地域創生ソリューション株式会社代表取締役社長 檜垣克己(ひがき・かつみ)氏
地域創生ソリューション(東京都千代田区)の新たな代表取締役社長に檜垣克己氏が就任した。JTBで法人営業や行政対応を長年担い、公益社団法人日本観光振興協会の常務理事を経て、今度は「投資」の立場から観光産業と地域創生に向き合う。「訪れてよし、住んでよし、働いてよし」に「投資してよし」を加えた好循環の実現を掲げる新社長に、経営方針や今後の展望を聞いた。【kankokeizai.com 編集長 江口英一】
JTBから日本観光振興協会、そして「投資の現場」へ
――これまでのご経験を、今後の経営にどのように生かしていきたいとお考えですか。
「JTBでは35年ほど、法人のお客様を対象にソリューション営業を推進してきた。主に会議、インセンティブツアー、イベント・コンベンションなど、いわゆる『旅行』というよりMICEを中心に扱ってきたが、JTB自体も次第に『旅行事業』から『交流創造事業』、送客ビジネスから地域に誘客するビジネスにシフトしていった。」
「役員としての私自身は国および東京都などの行政対応の役員として動いていたので、国が何を求めているか、地域行政が何を求めているかというところをずっと整理してきた」
「その『何を求めているか』の主語を地域に置き換え、私たちはソリューションとして提供していく。それがJTBのビジネスだった。47都道府県すべてに支店を置き、47DMCと社内では呼んでいたが、そういった考え方で全国に展開していくというのを経験してきた」
「そして日本観光振興協会の常務理事に出向した際は、本当に必要なことを国に提言する役割を担った。地域から求められていることを発信し、観光DXに資する取り組みやデータの重要性を協会として訴えてきた。そういった力は今、当社でも役立てていきたい。単なる不動産ファンド投資をするのではなく、地域のためになるファンドを目指していく」
株主の多様性こそ最大の強み
――地域創生ソリューションの強みと課題を、どのように捉えていますか。
「株主は三菱UFJ銀行、積水ハウス、三菱地所、JTB、日本航空、大和不動産鑑定、三菱総合研究所、明治安田生命保険の8社。」
「この会社に行くと話したとき、周囲は驚いていた。三菱UFJ銀行や三菱地所が地域の観光まで考えてくれているのか、という驚きだったと思う。国の成長戦略である『観光』というテーマに集まった企業群、しかもそれぞれがユニークで、バラエティに富んでいる。その企業群が集まってこのファンドを支えてくれているというのが、一番の強みだと思っている」
「強みはそれだけではない。普通のファンドとは違って、地域にホテルを建てたら終わりという発想ではなく、ホテルを建てることで地域にどういう経済波及効果があるか、地域自体のブランドを上げていくかを考えている。地域のブランドが上がればホテルの価値も上がる。その好循環をつくるためには、不動産ファンドだけでなく、ベンチャーキャピタルとしての機能も持っている。地域と接点を持ちにくいベンチャーが投資先のホテルや地域と出会う機会をつくるプラットフォームとして機能していくことが強みになっていく」
「課題は、そうは言ってもまだやりきれていないというところ。例えばソリューション投資といっても、そのソリューションをしっかりと伝えきれているか。強みをもっと生かしていく、もうワンステップ上がった発想が必要だと思っている。また、株主の8社が地域の不動産にもベンチャー企業にもこういう活動をしているということを、もっと世の中の人に知ってもらいたいとも個人的には思っている」
「観光は真似されない」――基幹産業への道
――「観光を日本の基幹産業に」という理念を実現するため、今後特に力を入れたいことは何ですか。
「観光は自動車産業に次ぐ輸出産業と言われるが、本当に真の基幹産業になっているのか、観光産業に携わっている人たちが本当にそう感じてやっているのかというところを問い直したい」
「例えば自動車産業は今、各地域が工場を誘致したとしても、ロボット化・オートメーション化が進んでいるので雇用の機会などを考えても経済波及効果は限定的だ。一方で観光は、雇用創出は基より、旅行者が来て、お金を落とす。それだけではなくホテルを1軒作るだけでも、そのホテルが使う地元食材の生産者や流通業者、リネンや清掃業者など、地元経済への波及効果が非常に大きい。」
「何より、観光は真似されない。様々な技術は模倣されるが、観光はそれぞれの地域に特色があるので真似されないという強みがある。日本の将来には絶対に必要な産業だ」
