【私の視点 観光羅針盤 157】転機を迎えたDC 大正大学地域構想研究所 教授 清水慎一


 JR6社が観光事業者と共同で実施するデスティネーションキャンペーン(DC)は、毎年都道府県等を特定して実施する観光PRとして広く定着している。JRの媒体をフル活用する全国キャンペーンだけに、開催地の観光関係者の期待は大きい。しかし、最近その期待を裏切る事例が散見される。昨年度でいえば、四国、長野県、山口県と続き、恒例の「京の冬の旅」まで4地域で開催されたが、7月から9月まで実施された長野県DCは前年比1割増の宿泊客数目標に対し、逆に前年を下回った。

 長雨という悪条件を考慮しても、目に見える効果を得られなかった観光関係者の不満は大きかった。長野県の阿部守一知事は「漫然と来てくださいというキャンペーンをしても駄目だ」と、記者会見で語ったというが、最近のDCの現状を的確に突いている。

 振り返ってみると、DCは国鉄(日本国有鉄道)が主導した需要喚起型キャンペーンだった。「ディスカバージャパン」「いい日旅立ち」などと違って、地域と共同で実施するもので、第1回は、1978年和歌山県の「きらめく紀州路」だった。

 かつてのDCは、高度成長を背景にキャッチフレーズを競い、イベントの華やかさを競った。例えば、92年の山形DCは県下44市町村全てで椎名誠のグループによるイベントを開催した。しかし、今や、イベント主体のDCは変質を余儀なくされている。

 観光客のニーズが名所旧跡だけではなく暮らしの体験に移るとともに、観光地間競争が激化し、地域の本物が求められるようになったからだ。そんな動きを先取りして注目されたのが、2005年の会津DCだった。京都市以外で初めて会津地域に限定した。

 テーマは「あったんです。まだ、極上の日本が」。具体的には「仏都」会津を前面に出して、白虎隊だけではない会津を発信した。体験プログラムは、会津全市町村の担当者が住民と徹底的な議論を積み重ね、掘り起こした。完全にボトムアップ型のキャンペーンで、大きな成果を挙げた。

 しかし、その後開催されているDCは相変わらずイベント主体、既存の観光資源の網羅的な紹介の域を出てない事例が多い。その結果として、成果が上がらず、観光関係者の怨嗟(えんさ)の声が高まっている。筆者は、都道府県とJR、旅行会社主導の手法を見直す時期が来ていると思う。

 地域にとって、DCは一過性のキャンペーンではなく、インバウンドも視野に入れて地域ブランドを高めたり、ボトムアップで新たな体験型観光資源を掘り起こすきっかけになるべきだ。そのためには、主体は地域DMOなどとして、都道府県やJRはそのまとめ役に徹すべきだと、考える。

(大正大学地域構想研究所教授)

 
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