【竹内美樹の口福のおすそわけ259】てびちのフライ 宿泊料飲施設ジャーナリスト 竹内美樹


てびちのフライ

 沖縄に、1958年創業の老舗洋食レストランがある。その名は「ピザハウス」。米軍嘉手納基地に隣接する旧コザ市にオープンした同店。時は米国初のピザ宅配システムが誕生する1960年より少し前、アメリカでピザがブームになっていたのでこの名を付けたそうだ。それも評判を呼び、当時はほぼ9割が米軍基地のお客さまで、日本人は入れるのかと聞かれることもあったという。その後、宜野湾市大山を経て、浦添市城間の旧アメリカ総領事館を南欧風に改装し移転。筆者がフレンチの鉄人坂井宏行シェフのご紹介で初めて同店を訪れた際は、まだこの場所だった。

 その後、道路拡張工事に伴い2010年に惜しまれつつ閉店。そして2017年、ついに浦添市港川に「ピザハウス新本店」が6年ぶりに復活した。3階建ての建物に、ダイニングとバーラウンジ、個室からなる約200席という大箱だが、予約が取り難いほどの大盛況。

 全日本司厨士協会沖縄県会長も務める同店代表取締役社長坂本昭司氏は、前出坂井シェフのフランス料理店「ラ・ロシェル」で10年間修業を積んだ後、外務省在キューバ日本大使館公邸料理人、在沖縄アメリカ総領事公邸料理人等を経て現職に就いた。同店だけでなく、その味をカジュアルに楽しめる「ピザハウスジュニア」9店舗の総料理長として、またセントラルキッチン工場長としても活躍されている。

 同店では、ドライエイジングの熟成牛、熟成豚の他、標高1300メートルに位置する信州八ヶ岳食工房で仕込んだ生ハムなど、こだわりのメニューがいっぱい。筆者のイチオシは、坂井シェフに「絶対アレだけは食べてみて!」と勧められた「マニラ風豚足(てびち)のフライ、ニンニクソース」。

 てびちとは、沖縄の島言葉で豚足のこと。「マニラ風」と呼ぶだけあって、実はCrispy Pataというフィリピン名物料理の一つなのだ。オーダーすると、巨大な肉塊が運ばれてくる。県産琉球豚の、味が良いとされる前足のみを使用。あめ色に輝く皮はサックサクで、肉はとても軟らかくジューシー、豚足ならではのプルプルねっとりしたコラーゲンも堪能できる。

 坂本シェフが教えて下さったルセットは、以下の通り。下処理したてびちを、ニンジン、セロリ、玉ネギ、エシャロット等香味野菜をみじん切りにしたミルポワと共に、酢や調味料を入れ沸騰させず4時間煮込む。その後1日寝かせて肉汁を閉じ込め、15分間低温で素揚げにするのだ。

 恐ろしく手間が掛かるこの料理、残念ながらジュニア店では提供していなかったので、6年間コレを待っていたと言っても過言ではない。鉄人自らが大好物と仰るのもうなずける。

 今回新たに石窯を導入し、本格的なナポリピッツァを提供するようになったそうだ。変わらない味を守りつつ進化しているからこそ、「懐かしくて新しい」と人々に愛され続けるのだろう。てびち、また食べたくなっちゃった!

※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。

 
新聞ご購読のお申し込み

注目のコンテンツ

第37回「にっぽんの温泉100選」発表!(2023年12月18日号発表)

  • 1位草津、2位下呂、3位道後

2023年度「5つ星の宿」発表!(2023年12月18日号発表)

  • 最新の「人気温泉旅館ホテル250選」「5つ星の宿」「5つ星の宿プラチナ」は?

第37回にっぽんの温泉100選「投票理由別ランキング ベスト100」(2024年1月1日号発表)

  • 「雰囲気」「見所・レジャー&体験」「泉質」「郷土料理・ご当地グルメ」の各カテゴリ別ランキング・ベスト100を発表!

2023 年度人気温泉旅館ホテル250選「投票理由別ランキング ベスト100」(2024年1月22日号発表)

  • 「料理」「接客」「温泉・浴場」「施設」「雰囲気」のベスト100軒