【私の視点 観光羅針盤 162】若者の大活躍と概算要求の肥大化 北海道大学観光高等教育センター特別招聘教授 石森秀三


 ジャカルタで開催された第18回アジア競技大会が9月初旬に閉会した。45カ国・地域から約1万1千人が参加したスポーツの祭典が幕を下ろした。日本選手団は競泳、柔道、陸上を中心に前回大会の47個を大きく上回る75個の金メダルを獲得し、2020年の東京五輪に向けて大きな成果を挙げた。特に池江璃花子(18)は競泳女子で6個の金メダルを獲得して、今回のジャカルタ・アジア大会の最優秀選手(MVP)に選ばれた。理屈抜きで、実に素晴らしい成果だ。

 さらに9月初旬にニューヨークで開催されたテニスの全米オープン女子シングルス決勝で大坂なおみ(20)は、元世界女王のセリーナ・ウィリアムズに快勝して、日本テニス史上初めて世界四大大会のシングルス制覇を果たした。これまた日本人にとって前人未到の快挙を成し遂げたことに心から敬意を表したい。

 日本の若者たちがスポーツ分野で世界的に大活躍しているのは素晴らしいことだ。

 その一方で9月初めに公表された日本政府の2019年度予算の概算要求は総額で102兆円を超えており、年末に編成する来年度当初予算案は初めて100兆円を超えると予想されている。高齢化による医療や年金などの負担増で社会保障費が膨らむとともに、北朝鮮に対する安全保障上の脅威などを理由にして防衛省の予算要求も過去最大になっている。その上に相次いで日本列島を襲い続けるさまざまな災害に対する備えも必要であり、来夏の参院選を見据えてさまざまな形で歳出圧力が高まっている。

 日本政府の一般会計は3割以上を「国債」という名の借金に依存しており、国債や地方債を合わせた政府の借金残高は18年度末に1100兆円を超える見込みで、先進諸国の中で最悪の水準に達している。

 そのような財政状況にもかかわらず、安倍政権は軍拡的従米路線にまい進しており、防衛省予算は雪だるま式に膨張している。その典型例が陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」だ。政府は当初1基800億円と言っていたが、実際には2基で2680億円、その上に導入後の維持・運営費を加えた総額は4664億円。さらに総額2千億円近くの迎撃ミサイルや施設建設費が上積みされるとのこと。

 このような形でなし崩し的に政府予算を増やすことは結局、将来世代にツケを回し続けることを意味している。概算要求に上限を設けて、若い世代の将来不安を取り除くことが必要であり、日本の財政健全化に向けてまともな議論がなされるべきだ。そうでないと、日本を代表して世界を舞台にして大活躍している日本の若者たちがやがて日本に見切りをつける日が来ないとも限らない。それは日本観光にとっても大きな損失になるだろう。

(北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)

 
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