【道標 経営のヒント 292】2030年脱炭素型の宿泊産業 佐々山 茂


 最近のWebセミナーは気候変動に関するテーマが多いと感じます。今月は所属する日本建築家協会のカーボンニュートラル連続セミナーに2回参加しました。

 1回目はサスティナブル建築デザインを研究する東京大学の前真之准教授、2回目は里山長屋でパーマカルチャーを標榜(ひょうぼう)するビオフォルム環境デザイン室の山田貴宏氏でした。前氏は日本の住宅建設は戦後の経済政策の主な手段で、消費財として量が重視され良質な住宅がストックされていないのが問題だと言います。山田氏はパーマカルチャー、つまり里山的な住まい方で脱炭素社会の実現を進めています。両氏とも最前線で実践されていて切れ味鋭く聞いていて気持ちが良いです。

 今の住宅は工業製品となり、自然から得た資源から新建材を作り、それを使った商品で20年から30年住まうと価値がゼロになり、産業廃棄物になります。日本の民家は生活を含めて古来循環型でしたが、戦後の金融資本主義の手段になり、その限界が見えてきたと共通認識でした。

 前氏は環境建築で価値を高めることで住宅を資産化して循環させると言い、山田氏は在来木造で循環型の生活環境をつくりだしています。

 住宅を脱炭素で循環させるには技術的な解決だけでなく、生活の仕方や社会システムの変革に踏み込む必要があり、そうなれば健康的で明るい未来が開けると2人とも前向き思考でした。

 宿泊産業も2030年、2050年の将来像を描いてバックキャスティングで取り組むしかないのですが、現状認識が不十分です。旅館はストックとしての建物で運営し、団体から個人へと業態が変化したことにエネルギー利用方法が追い付いていません。自立循環型にするといっても何から手を付けたらよいのか分かっていません。

 現在のような会席料理がいつまで提供できるのか。食器や料理をあちこちに移動して提供する労働集約型でよいのか。お客のためといってリゾートで都会と同じように機械に頼った完全冷暖房が必要なのか。お客の利用していない時間帯に浴槽の循環ろ過ポンプを回し、温泉を掛け流してよいのか。

 現状の姿は50年足らずの間に形作られたのです。その形で省エネし、CO2排出量を減らしてもたかが知れています。2030年に目指すのは、その地域にふさわしい自立循環型の運営や生活文化につくりかえ、生産性も向上した明るい姿です。技術はそれをサポートする立場だと思っています。

 
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