【竹内美樹の口福のおすそわけ272】おろしニスト! 宿泊料飲施設ジャーナリスト 竹内美樹


 お料理好きの筆者だが、ちょいと苦手なのが大根などをおろすという作業。腕が疲れるし、ショウガをおろした後などは、おろし金に繊維がこびりついてなかなか取れず、とても厄介だ。

 そんな強敵を心から愛する、「おろしニスト」なる人がいる。東京台東区「かっぱ橋道具街」にそのツワモノはいた。大正元年創業、料理道具専門店「飯田屋」の6代目、飯田結太社長だ。

 店で取り扱っているおろし金は、何とその数220種類! 日本だけでなく世界中のおろし金を集めた、「おろし金の聖地」と言われている。そう、忘れちゃいけない、世界を見渡せばチーズおろしやナツメグおろしなども存在する。
 人気のテレビ番組「マツコの知らない世界」をはじめ、「おろしニスト」としてメディアで話題の同氏。おろし金にこだわるようになったのは、ある出来事がキッカケだったそうだ。

 割烹を営む料理人から、軟らかい食感の大根おろしができるおろし金を探してほしいと依頼があった。当時同店で扱っていた3種類のおろし金で大根をおろしてみると、とても軟らかいとは言い難いものだった。そこで各メーカーから取り寄せ試してみたところ、おろし金によって全く異なる大根おろしができることが分かった。

 同氏によれば、「ふわふわ」「ふわシャキ」「シャキふわ」「シャキシャキ」「ジャキジャキ」の5タイプに大別できるそうだ。刃が鋭角で上向きだと繊維がしっかり切れ、ふわふわで甘くなる。逆に刃が鈍角で斜めだと、シャキッと食感が残り辛味が出るという。その後全てのニーズに応えたいと、品ぞろえが増えていったのは言うまでもない。

 さらに同店ではおろし金だけでなく、200種類以上のフライパン、2千種類以上のお玉をはじめ、合計約8400アイテムを扱っているという。飲食店不況と言われる中、同業他社がひしめくこのエリアで厳しい戦いを強いられてきた同店だが、6代目を受け継ぎ、30代半ばにして売り上げを右肩上がりに伸ばした飯田社長、単にマニアックなだけではなかった。

 彼は、87600という数字が大好きだと言う。1日3食で人生80年と考えると、人間は一生のうち8万7600回幸せになるチャンスがあるというのだ。料理人って、食べ物で人を幸せにできる職業だけれど、実は料理を作って当たり前、あまりありがとうと言ってはもらえず、辛いことの方が多いのでは?と分析する。

 自分たちは、そんな料理人を喜ばせるための道具屋なのだと胸を張る。料理人は自分にピタッと合った道具を手にすると、テンションが上がってますます良い料理を作るようになり、それを食べた人はもっと幸せになる。そんな幸せの連鎖を起こしたいのだと。

 ご縁あって同店に伺い、飯田社長にお会いした。料理道具に対する熱い思いを、ヒシヒシと感じた。モチロン筆者もアドバイスをいただき、「ふわふわ」タイプのおろし金を購入した。早く使ってみたいな!

 ※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。

 
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