――インバウンド需要が拡大する中、日本の観光産業にはどのような可能性があると考えますか。
「これだけ世界の人たちが日本の観光に興味を持ってくれている。しかも安全で、安心できる地域というのは世界の中でも珍しいと思っているので、自信をもって日本のコンテンツとしてしっかりと磨き上げる必要がある」
「一方で、インバウンドの拡大によるオーバーツーリズムやマナーの問題という課題も出てきている。地域ではしっかりと対策しなければならない。宿泊税もそういったものに使ってほしいという思いがある。スチュワードシップが重要であるが、マナー教育などの発信だけではなかなか難しいところはソリューションで対応する必要もある。オーバーツーリズム対策やマナー対策のソリューションを提供しているベンチャーと地域を組み合わせていきたい」
ミートアップが生む「出会いの場」
――ホテルや観光施設への投資と、観光関連ベンチャーへの投資を今後どのように連携させていきますか。
「様々な事業者を随時紹介しているほかに、半期に一度ミートアップイベントを開催している。このイベントは広く一般から募るのではなく、株主や地域金融機関、企業投資家の有限責任組合員の方々を中心に、実際に投資しているベンチャー企業などが集まる交流会だ。基調講演やベンチャーのビジネス紹介を行った後、交流会を出会いの場にしている」
「地域金融機関の方々は地域の課題をよくわかっている。一方でベンチャーには課題を抱えた地域への足がかりがない。ミートアップはその両者をつなぐ場として機能させている」
――地域の魅力を生かした投資を行う上で、最も大切にしたい視点を教えてください。
「意外と地域の魅力は、地域の人が気づいていないケースもある。特に外国人が気づくというのも多い。地域の人どころか日本人が気づいていないところも実際にある」
「一方で地域の人が素晴らしいと言っていてもマーケットに響かないケースはよくある。全国に投資するファンドとして、各地域の魅力を全国でやっているからこそわかる目利き力を持っていきたい」
――温泉については、特にキラーコンテンツとして位置づけていますか。
「個人的には温泉は単なるスパではなく、日本固有の文化資源だと思っている。温泉という言葉が世界共通言語になっていけたらよいとも思っている。温泉文化を世界遺産にしようという活動も行われている。温泉のよさは映像や言葉で伝えにくい。だからこそ来て体験してもらうことが重要だ」
「掛け算になる組織」を目指す
――今後の組織づくりで大切にしたいことを教えてください。
「就任後、社員全員とコミュニケーションを取った。それぞれが背景を持ったプロフェッショナルで、スペシャリストとして強みを持っている。ただ、そのベクトルがバラバラになってしまうと、いくら一人一人が強くても、会社としての力が十分に発揮できない」
「掛け算になっていかないと組織はダメだと思っている。方向性をしっかり示すことが私の役割で、個々のプロフェッショナルの力を生かす組織にしていきたい。それは出向人材も頂いている株主の企業群の力を生かしていくということにもつながっていく」
――ファンドの運営状況は。
「1号ファンドは組成金額200億円で2023年4月に投資期間を終え、現在は回収フェーズにある。2号ファンドは2023年5月31日組成、組成金額114億円で投資期間中。2026年4月末現在で54.6億円の投資をコミットしている。3号ファンドについては、1号ファンドの回収にめどが立った段階で組成を検討する方針だ」
「今一度、このファンドのビジョン、ミッション、バリュー、ブランドを株主および投資家の皆さんと議論して決めたい。そのうえで次のファンドへとつなげていく」
「訪れてよし、住んでよし、働いてよし」に「投資してよし」を加えた好循環、その実現に向け、新体制のALL-JAPAN観光立国ファンドは次のステージへと踏み出す。

檜垣克己(ひがき・かつみ)氏
1988年、株式会社日本交通公社(現JTB)入社。MICE法人営業・ソリューション型営業に従事。2016年(株)JTBコーポレートセールス 取締役マーケティング部長、2018年(株)JTB執行役員法人事業本部事業推進部長、2021年同常務執行役員ツーリズム事業本部副本部長・全社広域営業推進担当役員・東日本広域代表・スポーツ担当役員を務めた。2024年より公益社団法人日本観光振興協会常務理事。2026年6月、地域創生ソリューション株式会社代表取締役社長に就任。




