タイガーエア台湾 董事長(会長)黄世恵氏
台湾初のローコストキャリア(LCC)として誕生し、現在、日本と台湾を結ぶ路線で最大級のネットワークを誇るタイガーエア台湾。同社を率いるのは、チャイナエアライングループで営業、路線企画、経営管理など要職を歴任してきた黄世恵(ファン・シーフイ)董事長だ。日本市場を最重要戦略地域と位置づけ、地方都市への直行便を次々と展開する同社のビジョンと戦略、そして今後の展望について、台北の同社本社で話を伺った。
設立経緯と「台湾の翼」への転換
――タイガーエア台湾は、台湾初のLCCとして設立されたと伺っています。設立の背景や経緯、そして現在の資本構成について教えていただけますか。
「タイガーエア台湾は2014年の9月に運航を開始しました。当時、台湾にはLCCがなく、国がチャイナエアラインに設立を要請したのが始まりです。しかし、チャイナエアラインにはLCCの経営経験がありませんでしたので、シンガポールのタイガーエアウェイズと提携することになりました」
――当初はシンガポール側が経営を主導していたのですね。
「はい。チャイナエアラインが90%、シンガポール側が10%を出資しましたが、経営は完全にシンガポール側にお任せしていました。しかし3年ほど経っても収益が上がらず、経営が非常に厳しい状況になりました。当時の台湾市場は、まだ航空券をウェブサイトだけで購入する習慣が根付いておらず、旅行会社の役割が大きかったのです。100%ウェブサイトでの販売に頼るシンガポール流のマーケティングが、台湾の市場環境に合っていなかったのが大きな理由です」
――そこからどのように立て直されたのでしょうか。
「会社を継続するか、あるいは閉鎖するかの岐路に立たされましたが、最終的にはチャイナエアラインがシンガポール側の持分10%を買い取り、100%チャイナエアライングループの会社として再出発することになりました。経営陣も私たちチャイナエアライン出身者に入れ替わり、赤字だった東南アジア路線を整理して、日本の地方路線を開設することに注力し始めました」
――それが現在の日本中心の路線網につながるのですね。
「そうです。私がちょうどチャイナエアラインの福岡支店長から戻ってきたばかりで、九州の知事の方々とも親しく、皆さんが台湾との直行便を望んでいたこともあり、交渉を進めながら新しい路線を次々と開設しました。その結果、会社の経営は好転し、2019年12月には株式会社として上場準備を始めました。現在は、チャイナエアラインが70%の株式を保有し、残りの30%が市場で売買されています」
日本市場への集中戦略、全路線の8割を占める
――現在の路線構成における日本路線の比率を教えてください。
「私たちは『日本路線の専門店』と言えるほど集中しています。現在、日本の22都市に34路線を運航しており、これは全路線の約80%を占めます。例えば、名古屋へは台北、台中、高雄から、沖縄へは台北、台中、台南、高雄からと、複数の都市から路線を展開しています」
――年間でどれくらいの方々を日本へ輸送されているのでしょうか。
「年間で約200万人から220万人のお客様を日本へお運びしています。そのうち、80%以上が台湾のお客様です」
――日本人旅客の比率はどのくらいですか。
「全体で見ると約10%ですが、路線によって大きく異なります。羽田線は約28%、新潟線は約25%、鳥取の米子線も約23%と、20%を超える路線もいくつかあります。小松線も約20%です。特に岡山の路線は週12便と便数も多く、岡山県がこの10年間、非常に積極的にプロモーションを続けてくださっていることもあり、人気があります」
LCCならではの強み
――他のLCCと比較した際の、タイガーエア台湾ならではの特徴や強みは何でしょうか。
「特徴の一つは、有料で提供している機内食です。特に台湾のグルメには力を入れており、夏季と冬季の運航スケジュールに合わせて機内食のメニューを調整しています。魯肉飯(ルーローハン)はもちろん、点心やビールに合うおつまみ、インスタントラーメンも人気があります。有料ですが、美味しいとお客様にご好評いただいています」
――航空券の販売チャネルは、ウェブサイトが中心ですか。
「ウェブサイトでの直接販売が55%です。その他、クレジットカード会社や銀行との提携プロモーションが5%あります。そして、旅行会社やOTA(オンライン・トラベル・エージェント)経由での販売が40%を占めています。設立当初の教訓から、台湾市場では今でも旅行会社の存在が重要だと考えており、両方のチャネルを大切にしています」
独自のロイヤリティプログラムと企業向けサービス
――独自のロイヤリティプログラムをお持ちですか。
「はい、タイガーエア台湾独自のプログラムがあります。チャイナエアラインのものとは完全に独立しています。現在、会員数は約170万人で、そのうち頻繁にご利用いただく『タイガープレミアム』会員が3万人近くいらっしゃいます」
