【逆境をチャンスにー旅館の再生プラン 797】番頭なき時代の経営論(4) 青木康弘


 前回コラムでは、自館が積み上げてきたデータからコンセプトを引き出し、何を磨くか、何をしないかを決める判断軸を持つことの重要性を述べた。今回コラムでは、その軸を実現する人材の採用・定着にAIをどう生かすかを取り上げたい。

 「求人を出しても応募が来ない」「採用しても1、2年で辞める」。旅館・ホテルの経営者と話すとき、財務や集客よりも人手不足こそが最大の問題だという声が増えた。この状況は、今後さらに深刻になるだろう。厚生労働省は勤務間インターバル制度の義務化を視野に労働基準法改正の議論を進めており、従来型の中抜け勤務は、いずれ成立しにくくなる。外国人材についても、技能実習制度は2027年4月に育成就労制度へ移行することが決定しており、採用競争はさらに激化していく。勘と経験だけで対処できる時代は、終わりつつある。

 ただし、すべての旅館・ホテルで人手不足が深刻かというと、そうではない。同じ地域でも、応募が殺到する宿と、高額の求人広告を出しても応募が少ない宿に、はっきりと分かれている。差は給与水準だけではない。両方の宿の求人票を並べて読むと、ほぼ決まって同じ違いが見えてくる。応募が来る宿には、この職場で何を学べるか、どう成長できるかという働く価値が書かれている。来ない宿には、業務内容が淡々と記載されているだけだ。

 もし採用難に悩んでいるのであれば、こういうAIの使い方がある。自館と競合の求人票をAIに投入し、応募者の視点で自館に欠けている訴求ポイントを列挙させる。さらに、新卒・転職者・Uターン希望者という三つのターゲット別に改善案を作成させる。裏付けを持った効果的な採用活動が行えるようになる。

 定着の問題は、多くの経営者が考えているより根深い。観光庁調査によれば、宿泊業から他業界への離職理由の第1位は「自分のしたい業務ができなかったから」(20.0%)であり、体力面や業務量を上回っている。業界内転職の理由でも「スキルアップや自身のスキルを活用する機会が不十分」(18.5%)が上位を占めた。仕事を覚えた後のマンネリ化、キャリアの将来像が描けないこと。これこそが宿泊業の定着を阻む核心だ。同調査では、研修を実施している施設ほど離職率が明確に低い傾向が示されている。スタッフ一人一人の成長機会をどう設計するかが、定着の鍵となる。

 ここでもAIが役に立つ。各スタッフの職歴・担当業務・得意分野をAIに入力し、3年後のキャリアパスと、そこに至るための段階的な育成計画を作成させる。さらに、現在の業務リストと新たな取り組みの案を入力し、廃止または簡略化できる既存業務を根拠と合わせて整理させれば、成長の時間を生み出す余地も見えてくる。

 採用も定着も、かつては番頭が担っていた仕事だ。誰を採用するか、どう育てるかを決めるのは経営者だが、その判断の材料を1人で抱え込む必要はない。AIは求人票の一字一句からスタッフのキャリア設計まで、経営者が目を通しきれない情報を整理し、選択肢と根拠を示してくれる。人手不足が深刻化する今の時代こそ、番頭なき経営者が頼れる参謀として、AIを使いこなしてほしい。

(アルファコンサルティング代表取締役)

 
 
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