「ヨーロッパにとって日本は60年来の古い友人」 欧州観光連盟トム・ジェンキンスCEOに聞く組織の役割と日本市場の未来


欧州観光連盟トム・ジェンキンスCEO

 9月24〜28日の期間、東京ビッグサイトで開催された「ツーリズムEXPOジャパン2026」の欧州ブース出展に合わせて来日した欧州観光連盟(ETOA)のトム・ジェンキンスCEOにETOAの役割や日本の観光業界との関係などについて聞いた。【kankokeizai.com 編集長 江口英一】

ETOAとはどのような組織か

 ――ETOA(European Tourism Association)は日本語で「欧州観光連盟」と訳されていますが、実態はどのような組織ですか。

 ETOAは主に欧州各国のツアーオペレーターが加盟する業界団体です。ヨーロッパの各国にある受け入れ・送客のオペレーターのほか、世界各国から欧州旅行商品を扱う旅行会社も加盟しています。

 1989年に設立。当時、欧州を訪れる観光客に対して業界のルールやレギュレーションがほとんど存在しない状況だったため、必要性に応じて立ち上げた団体です。設立当初から、日系企業も加盟しており、JTBやHISといった日本の大手旅行会社も名を連ねています。

 ――どのような企業が加盟していますか。

 現在、約300から400のツアーオペレーターが加盟しています。日本の旅行会社だけでなく、米国、オーストラリア、中国などの企業も参加しています。

 ツアーオペレーターに加えて、ホテルや観光関連の企業も一部加盟しています。ホテルなども含めると加盟社は約1000社にのぼります。OTAではExpediaやTrip.comがメンバーとして加わっていますが、すべてのOTAが加盟しているわけではありません。Airbnbは加盟していません。

 ――具体的にはどのような活動をされていますか。

 活動の柱は大きく二つ。一つはワークショップの開催とB2Bミーティングの場の提供です。

 ヨーロッパ各国はもちろん、中国、インド、日本、南米、米国など世界各地でワークショップを開催しています。このワークショップには世界各国のバイヤーと欧州側のサプライヤーが集まり、1対1の商談が行われます。ホテルやDMC、観光施設などと旅行会社をつなぐBtoBのマッチング機能が主な役割の一つです。

 もう一つが政策提言とロビー活動。会員の利益に反する政策や規制の変更に対して、各国政府やメディア、ジャーナリストに働きかけを行うことです。

 

欧州運営上の課題――コーチ規制と宿泊税問題

 ――ヨーロッパで観光事業を運営する上での課題は何ですか。

 現在、欧州各地での観光バス(コーチ)のアクセス制限が大きな問題となっています。多くの都市がコーチの市内中心部への乗り入れを禁止しており、コーチのドロップオフ(乗降場所)の確保が日本のグループ旅行にとっても深刻な課題となっています。

 もう一つが地域の宿泊税(アコモデーション・タックス)の問題です。旅行業者がホテルと契約を結び、旅行商品を販売した後に、突然、宿泊税の追加や引き上げが発生するケースがあります。税率変更の通知が、わずか3〜5か月前というケースも少なくありません。

 日本の旅行会社は通常、24か月前に契約を確定させます。税制が後から変更されれば、旅行業者はその差額をクライアントに請求するか、自社で損失を被るかという二択を迫られます。これは契約上のリスクとして、業界全体の大きな課題です。

 ――ETOAはそうした問題にどのように対応していますか。

 まず、そのような契約形態は「良い考えではない」と明確に業界内で伝えることが第一歩です。そのうえで、政府や政府系メディア、ジャーナリストに対して問題提起を行い、事前告知の必要性を訴えています。

 ETOAとしては、税率変更の予定を少なくとも18か月から20か月前には業界に通知するよう、各国政府に強く働きかけています。現状でも、「2028年からの変更」というかたちで十分な予告期間を設けることを求めています。

 宿泊税について言えば、観光客に対して課税をすることは、ホテルへの投資価値を下げることにつながります。これは旅行に投資する税金ではなく、投資意欲そのものを削ぐ行為です。フランス、イタリアなど大きな財政を抱える国々が税収確保の観点から課税を進めるのは理解できますが、観光産業全体への影響を無視することはできません。ヨーロッパに限らず全国的な問題として、大きな声で問題提起を続けています。

 

日本と欧州、60年の信頼関係

 ――日本の観光庁やJNTO、JATAとはどのような関係にありますか。

 JNTOとはインバウンド、アウトバウンド双方の観点から良好な関係を維持しています。JATAとも良い関係を保っており、日本への送客や日本からの欧州向け旅行に関する接点を継続して持っています。

