【観光業界人インタビュー・DMO成功への秘訣 24】浜松・浜名湖ツーリズムビューロー 理事・事業本部長 前田忍氏に聞く


前田氏

滞在日数、消費額引き上げ 「八つの基本戦略」を磨く

 ――組織のDMO化について。

 「浜松・浜名湖ツーリズムビューローは今年4月、浜松市の外郭団体『浜松観光コンベンションビューロー』を改組し、浜松、湖西をマネジメントエリアとする地域連携DMOとして設立した。以前は、コンベンション誘致や全国の観光圏の一つとして観光振興のプラットフォーム作りなどに取り組んでいた。DMOは、課題であった観光振興の強化を、異業種との連携や協業などで推進する」

 ――現在の取り組みは。

 「八つの基本戦略、(1)効果的な情報発信の基盤整備(2)顧客の囲い込み策の構築(3)観光商品の開発と誘客促進(4)サービスの品質向上(5)広域周遊施策の推進(6)インバウンドの受け入れ環境整備(7)観光インフラの整備促進(8)地域との協働―の推進だ。効果的な情報発信の基盤整備では、以前からある公式ホームページ『浜松だいすきネット』の刷新や地域のインフルエンサーを中心としたチームを立ち上げ、情報発信に取り組む。プロによる現実味のない見せ方より、地域に住む人によるリアル感ある情報の発信は、観光客から共感や愛着が得やすい。顧客の囲い込みは、私が以前に在籍した大井川鐵道でも実績がある、ファン作りを推進する。『海の湖ファンクラブ』を立ち上げ、無料アプリの使用による地域内施設での割引や特典配布、イベント情報の発信などを行う。観光商品の開発と誘客促進では、来年4~6月に開催する静岡デスティネーションキャンペーン(DC)をきっかけに、海外向けのコンテンツなど新たな体験プログラムを生み出している。今後は、ユニット化して海外のOTAなどに販売していく。サービスの品質向上では、サクラクオリティとおもてなし規格認証に関するセミナーを開催するなど、サービスの見える化の機運を醸成していく。広域周遊施策の推進では、この地域への来訪者向けの周遊情報の発信を強化している。スマホで閲覧する情報を日本語はもちろん、英語、タイ語、韓国語、中国語(繁体、簡体)の海外の5言語で表示し、街歩きしながら観光消費が増える仕組みを作る。インバウンドの受け入れ環境の整備では、訪日客の不満点といわれる決済システムを改善する。国内のキャッシュレス比率は20%に満たない。ローカルエリアに行けばなおさら。光回線の整備がされていない山間部も含め、キャッシュレスの重要性を伝え導入促進を行っていく。観光インフラの整備促進では、バイシクルピットやサイクリストウェルカムの宿などの浜名湖周辺のサイクルインフラの整備は一定量進んだ。今後は、山間部でのトレイルランニング、天竜川の流域でのマウンテンバイクツーリズムなど、アクティビティによる参加者が集まり、地域に金が落ちる仕組み、場所づくりを進めていきたい。地域との協働では、景観整備事業に取り組む。大井川鐵道ではNPO法人『大井川流域を花で満たす会』を立ち上げ、花植えや草刈りを行い、SLの車窓から見る昔ながらの日本の原風景の作り上げにつなげた。DMOでも団体を立ち上げ、浜名湖周辺や地域の各地を整備し、来訪者が感動する地域づくりを行っていきたい。このほか、地元大学と連携し、大学生によるSNS研究チームを立ち上げ、地域の観光情報の発信や、天浜線(天竜浜名湖鉄道)の車内でのガイド案内など、共に観光振興に取り組む」

 ――組織の目標は。

 「まずは、定量的目標の決定とデータの蓄積だ。細かくKPIやKGIを設定していくが、従前からのデータ蓄積があまりされていない。マーケティングリサーチを行うために民間リサーチ企業と連携しデータ蓄積を強化する。定量的目標としては、外国人の宿泊数を重視。これまでは、行政が把握する特定の宿泊施設からのみ数字を取っていたが、ビッグデータを用いてデータを取り蓄積していく。ブランドコンセプト『海の湖』の浸透など、取り組みを推進し、エリアのリピーター率を、現在の70%弱から、70%半ばまで引き上げたい」

 ――地域での課題は。

 「定量的な課題は、この地域の来訪者は日帰り率が約50%。という現状から、2、3泊する長期滞在を増やし消費額を上げることだ。昨年は、大河ドラマの影響もあり、日帰り客が増えたが、消費を増やすためには、広域周遊を促さなければならない。まずは、新規の体験プログラムの充実と広域周遊を促進し、いったん落ち込んだ来訪者1人当たりの消費額を引き上げる。エリアには、観光資源が自然、食、産業と数多くある。多すぎて、発信するコンテンツが絞れていない。浜名湖周辺、舘山寺、浜松駅前、天竜区とそれぞれ観光に求めるもの、思いも違う。また、地域内の観光協会が独自で宣伝に取り組んでいる。今後は、コンテンツの整理整頓を行い、情報発信の一元化を行う。観光情報を交通整理し、公式ホームページ内で見やすく選びやすくする」

 ――財源は。

 「今の段階では、あまり重要視していない。われわれは、民間企業のように一人称で動き、収益を上げることが目的でなく、地域が潤う仕組みを作ることが使命だ。私個人としては過去に事業再生にも携わり、財源はないなりに工夫すれば効果は得られることを経験してきた。まずは組織内の人が創意工夫により費用対効果を高め、コストに対しベネフィットを高くすることだ。金を意識しすぎて、本来の目的を見失ってはいけない」

 ――中長期の計画は。

 「まずは、八つの戦略をブラッシュアップする。目標は倍になるかもしれないし、大きく変化すると思っている。拡大する訪日客の獲得は命題だが、国内で取り込み強化も必須だ。国内の人口減少が言われるが、人口減少率と観光減少率は同じでない。現在、国内の来客の7割は中京圏であり、関東からの誘客は2割弱と取り切れていない。関東をターゲティングした営業促進や個人客、ファミリー客の誘客に向けた施策に取り組んでいく。DMOとなり、組織はスピード感が出てきた。さらに前進するためにも、この地域の独自性や差別化の要素を企業や住民に教えていただきながら進めていきたい」

まえだ・しのぶ=北里大卒業。製薬や流通小売り、通販企業を経験。企業就業中に名古屋商科大学経営大学院(MBA)を卒業し、北海道新ひだか町のホテル、大井川鐡道の代表取締役として企業再生を行う。17年4月から現職。

【長木利通】

 
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