【経営の知恵】入浴施設のレジオネラ対策 関東保全サービス 代表取締役会長 堀井孝志氏


堀井会長

衛生管理でも求められる「品質」

 東京五輪に向け、増大するインバウンド需要。その影響もあり、訪日客が国内の温泉など入浴施設を訪れる機会も増えている。おもてなしの心も含めて「MADE IN JAPAN」の品質を入浴施設に期待する声もあるが、旅館やホテルなどの入浴施設で求められる「品質」とはどのようなものなのか。今回は、衛生管理に焦点を当て各施設での心構えなどを、入浴施設の衛生管理事業などを手掛ける関東保全サービスの堀井孝志会長に聞いた。

 ――衛生管理という視点で、ホテルや旅館などの入浴施設に求められる「品質」とは。

 「何よりも大切なのは、管理者の意識。もう一つは、正確な衛生管理の管理基準を知ること。施設には、さまざまな商材や設備機器の情報とともに、衛生管理の知識の一部が切り取られて入ってくる。その情報をそのまま管理基準にしている施設も多く見受けられる。管理者の意識、正確な管理基準を知ることが重要だと考えている」

 ――今回発刊された「自主管理マニュアルの作り方・活かし方」は専門家でなくても入浴施設の管理運用ができるようにするためのノウハウが分かりやすく書かれている。このマニュアルをどのような人に活用してほしいと考えているか。

 「入浴施設は、自主管理体制を構築する一環として、自主管理マニュアルを作成することが法令で定められている。しかしながら、マニュアルの具体的な例がないため、ほとんどの施設で手が付けられていない。私は日頃、レジオネラ属菌が検出された施設や患者が発生した施設から、再発防止や改善に必要な調査や改善施工を行っているが、事故を起こす施設には、従事者に衛生管理教育をしていないという共通点があると気付いた。なので、現在、依頼を受ける条件に、従事者との懇談と、決裁権のある責任者との面談をすることにしている。時には、保健所の担当者も交えた懇談会を行う。これは、従業者が保健所に抱いている怖さのような垣根をなくし、保健所には『指導されるだけでなく、相談もできる』という意識を持ってもらうようにしている」

 「次に、従事者が行っている日常作業は、自分流になっていることが往々にしてある。そこで、休憩時間などに従事者間で情報交換するよう促している。結果、従来よりも情報共有することができ、風通しが良くなったとの報告もあった。これらの経験をまとめたのが今回発刊したマニュアル。施設の責任者や従事者には正確な情報が乏しいので、施設だけで自主管理マニュアルを作るのは難しい。施設の管理業者や衛生監視指導に当たる保健所の方々にも本誌を読んでもらい、活用してもらいたい」

 ――さまざまな現場で改善指導する中で、共通する問題点や改善方法など、アドバイスがあれば。

 「設備の不備などがレジオネラ属菌の発生原因になるが、本質はそこに携わる人たちの意識や認識の厚薄に起因している。特に、改善の成功には経営者の関わり方が重要。経営者が直接関わっている施設は問題解決が早く、衛生管理が計画的、持続的に実施できるが、決裁権を付与していない責任者が間に入っている場合、改善内容にバラツキのある見積書を取り集めて、価格が高いか安いかで判断してしまうことが多く、この場合には、本質的な改善ができていないために、再発する事例が散見される」

 ――平成25年に発起人の1人として「レジオネラ対策推進協議会」を立ち上げているが、設立の趣旨と具体的な活動内容は。

 「レジオネラ属菌が検出された施設に、保健所から改善指導しても適切に対応できる業者が少ないとともに受け皿になる組織がなかった。そこで協議会の設立を検討し、レジオネラ対策は、現場における改善、解決力のある専門業者の育成が必要との認識を共有する方々の協力を得て発足することができた」

 「現在は、現場に軸足を置いた講習会を中心に活動している。受講者は、設備管理や施設管理業者などだが、埼玉県および周辺自治体の保健所担当者にも参加してもらっている。入浴施設だけではなく、冷却塔や給湯設備のレジオネラ対策講習会も好評を得ている。設立テーマの一つとして、公衆浴場の定期検査を制度化した安全体制を提唱しており、そこに向けた人材育成や検査方法の確立などが今後の課題だ」

ほりい・たかし 1981年、関東保全サービス設立。2001年から入浴施設のレジオネラ対策に取り組む。09年には、レジオネラ対策センターを開設し、施設の衛生対策、レジオネラ対策に注力する。12年、厚生労働大臣表彰を受賞。現在は、講師活動などにも取り組む。著書に「入浴施設のレジオネラ症防止対策ガイド」など多数。

【小林大樹】

 
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