旅館では、客室で食事を提供することを「部屋食」と呼ぶ。中には、受け入れ側の立場から「部屋出し」と言う旅館もあるが客の立場を考えると、「部屋出し」よりも「部屋食」の方が耳に優しい。

 ところが、旅館特有のもてなし方だった「部屋食」も、最近では徐々に姿を消しつつある。

 例えば、「料理の臭いが残っている部屋に布団を敷いて寝るのは嫌」という苦情を受けて、個室料亭を新設したり、レストランにライブキッチンを備えたりと料理の提供方法が多様化してきたことも要因の一つだろう。また、「2時間も畳に座って食事をするのは苦痛」という客の声や「料理を提供するたびに立ったり座ったりするので膝と腰はボロボロ、身体的にキツイ」という悲鳴に近い客室係からの訴え、そして、「厨房と客室をつなぐ動線問題」「人手不足」などさまざまな理由が考えられる。

 そもそも旅館の客室には三つの機能がある。一つ目は寛ぐための「リビングルーム機能」。何年か前までは客が到着すると、担当係が部屋へ挨拶に出向き、お茶を入れるのが一般的なサービスだった。二つ目は、食事をするための「ダイニングルーム機能」。いわゆる部屋食提供だ。そして、三つ目が寝るための「ベッドルーム機能」である。

 ホテルの客室が「ベッドルーム」だけの単一機能であるのに対し、旅館の客室は「畳敷き」であるがゆえに、これらの機能を複合的に有していたのである。

 だが、最近では、主室とは別にベッドルームを設けたり、広縁のしゃれたデザインの椅子を窓側に向けて置いたりと「寝る」や「寛ぐ」といった機能をより高めている旅館も少なくない。ただし、食事をするための「ダイニング機能」だけは、未だ新たな展開は見られない。

 旅館の「部屋食」は、ホテルの「ルームサービス」とは異なり、コース料理を一品ずつ提供する日本独自のサービススタイルである。「お時間になりましたら、お食事処へどうぞ」と客を動かすのではなく、「お時間になりましたら食事のお支度に上がります」ともてなす側が動く。

 旅館の文化ともいえる「部屋食」を高い次元で継承していくためには、まずは、ダイニングテーブルを据えられるだけのスペースの確保が不可欠だ。その上で、部屋食だからこそできる斬新な献立設計と料理内容、そして、特別なサービスの創造が求められる。徹底的に作り込まれた「お客さまのためだけの小さくて、特別な客室ダイニング」は、確実に「部屋食」を進化させるに違いない。

 露天風呂付き客室が人気を博したように、客室ダイニングが次のヒットコンテンツになる可能性は十分ある。今後の「部屋食」の行方を注視したい。

 
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