【私の視点 観光羅針盤 277】ワーケーションは関係人口に起点を 地域ブランディング研究所代表取締役 吉田博詞


 新型コロナとともに過ごすことになって1年が経過した。ワクチンが徐々に提供されても、コロナと当面一緒に過ごしていかないといけない事実がわれわれに突き付けられている。そのような中でワーケーション活用がホットワードとなり議論されているが、言葉が一人歩きし、どこもかしこも受け入れ促進を加速している流れに大きな違和感を覚える。

 そもそもワーケーションの受け入れは難易度が高い。顧客が選ぶ理由は以下の五つの要素を総合的に判断して、ということになる。(1)立地性(2)環境(3)設備・サービス(4)滞在プログラム(5)関係値―である。

 まず、(1)の立地性だが、大都市圏からのアクセスの良さは顧客の母数からして大事だ。コアターゲットは、都心で仕事をするIT系ないし専門職系の場所にとらわれない仕事をするワーカーたちが中心となるが、移動に3時間以上かかる場所はそもそもハードルが高い。

 (2)の環境においては、滞在したくなるだけの自然や景観があるか、しっかりとリフレッシュできる環境を提供できうるかも大事である。

 (3)の設備・サービスにおいては、じっくりと集中して仕事に取り組める環境にあるか、会議での静音環境はあるか、Wi―Fiの速度等も大事なポイントだ。宿泊施設においては、客室清掃の距離感やチェックイン・チェックアウトの時間の柔軟性も大事になる。

 (4)の滞在プログラムにおいては、滞在中にどんな時間を過ごしてもらえるのか、オフで味わってもらいたいプログラムの充実が鍵となる。これらをしっかりと戦略性をもって整理する必要があるが、そもそもターゲットが誰かを明確にすることから始めないと意味がない。

 その時、何より大事になるのが(5)の関係値である。とにかく誰でもいいから来てもらいたいという安易な戦略では、競争が激しい中でそう簡単に獲得できない。

 ぜひ、自地域の関係人口を今一度見直してみてほしい。出身者、ふるさと納税の納税者、交流プログラムの参加者、年に一度イベントで必ず来てくれる人、関係する企業グループ等々、わがまちに少しでもつながりがある、思いを寄せてくれている人を今一度見直してみてほしい。ゼロから見ず知らずの人を呼ぶよりも強く興味を持ってくれるし、動機も作りやすい。

 そして再訪してくれる理由も明確であり、参加者の周辺には同じような価値観を持っている人のコミュニティもあるので、SNS等でシェアしてくれることで次の顧客獲得にもつなげていける余地が多分にある。

 この関係値からターゲット像が見えたら、あとはシンプルにターゲットがどんな滞在をしたいかをイメージして、逆算的に(1)、(2)、(3)、(4)の課題整理および戦略立案をしていけばいいだろう。どの地域にも関係人口はいる。コロナにおいてはつながり消費が拡大している中で、自地域の関係人口コミュニティのリスト化、その人たちの生の声を聴きながら環境整備をしてほしい。太い関係となれば、ゆくゆくの移住・定住促進にもつなげていける潜在性も持ち合わせている。

(地域ブランディング研究所代表取締役)

 

 
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