【観光業界人インタビュー・DMO成功への秘訣 28】東大阪ツーリズム振興機構 事務局長 西田康裕氏に聞く


西田事務局長

モノ作りなどの強み生かす ラグビーイベントを好機に

――立ち上げの経緯は。

「東大阪ツーリズム振興機構は2016年11月3日、東大阪市が策定した『東大阪市観光振興計画』に基づく観光推進組織として立ち上がった。東大阪市は、約6千もの製造業を営む事業者が集まるモノ作りの地域であり、観光地として売り出すまちではなかった。組織は、市が進める新たな観光まちづくりの推進役を担い、旅行者の誘客、訪れたお客さまが地域で楽しみながら消費をしていただく仕組みを作るなど、まさに地域の稼ぐ力を引き出す役割が期待されている。来年は、『ラグビーワールドカップ2019』が開催され、東大阪市の花園ラグビー場が試合会場の一つとなった。世界が注目する機会を生かし、観光を一歩先に進める」

――現在の取り組みについて。

「地域では、航空や宇宙分野に向けた製品やオリンピックの選手が使う製品などさまざまなモノ作りが行われ、連携も盛んだ。現在、地域の特色を生かした体験を集めたイベント『ひがしおおさか体感まち博』を、10月13日から11月25日まで市内全域で開催している。1200度の鋳造体験や、エアスプレーガンで塗装する職人技術や食、スポーツなどを体感できる71のプログラムを用意した。今回のイベントはラグビーワールドカップに向けてのプレ開催の意味もあり、今後は内容を精査しながら、さらに特徴的な体験ができるプログラムを増やし、スタンプラリーなどのイベントなどとも連動させながら滞在型観光コンテンツに磨き上げていく。イベントは、大阪観光局などとも連携して、交通の拠点や都心部でも発信するなど、より多くの人に知って体験してもらえるように取り組む」

――組織の目標は。

「三つの重点施策((1)モノ作り観光(2)スポーツ観光(3)文化・下町観光)の推進だ。地域の強みを生かして基幹産業であるモノ作りに関する体験やラグビーなどを含めたスポーツ観光、東大阪の食など文化・下町の素材を使い、新たなコンテンツとして商品化、販売する」

――ラグビーワールドカップをどう生かすか。

「多くの外国人が訪れる中、外国人に受けるものを生み出し、知ってもらわなければならない。市内の学生や外国人に対し、現在のプログラムを体験してもらい、意見をいただいている。外国語での案内や発信方法など、外国人向けの取り組みも進めていく。世界へ魅力を伝えるこの千載一遇のチャンスを生かし、試合を見る前後で、東大阪の体験プログラムや食事などを楽しもうという流れを作り、良い印象を持ってもらい、再来訪してもらえるよう準備を進めていく」

 ――マーケティングは。

 「10年までは、大阪府が集計する宿泊者数データを参考にしていた。以降は、市でもデータを取っておらず、DMOが立ち上がった一昨年から本格的に調査を進めている。市内には大きなホテルが四つあり、昨年は21.5万人が宿泊し、稼働率は8~9割。今後、施設数を考えても、宿泊者数は大きく伸びない。一方、新たな宿泊施設として市内に進出してきた『まちごとホテル』をコンセプトにした新たな展開を図る事業者との連携や、日帰り旅行への対応も考えなければならない。民泊を活用しながら地域で食事を楽しめるような仕掛けを進めていくことも必要だ。モノ作りに加え、他の全ての業種を含めると約2万6千もの事業所が市内にある。また、旅のスタイルとして個人旅行化が進んでおり、訪問先でのオリジナルな体験へのニーズも高まっている。事業者の多さを多様性への武器とし、地域とともに滞在時間を延ばす商品、組み合わせを考え、消費額、消費単価の向上へとつなげる」

 ――課題は。

 「組織の課題として、訪日外国人旅行者へのマーケティングは急務。観光で地域の魅力を伸ばしていき、課題に対応して取り組んでいける人材が必要だ。また、観光を推進する組織として大きな期待をかけてもらえると同時に結果が求められている。観光振興により地域が大きく変わることを望む人も多い。しかし、短期間で大きな成果を出すのは難しい。まずは、訪れてもらえるように誘客を促しながら、新たな観光商品作りや収益事業へとつなげていきたい。組織の立ち上げ当初は、目新しいものとしてロボットを商店街に置いたり、ドローンの操縦体験の場を提供したりしたが、成果となるまでには至らなかった。訪れてもらう地域になるために付加価値は必ず必要。地震など災害への対応もその一つ。災害時の避難経路や対応などを明確にしたものを発信し、安全・安心であることを伝えることも観光を進める上で大事だ。DMOだけでなく、地域の発展、楽しい地域づくりのためにも地域とともに考え、実行していく」

 ――財源は。

 「5年間は国の交付補助金を活用し運営するが、将来は組織で稼ぎ、自立を目指している。来年のラグビーワールドカップへの対応とともに、将来に向けた組織づくり、運営も考えながら進めている。自立に向け、さまざまな切り口を持ち、テーマ性のある商品を作って磨き、市内に数多くある事業者とともに歩む組織とならなければならない。団体、個人問わず、可能性があるところとパートナーシップの関係を結びながら、地域で稼げる組織を目指す」

 ――大阪は訪日外国人客が多いが、どう取り込むか。

 「お迎えするにあたり、翻訳は必要。案内には、ただ訳すだけでは面白さはなく、見てもらえない。原文を訳す『直訳』、意味をくみ取り翻訳する『意訳』でなく、意訳をより洗練させ、見た人を引き込む『超訳』が必要だ。店舗でも書き方一つで繁盛する店もある。観光も外国人が見て面白いと思われる方がよい。大阪人の気質、下町感は外国人となじむはずだ。心と心が本物を通して通じ合うきっかけを作るためにも、魅力に感じてもらう情報発信に取り組んでいきたい」

 ――今後の取り組みについて。

 「市は『人に優しい街』をPRし、市内には障害者への支援施設、短期で利用できる医療施設も多い。海外でも日本と同様に、医療や介護、教育を課題とする国は多くある。施設やノウハウを生かすことも新たな体験だ。モノ作りの事業者を含め、地域の素材を観光と融合させ、地域と体験者、体験者と体験者の交流も増やしながら相乗効果を生み出していきたい」

 

にしだ・やすひろ=東大阪市に37年勤務し、福祉部長など歴任。退職後、東大阪市社会福祉協議会常務理事を経て、今年10月から現職。
【長木利通】

 

 
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