【私の視点 観光羅針盤 240】新しい生活様式と観光 北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授 石森秀三


 厚生労働省は専門家会議からの提言を踏まえて、5月4日に新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)を想定した「新しい生活様式」を公表した。

 感染防止のために「3密(密集・密接・密閉)回避」「帰省や旅行は控えめに、出張はやむを得ない場合に」が強調され、通販や電子決済の利用、持ち帰り・デリバリーの活用、テレワーク・オンライン会議などが奨励されている。要するに従来型の観光・旅行は控えることが奨励されている。

 5月14日にコロナ対策の緊急事態宣言が39県で解除された。それらの地域では経済活動が再開され、街のにぎわいも回復しつつある。しかしコロナが収束したわけではないので、感染者が再び急増する可能性がある。

 日本政府はすでにコロナ収束を前提にして、観光などの大規模振興策「Go Toキャンペーン」を4月7日に閣議決定している。これはコロナ収束後を想定した緊急経済対策で、国内の人の流れや街のにぎわいを創出し、地域活性化を図る官民一体のキャンペーンで、すでに経済産業省に1兆6794億円もの超巨額の予算が計上されている。経産省の商務・サービスグループがこの事業を主管する予定だ。

 このキャンペーン(以下、C)は(1)Go To Travel C(旅行業者経由での旅行商品購入者に代金の2分の1相当額のクーポンを付与、1人当たり最大1泊2万円まで)(2)Go To Eat C(予約サイト経由での利用者に上限千円のポイント付与)(3)Go To Event C(チケット購入額の2割引クーポン付与)(4)Go To 商店街C(イベント開催・プロモーション実施)(5)一体的キャンペーンの周知(一体的広報の実施)など。予算総額のうち、旅行分野が8割を占めており、延べ5千万人の宿泊需要が見込まれている。

 このキャンペーンは期間を6~12月半年間と設定していたが、39県で緊急事態宣言が解除された後も広域移動は制限されており、実施は容易ではない。コロナ流行の長期化は不可避であり、来年に延期された東京五輪の開催すらが危ぶまれており、拙速に大規模キャンペーンを行うのはリスクが大きい。まずは現在苦境であえいでいるさまざまな企業や働き手に対する事業継続や雇用維持のための諸対策を強力に進めるべきだ。雇用調整助成金の拡大、無利子・無担保融資、各種の現金給付、公租公課の減免措置などなすべきことが数多くある。

 運良くコロナが収束できたとしても、その後の日本を取り巻く国際情勢は相当程度に厳しくなることが想定されており、その上にコロナ禍で「新しい生活様式」を経験した日本人の観光・旅行の在り方は大きく変化することが想定される。まずウイズ・コロナやポスト・コロナにおける観光・旅行の変化について十分に検討を行い、各地域で民産官学の連携による地域主導の観光振興を図る体制強化のために公的資金を投入すべきである。

 (北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)

 
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