Trip.comグループのシニアプロダクトディレクターでTripGenie創設者のエイミー・ウェイ氏
トラベルテクノロジーのグローバルカンファレンス「WiT Japan2026」が6月1・2日の2日間、ウェスティンホテル東京で開かれた。Trip.comグループのシニアプロダクトディレクターでTripGenie創設者のエイミー・ウェイ氏が2日に登壇した。
ウェイ氏は6月2日、「コーヒーチャット:AIの行動 ― 旅行の再構築」と題したセッションで登壇し、同社のAIトラベルアシスタント「TripGenie(トリップジーニー)」の3年間の運用から得た知見を語った。インタビュアーはWiT(ウェブ・イン・トラベル)創設者のヨー・シウフン氏が務めた。
TripGenieは2023年2月にスタートした消費者向けAIプロダクトだ。ウェイ氏はその位置づけについて、「AIというのは単に経験の上に乗っかっているものではなく、旅行の経験・体験そのものだ」と述べた。
AIアシスト予約、年400%増 リアルタイム利用も300%増

同社のデータによると、AIアシストによる予約数は毎年400%増加している。また、リアルタイム翻訳などを含むリアルタイムAIツールの利用は毎年300%増加している。
ユーザーの行動変容も数字に表れている。3年前はTripGenieへの問い合わせの半数以上が旅行と直接関係のない内容だったが、現在は約6割が予約に関する質問となっている。ウェイ氏は「これは単に対応するというだけでなく、信頼を表している。TripGenieを意思決定に使っているということだ」と強調した。
「情報不足」ではなく「理解のコスト」

予約前の問い合わせの分析からは、ユーザーが直面する課題の本質が浮かび上がった。
ウェイ氏によると、予約前の問い合わせの3分の2以上は、例えば「チャンギ空港でラウンジは使えるか」といった詳細情報への確認だという。ウェイ氏はこれを「情報が足りないのではなく、理解のためのコストだ」と説明した。
AIはこうしたバラバラな情報を整理し、ユーザーが自信を持って選べるようにする役割を担っているとした。ホテルの比較機能では、従来9回必要だったクリック数が2回以下に減少したという。「これは意思決定の短縮であり、優れたAIはきちんと役立ち、その人に合ったものでなければならない。そうでなければない方がマシというような存在になってしまう」とウェイ氏は述べた。
旅行中の「マイクロモーメント」にも浸透

TripGenieは旅行の計画段階だけでなく、旅行中の利用でも広がりを見せている。
「3年経って学んだ一番大きな教訓は、これは実際の計画というよりも、旅行の中でも使っているということだ。いわゆるマイクロモーメントがたくさんある」とウェイ氏は語った。
具体的な例として、日本を訪れた際に読み取れないメニューを翻訳し、構造化されたメニューとして表示する機能を紹介。「旅行者は計画だけでなく行動を変えた。AIに対してアドバイスを瞬間瞬間で尋ねるようになっている」と話した。
単一システムではなく「専門家エージェントのエコシステム」

TripGenieのアーキテクチャについてウェイ氏は、「単一システムではなく、エコシステムとして捉えてほしい」と説明した。
一つの大きなドメインがあり、ユーザーの意図を理解した上で、価格・ホテルなどさまざまな分野のスペシャリストエージェントに分散して処理される仕組みだ。「ユーザーの質問に答えるのは業界の全てが答えるという形で、実際の在庫・価格と実態に基づいている。一つのブランドではなく、スペシャリストのチームであるAIエコシステムとして捉えてほしい」と述べた。
3月にはエージェンティックAI(自律的に行動するAI)機能を追加した。その効果についてウェイ氏は、「モニタリングしてみると40もの意図が混在している。質問をして48時間以内のコンバージョンレートを見ると、6.8%になっている」と具体的な数値を示した。
「次の飛躍」は対話内でのワンストップ購買
ウェイ氏が語る「次の飛躍」は、対話の流れの中で商品の検索から購入までを完結させる仕組みだ。
従来はモバイルデータを使うためにアプリを開き、eSIMを探し、複数の商品を比較した上で支払うという複数ステップが必要だった。新しい仕組みでは、TripGenieに同じ質問をするだけで対話の中で商品が提示され、比較・選択・発注が一つの流れで完結する。「対話の中で最後まで行くことができ、簡単なナビゲーションができる」とした。
自動化が進んでも「人間の説明責任はなくならない」

