【VOICE】観光地ではない神社に人が集まる理由 廣田神社 宮司 田川伊吹氏


田川氏

田川氏

「カワイイ」と「信仰」が手をつなぐ、 現代インバウンドの新しい姿

 青森市の中心部。ビル群の隙間に鎮座する廣田神社は、「病厄除守護神」として崇敬(すうけい)されていますが、いわゆる”観光地”としては無縁な場所です。広い境内も、歴史ある壮麗な社殿も、鎮守の杜もありません。ですが、ここ数年は月平均で1万人を超える参拝者が訪れ、お守りの授与数は東北でも上位にランクイン。なぜ、観光要素が「何もない神社」に、これほど人が押し寄せているのか。そこには「外国人」をひとくくりに捉えるだけでは見えない、「現代外国人」のリアルな感覚があります。

 私が宮司を拝命した17年前、外国人の参拝はまれで、たまに見かけても風景を消費するだけの「ステレオタイプな観光客」でした。神社は異文化の象徴であり、自らの信仰以外の領域には決して踏み込まないのが当たり前でした。しかし、令和を目前にした頃から潮目が変わります。SNSの隆盛により、国境を越えた情報の同期が始まったのです。さらにコロナ禍がこの「感覚の均等化」を加速させました。特に若い世代において、東アジアを中心に「カワイイ」と感じる感性も、価値基準も、驚くほどシームレスになりました。日常の営みにおける感覚は、今や等しいといっても過言ではありません。

 実際、今の外国人参拝者は、日本人と同じように自然にさい銭を納め、手を合わせます。SNSや動画配信を通じて神社の作法は「既知の知識」となっており、彼らにとってそれは「敬虔(けいけん)な信仰」ではなく、私たちが旅行先で縁結びを願うのと同様に、極めて自然な「生活の中の祈り」となっているのです。「おじいちゃんの病気が治るよう、お守りを」。現代の外国人は、デザインに心躍らせながら、同時に神社の「御神徳」も真っすぐに求められます。宗教の壁という既成概念は、徐々に薄れているように感じます。

 当神社のインバウンドの伸びは、決して「外国人向け」の施策を打った結果ではありません。信仰という土台を大切に発揚し、そこに独自の地域をほうふつとさせる意匠を重ねてきました。無意識に立ち寄る場所ではなく、「ここが良い」と選ばれる目的地にするための積み重ねが功を奏したのです。

 これからは「外国人にウケそう」だけでは長続きしません。魅力ある観光資源は全国、世界中にあふれているからです。その中で「なぜ、ここなのか」という問いの答えは、現代人と感覚を共有し、本質を研ぎ澄ました先にしかありません。現実を直視し、求められているものを愚直に展開すること。それこそが、これからの観光が歩むべき王道だと思っています。

田川氏

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