【竹内美樹の口福のおすそわけ 320】納豆ワンダーランド その1 宿泊料飲施設ジャーナリスト 竹内美樹


 最近やっとマスク不足が解消されてきたが、コロナ騒動当初は、トイレットペーパーなども品薄になった。他にもスーパーの棚から消えた物がある。納豆だ。誰が情報の糸を引いていたのか分からないが、新型コロナウイルスに効くとウワサされたからだ。

 後からSNSなどでデマだったと判明したが、まんざらガセネタだけというワケでもなさそうだ。納豆は確かに、免疫力アップに役立つらしい。体の免疫機能を司る臓器は腸といわれるが、納豆には整腸作用があるからだ。納豆菌は熱に強く、100度で煮沸(しゃふつ)しても生きているという。だから生きたまま腸まで届き、ビフィズス菌を増やして腸内環境を正常化するんだそう。その結果、病原菌や腐敗菌などの有害菌が排除されるというのだ。

 納豆菌には抗菌作用もあり、抗生物質が発見される前は、腹痛や下痢の治療にも用いられていたそうだ。納豆菌がサルモネラ菌や病原性大腸菌の発育を阻害するという実験データもある。

 また、今年国立がん研究センターが、「納豆の摂取量が多いほど循環器疾患死亡リスクが低い」という調査結果を公表した。さらには、納豆のネバネバ部分に含まれるタンパク質分解酵素ナットウキナーゼに、血栓を溶かす作用があることも分かっている。納豆って、実は超スーパーフードなのだ!

 それにしても、最初に納豆を食べた人ってチャレンジャーだと思う。ネバネバ糸を引いている上、臭い。筆者は大の納豆好きだが、ダメな人はあの臭いがイヤだという。世界を見渡せば、インドの「バーリュ」やネパールの「キネマ」など、糸引き納豆を食す習慣のある国も存在するが、欧米人にとってはオドロキの食べ物らしい。海外でも健康志向と共に発酵食品ブームが到来し、今は理解を得られているが、かつては、なぜ日本人は腐った豆を食べるのか?と訝(いぶか)られた。

 そもそも、納豆はどうしてできたのか? 諸説あるが、いずれも偶然説だ。縄文時代や弥生時代から食べられていたともいわれる。当時の竪穴式住居では、床に稲わらを敷いており、そこには納豆菌も潜んでいる。煮た豆がその上にこぼれ、適度な温度と湿度があれば、発酵が進むだろう。

 歴史上の人物に由来する説としては、聖徳太子説や加藤清正説などいろいろあるが、最もポピュラーなのは平安時代後期の武将、八幡太郎義家にまつわる納豆発祥説。後三年の役の際、軍馬の飼料の煮大豆が足りなくなったため、農民に提供させた。急いだので煮た大豆をあまり冷まさず俵に詰め、数日たったら発酵していたという伝説だ。兵糧の大豆を馬の背で運んだら、体温で温められて発酵したなどバージョンはさまざまだが、義家説は東北各地で伝承されている。

 いずれにせよ、先人のおかげで今納豆をいただけることに感謝だ。かの北大路魯山人も「納豆の拵(こしら)え方」にこだわったようだが、次号は食べ方や種類など、納豆だけにまだ粘るぞ!

 ※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。

 
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