【観光学へのナビゲーター 39】多様な観光客層受け入れに向けて 日本国際観光学会オーバーツーリズム研究部会・追手門学院大学地域創造学部講師 安本宗春


安本講師

 観光振興は、これまで訪れていなかった人々を新たな人々を観光客として地域に受け入れ、交流人口を拡大する方策である。観光客は、観光行動を望む全ての人々であり、外国人から日本人と国籍、障がい者や高齢者などの身体的条件を問わず多様な人々である。新型コロナウイルス収束後の観光振興には、訪日外国人観光客への依存度が高い方策から日本人を含めた多様な観光客層と地域に暮らす住民や企業といった様々な価値観を持つ人々との共存可能な素地づくりが求められる。

 2020年以前の観光振興では、訪日外国人観光客を対象にした展開が多く見受けられた。例えば、Free Wi-Fiや公衆トイレの洋式化及び機能向上の改修・整備は、訪日外国人観光客の更なる受け入れを目指した事業でもある。これらは、日本人観光客から地域住民にも便益をもたらす。そして、事業者は、外国人観光客増加をビジネスチャンスととらえ様々な事業展開の契機にもなった。このように、観光客の増加により観光地化が進むことは、地域振興に寄与するものとなる。

 ところが、外国人観光客に依存しすぎた観光振興に対する課題も発生している。それは、社会状況変動により受ける影響が大きく、日本人観光客や地域住民の満足度を下げることである。例えば、大阪の黒門市場は、訪日外国人観光客増加から、彼らの嗜好に適う商品サービスを提供し減少する売上を補完した。しかし、外国人観光客の嗜好に合わせた商品サービスが増えたことから、地域住民や日本人観光客の利用離れが進んだ。そして2021年現在では、再び近隣住民や日本人観光客の呼び込みに苦慮している。民泊は、増加する外国人観光客に対して、遊休不動産を活用するビジネスとして成長した。ところが、観光客の利用がなくなり大阪市内の民泊施設では、コロナウイルスに感染した遺体を一時的に預かり、地域住民から苦情が発生した(2021年3月13日朝日新聞朝刊34ページ)。このように、外国人観光客への依存には様々なリスクを伴い、日本人観光客や住民の満足度が下がるリスクを包含しているのである。また、新型コロナウイルス蔓延以前から外交問題発生時に特定国の外国人観光客が大幅に減少する事例もある。

 昨今のコロナウイルスの感染拡大により、世界中の人々が疲弊している状況から人々の観光行動は、行動者側となる観光客と受け入れ側となる地域社会の双方に不可欠な存在である。観光客は、余暇に観光行動を通じて精神的な豊かさを充足する手段である。そして、観光客を受け入れる地域は、経済・社会の活性化を展開する方策である。それゆえ、地域住民と観光行動を望む全ての観光客から親しまれ、共存可能を図る観光振興が、コロナウイルス収束後に求められよう。

 
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