【道標 経営のヒント 162】旅と骨董品収集 行燈旅館館主 石井敏子


 骨董(こっとう)品が好きだ。父親が骨董好きで刀剣、古銭、陶器などを集めていた。子供の頃は父親の趣味が理解できずにいた。それが旅館を始めたいと思ったと同時にがぜん興味が湧き始めた。

 最初は小さな豆皿を1枚買った。その後現在、行燈旅館のコンセプトでもある有明行燈に埼玉県の骨董品屋で一目ぼれして、17年前の私の器量に似合わない金額の買い物をした時が、和骨董品収集の始まりだった。それからはせっせと全国の骨董市巡り、骨董品屋に通いだした。

 私にとっての旅は常に骨董品屋がセットである。旅先の駅周辺の骨董品屋には必ず行くし、車で走行中には両側の道路沿いを気にしながら走り、「骨董」という文字を見つけると、急停止となる。正直あまり良いドライバーとは言えない。

 その買った品々を見ると旅先の思い出がよみがえってくる。例えば、小樽で買った「招き猫」。小樽の町の夕暮れが美しかった。輪島で買った「漆の湯桶」。店主は、「もうそろそろ店を閉めたい」と、言っていた。山中湖で買った「富士山のお盆」。あの時は山中湖から見える富士山が私の購買欲をかき立てた。などなど。

 骨董品を探すのはもちろん、その土地、土地で出会う骨董品屋の店主の話を聞くのが好きだ。地元愛と共に歴史、文化、時には含蓄のある人生の話まで、とにかく個性にあふれた方々が多い。時には値段交渉でつまずくこともあり、強烈な個性の猛者がいるので正直気が気でない。

 先月は8時間のロングドライブを岐阜県の下呂温泉までした。友人と2人の道中だったが、中津川インターを降り下呂温泉まで行く間の道沿いでまさに強烈な店主と出会った。友人と買った品々を車に載せ、走り出した途端に目を合わせその強烈さとスリリングな展開に目を丸くして笑い出してしまったくらいだ。それもこれも全部ひっくるめて旅のお土産だ。

 今月は初めて秋田駅に降りた。私が秋田駅に着いてから向かった最初の場所は千秋公園と佐竹史料館であった。秋田県立美術館に行くことが一番のお目当てだったので、佐竹史料館にはあまり期待していなかったのだが、その収蔵品の一つ一つが皆素晴らしく美しく、私好みの色、デザインでとても感動した。これは骨董品屋さんに行くことがさらに楽しみになってきた。

 しかし秋田駅周辺には骨董品屋がない。近所のお店で聞いても、googleで検索しても駅周辺にはない。初めての経験である。佐竹秋田藩主の品々が骨董品屋にあるわけではないのだが、古い大館曲げわっぱくらいは見てみたかった。翌日秋田駅から早朝「リゾートしらかみ1号」に乗り込み駅を振り返り、骨董品屋がないのは寂しかったがこれも旅のお土産話だと思った。

 
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