AIによる自動化の拡大に伴い、問題発生時の責任の所在についても議論が及んだ。
「AIというのは旅行者にとって自動化されるが、そこには説明責任がないわけではない」とウェイ氏は述べた。同社では決済前に、特典(ポイント)・制限・料金を明確にする仕組みを設けているという。
「テクノロジーを改善して柔軟性を高めただけで、私たちの原則は、自動化が進んだからといって人間の説明責任がなくなるわけではない。より明確にされることが重要になっている」と強調した。
問題が発生した際の責任についても、「フローそのものは一定だ。ユーザーに指摘するべきことをチャットで伝えるのは、同じ説明責任だ」と述べ、AIの導入によって責任の所在が変わるわけではないとの立場を示した。

ポリシーの「構造化」がAI活用の前提条件
業界全体へのメッセージとして、ウェイ氏はポリシーの構造化の重要性を訴えた。
「私たちの教訓は、エコシステムの中にたくさんのポリシーがあった。この業界では本当にいろんな制限が入っているが、もっと構造化させる必要があった」と振り返った。
AIが正確にナビゲートできるようにするためには、ワーキングフローグラフのような形式、すなわち「Aが起こったら次はこれ、これが起こったら次はこれ」という定量的な情報提供が必要だという。「アーティクルを人が読むのには何の問題ない。ただ、同じアーティクルをAIが読んで正しい行動をするとは限らない」とし、AIと人間では学習の仕方が異なると指摘した。
中国の「高度に接続されたエコシステム」から学ぶ


中国のAIイノベーションについての問いに対し、ウェイ氏は「中国では非常に接続性の高いエコシステムがある」と説明した。
モバイル決済や現地サービス(例:食品を注文すると30分で届くサービス)などが統合されたエコシステムの中で、AIを情報レイヤーだけでなくトランザクションレイヤー・サービスレイヤーでも実験できる環境が整っているという。「誰が進んでいるかということが問題ではない。世界のあちこちでいろんな問題を解決しようとしており、最終的には全てが一体化すると思う。とにかく早く実行することが重要だ」と述べた。
「勝ち組は一番早くではなく、複雑さを信頼へと置き換えた者」

登壇の締めくくりとしてウェイ氏は、旅行業界におけるAI活用の本質をこう語った。
「勝ち組は一番早くではなく、この複雑さ、私たちの業界の複雑さを信頼へと置き換え、人々がよりよく移動できるようにしなくてはならない。もちろん技術は拡張するだろうが、最後は信頼によって決まる」。
TripGenieのさらなる活用についてウェイ氏は、「旅行中にもっと使ってほしい。現在は約6割が計画段階での利用だが、リアルタイムの旅行の中でも使ってほしい。TripGenieは本当の意味での旅行のパートナーになってほしい」と期待を示した。
一方、AIの限界についても率直に述べた。「ユーザーの代わりに私たちが旅行することはできない。ロジスティックの問題を解決することはできるが、AIが経験・体験の瞬間を取って代わるということはありえない」。

Trip.comのTripGenie創設者であるエイミー・ウェイ氏(=左)とWiT(ウェブ・イン・トラベル)創設者のヨー・シウフン氏

TripGenie 関連データ(ウェイ氏発表)
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AIアシストによる予約数:前年比400%増(毎年)
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リアルタイムAIツール利用:前年比300%増(毎年)
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ユーザーの問い合わせのうち予約関連の割合:約6割
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ホテル比較機能導入後のクリック数:従来9回→2回以下
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エージェンティックAI追加時期:2026年3月
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48時間以内のコンバージョンレート:6.8%
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TripGenie開始:2023年2月(AIアシスタント「TripGen」として)、同年7月26日にTripGenieへ移行
【kankokeizai.com 編集長 江口英一】




