今年も厳しい暑さが予想される夏がやってきたが、その影響は私たちが想像する以上にインバウンド市場にも広がっている。これまで夏休みシーズンは、長期休暇を利用した外国人観光客が数多く日本を訪れる時期だった。しかし近年は状況が変化しており、夏場の訪日客数の伸びが他の季節ほど大きくない傾向が見られるという。
背景にあるのが、日本特有の「酷暑」だ。私自身、この2カ月で北米や東南アジアを訪れ、現地の航空会社関係者などに話を聞く機会があった。その際、多くの人が口をそろえて指摘していたのが「日本の夏は暑すぎる」という点である。日本旅行を何度も経験している外国人ほど、あえて夏を避けて旅行計画を立てるケースが増えているという。
その理由の一つとして、訪日客のリピーター化が進んでいることが挙げられる。観光庁のインバウンド消費動向調査によると、訪日外国人の約65%が2回目以上の来日経験者となっている。特に香港や台湾では約9割、韓国でも約83%がリピーターだ。特にアジア圏ではすでに日本の四季や気候を理解している人が多く、「夏の日本は避けた方がよい」という情報が旅行者の間で共有されつつある。
東南アジアの人であれば暑さに慣れていると思われがちだが、実際にはそう単純ではない。現地の人からは「日本の夏は自国以上に汗をかく」「日差しや湿度が厳しい」という声も聞かれる。近年の猛暑は東南アジアの旅行者にとっても負担が大きく、6月後半から9月にかけて訪日需要が弱まる要因になっているようだ。実際、航空業界関係者によると、東南アジアから日本への便の搭乗率は夏場に低下する傾向が見られ、他の季節と比べて需要が落ち着いているという。
その結果、日本人旅行者にとっては思わぬメリットも生まれている。通常、夏休み期間の海外航空券は高騰するイメージが強い。しかし今年は、お盆期間を除く7月から9月にかけて、東南アジア路線で比較的安い運賃が出るケースが目立っている。ANAやJALといったフルサービスキャリアでも、燃油サーチャージや諸税を含めて往復10万円を下回る運賃が見つかる日もある。燃油サーチャージの高騰も含めて海外旅行の費用負担が増している中、この価格水準は魅力的だ。
東南アジアはホテル代も欧米に比べると依然として割安で、食事代も以前ほどの割安感はないものの、現地滞在中の食事や移動の交通費などはまだまだ安い。日本の酷暑を避ける訪日客の動きによって、思わぬ価格メリットが生まれているのだ。
(航空・旅行アナリスト、帝京大学非常勤講師)