――会員にはどのような特典があるのでしょうか。
「貯まったポイントを、超過手荷物料金や機内食の購入など、お金の代わりに使うことができます。非常にシンプルで分かりやすい仕組みです。また、大規模な割引プロモーションを行う際には、プレミアム会員の方々が1日早く予約できる特典があり、これは大変喜ばれています」
――ビジネスでの利用はいかがでしょうか。最近、熊本にTSMCが進出し、ビジネス需要も高まっているかと思います。
「熊本へは台南と高雄から就航していますが、どちらもTSMCの工場がある都市です。将来的にはビジネス利用のお客様が半数を占める可能性があると考えています。現在はまだ観光利用が中心ですが、出張コストを抑えたい中小企業のお客様や、出張は大手航空会社、プライベートの旅行は当社、という大企業のビジネスマンの方にもご利用いただいています」
――企業向けのプランもあるのですか。
「はい。企業の福利厚生としてご利用いただける契約プランが非常に増えています。申し込みだけで費用はかからず、航空券が10%割引になるというシンプルな内容で、日本の企業様にもご契約いただいています。コスト削減だけでなく、従業員の皆様のご家族の旅行にもお使いいただけます」
台北をハブに、アジアの空をつなぐ新戦略
――今後の展開で、特に日本の観光業界にPRされたいことはありますか。
「現在、台北をハブとして、日本の地方都市と東南アジアを結ぶ乗り継ぎサービスの構築に力を入れています。例えば、岡山にお住まいの方が東南アジアへ行く際、これまでは東京や大阪で乗り換えるのが一般的でしたが、これからは台北での乗り継ぎという選択肢を提供したいと考えています。他の航空会社との連携も交渉中です」
――日本の国内旅行のような使い方もできそうですね。
「その通りです。例えば、福島の方が冬に暖かい沖縄や石垣島へ行きたい場合、台北経由で行くことができます。石垣島へのフライトは台北からわずか45分です。台北で一泊するストップオーバーも可能ですし、手荷物を最終目的地まで運ぶスルーチェックインのサービスも準備しています。これは日本の皆様にとって、時間も費用もリーズナブルな新しい旅の選択肢になると信じています」
――他に旅行者に向けた特典はありますか。
「チャイナエアライングループのお客様は、桃園国際空港のハイアットリージェンシーホテルに45%割引でご宿泊いただけます。これは私が以前、同ホテルの副総支配人を務めていた時に作ったサービスで、ストップオーバーをされるお客様にも快適な滞在を提供できます」
日本の温泉を愛する親日家として
――黄董事長は日本でのご勤務経験もおありですが、日本の温泉や旅館はお好きですか。
「はい、大好きです。もともとお風呂が好きで、温泉は体に良いと昔から知っています。私にとって温泉は一年中楽しめるものです。温泉地は地方都市にあることが多く、その土地ならではの雰囲気が面白いですし、可愛らしいお土産やお饅頭など、美味しいお菓子もたくさんありますね」
――特に印象に残っている温泉地はありますか。
「チャイナエアラインの福岡支社にいましたので、やはり九州の温泉にはよく行きました。別府はもちろん、熊本、鹿児島、宮崎も。鹿児島の指宿にある砂むし温泉は特に面白い体験でした。東京近郊では、個人的に草津温泉が大好きです。お湯の質感が素晴らしいですね。また、北海道で雪景色を見ながら入る露天風呂も格別です。温泉に入りながら美味しい海鮮をいただくのは、台湾人が北海道を好きな理由の一つでしょうね」
タイガーエア台湾 董事長(Chairperson) 黄世恵(Joyce Huang)氏 プロフィール
オーストラリアのグリフィス大学航空管理学修士、日本の東海大学国際関係学学士。英語と日本語に堪能。
中華航空(チャイナエアライン)グループで長年にわたり航空事業に携わり、営業、路線企画、経営管理など航空業界の中核業務を幅広く経験。チャイナエアライン高雄支店長、ノボテルホテル(現ハイアットリージェンシー桃園国際空港)副総支配人、米国東部地区総支配人(ニューヨーク支社)、日本九州地区総支配人(福岡支社)などを歴任。2017年から2019年にかけてタイガーエア台湾の商務長(CCO)を務め、現在の成長基盤を築いた。
経営哲学は「キレのある決断力」。タイガーエア台湾を「百貨店型の航空会社にはしない」と明確に位置づけ、6時間以内の短距離国際線に特化。低コスト・高効率なビジネスモデルを確立した。特に日本市場を最重要戦略地域と捉え、地方自治体や空港と連携し、双方向の観光交流と地域活性化に貢献している。数字と現場を重視する冷静な判断力と長期的視点で、アジアでも数少ない安定的に利益を生み出すLCCへと同社を導いている。

【kankokeizai.com 編集長 江口英一】




