【道標 経営のヒント 192】資産価値のある景観 佐々山建築設計社長 佐々山茂


 宿泊施設の設計依頼で一番多いのは投資回収の計算がたちやすい客室である。客室が増え、新しくなれば売り上げ増が見込め、銀行も融資しやすい。

 依頼を受けて現地に伺うと、その地域らしい景観がないか敷地周辺を見て回るのが私の習慣。旅館は夕方チェックインし、翌朝にはチェックアウトとリゾートでありながら滞在時間が意外と短かったが、個人客が増えたことで、館内でゆっくり過ごすように変わってきた。景観を取り込んだ感動的な空間を造ると施設全体のイメージも上がり、多くのお客さまを引きつけることを何度も経験している。手つかずの素晴らしい景観を探し出し、それを設計に生かすのは私の楽しみの一つになっている。

 最近、客室改修の依頼のあった旅館であるが、吹き抜けのある都会的なロビーは洗練されたインテリアデザインでお客さまから評価されているが、一方で閉鎖的で土地柄の印象が薄い。

 建物周辺の敷地をクライアントと見て回ると、この温泉地のパンフレットに一番先に出てくる屋根付きの橋やら祠のある渓流を一望できる場所に出た。起伏のある土地で上下左右に魚眼レンズ的な景観で印象的な空間を造れる可能性があり、スケッチしていても心が躍り、ここで過ごすお客さまのイメージが浮かんでくる。

 クライアントには邪魔な電線をなんとかしようと話す。別の旅館では一番の絶景を事務室が遮っている。事務室を移設してデッキを海に向かって伸ばせば岬につながり、その先の海岸線の絶景が広がる。いずれも普段、お客さまの目に触れることのない景観で、実にもったいない。

 昨年竣工した旅館も事務室を移設して地域の象徴の神社の赤い鳥居と海に沈む夕日を眺めるラウンジとデッキテラスを造った。景観を見せることでどれだけ売り上げに貢献しているか数字で把握することは難しいが、改修後の業績は良いと聞いている。

 景観はただ存在するだけでは価値はない。景観はお客さまの目の前に広げることで感動を呼び、たくさんのお客さまを引きつけて初めて価値が出る。感動させるには自然の中に投げ出すくらいの思い切った空間造りが良い。客室投資と違って数字に表せないからこそ投資効果の伸びしろが大きい。

 建物は減価償却して時間とともに商品価値は減るが、景観を生かした投資は評判が評判を呼び、時間とともに価値は高まる。景観という資産は土地と同じで減価償却しない固定資産で、景観を元手にした設備投資はこれからますます有効になるだろう。

 
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