 ――日本市場をどのように位置付けていますか。

 日本市場は、ETOAにとって非常に重要なパートナー。欧州と日本の観光交流は1960年代から続いており、60年以上にわたる深い信頼関係があります。ヨーロッパにとって日本は「古い友人」、そして「古い友人はいなくなることはない」という関係です。

 英語圏の市場(米国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドなど)とは異なる、独立した市場としてヨーロッパは日本を評価しています。訪日旅行者の数だけで市場の価値を測ることはできません。訪問者の質、マナー、安全性、サービスに対する理解の深さ——日本人旅行者はヨーロッパの現地でも高く評価されています。

 ――かつての日本市場と、現在の日本市場の違いはどこにありますか。

 1990年前後の日本市場は、非常に安定した市場でした。旅行会社が24か月前にホテルのアロットメントを確保し、40室を一括で予約するといった契約が当たり前のように行われていた時代です。ホテル側も喜んで受け入れ、お互いにとって理想的なビジネス関係でした。

 現在は状況が変わっています。日本の旅行者ニーズが多様化し、1ベッドか2ベッドか、シャワーかバスかといった細かい要求への対応が求められるようになっています。顧客のニーズに応えられなければ、ツアーオペレーターには罰金が発生するケースもある。今はまさに顧客主導のマーケットです。

 ヨーロッパのホテルは、ヨーロッパの基準でデザインされています。日本市場向けにホテル自体が変わることは難しい。その中でいかに日本のお客様が求めるサービスに近づけるか——そこに双方の努力が必要です。

 

AIの進化と、変わらない日欧の流れ

 ――今後の旅行市場の見通しについてはどうお考えですか。

 欧州と日本の間での旅行の流れそのものは、今後も大きく変わることはないと考えています。50年から70年にわたって続いてきたこの関係を大切にしながら、次の世代へつなげていくことが重要です。

 ただし、今後10年で変化する部分も多い。特にAI(人工知能)の進化が旅行検索や予約行動に与える影響は大きく、顧客がどのように情報を探し、どのように旅行を手配するかは大きく変わっていく可能性があります。ブッキングの形は変わり得る。だからこそ、変化する環境に適応しながら、日本とヨーロッパが協力体制を維持し続けることが不可欠です。

 

日本の温泉、そして映画『タンポポ』

 ――日本の温泉や旅館に行かれたことはありますか。

 はい。京都のホテルの中にある伝統的な温泉を訪れたことがあります。古い建物のなかにある温泉で、非常に印象的な体験でした。

 ヨーロッパが日本から学べることは多い。見た目の美しさ、信頼性、安全性、そして笑顔——これらは日本のサービス品質を象徴するものであり、ヨーロッパの観光業界にとって大いに参考になるものです。

 ――お好きな日本料理は何ですか。

 ラーメンです。何年か前に日本映画『タンポポ』を観て以来、日本の麺料理に強く興味を持つようになりました。『タンポポ』は麺、そしてラーメンをテーマにした作品ですが、あの映画を観てから、日本の食文化の奥深さを改めて感じています。

 ――最後に、日本の観光業界へのメッセージをお願いします。

 日本とヨーロッパの旅行業の協力関係は1960年代から続いています。これだけ長い期間にわたって積み上げてきた信頼関係は、他の市場にはない財産。その関係を今後も大切にしながら、AI時代の変化にともに適応していきたい。ヨーロッパは日本の古い友人であり続けます。

 

トム・ジェンキンス(Tom Jenkins)氏

 欧州観光連盟(ETOA)CEO。ブリストル大学で英文学・歴史学の学士号を取得後、ロンドン大学コートールド美術研究所で2年間の大学院研究に従事。アメリカン・エキスプレスで複数のマネジメント職を歴任し、訪欧レジャー旅行事業全般を統括。在職中には統合型コンピューター予約システムの導入、業界初のインタラクティブCD-ROM版旅行パンフレットの開発、ヨーロッパ全域で活動する350名のツアーマネージャーの統括などを手がけた。その後、エキノックス・トラベルの取締役を経てETOAに参画。CEOとしてのリーダーシップのもと、ETOAの活動領域は大きく拡大し、会員数は2倍以上に増加。現在、年間800万人の訪欧旅行者の利益を代表する組織へと成長させた。歴史都市における観光客のアクセス向上の推進、ヨーロッパ全域での観光バス安全基準の策定主導、EU付加価値税制度の改正に反対するキャンペーンの主導(欧州5,000件の観光関連雇用への影響が懸念された法改正の見直しに貢献)など、業界への提言活動でも広く知られる。BBC、CNN、CNBCなど多数のメディアから「観光業界の専門家」としてコメントを求められている。

 
 

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