【私の視点 観光羅針盤 149】旅館の品質・本質 清水慎一


 観光庁の2017年度宿泊統計(速報)によれば、昨年の客室稼働率は61%で、10年以降最高値となった。民泊との競争などがあるものの、好調なインバウンド観光、堅調な日本人観光などの効果もあって、宿泊施設の客室稼働率は着実に上昇している。

 しかし、タイプ別では旅館の稼働率は38%で、シティホテル79%。ビジネスホテル75%、リゾートホテル58%に比して大きく下回っている。地域別でも、旅館が多い長野県や新潟県などが苦戦し、47都道府県中最下位の長野県の旅館の稼働率は27%だ。  

 そのせいか、旅館はこの10年間で約1500軒減少し、16年度には4万軒を切った。一方、ホテルは着実に増加し、1万軒を上回り、簡易宿所も3万軒に達した(厚生労働省による)。長野県では、旅館はピーク時に比べてほぼ半減した。

 長野県観光部の調査によれば、県内の旅館はほとんど「施設・設備の老朽化」「従業員の高齢化と確保」に悩んでいるという。インバウンドについても、「言語の不安」「トラブル発生の不安」「ほかの日本人への配慮」などにより積極的になれていないようだ。

 他地域も同様だ。筆者が先日宿泊した新潟県の旅館は、若女将たちのフレンドリーな対応で人気の旅館だが、カーペットや壁などの傷みはひどく、投資をしていないことが一目瞭然だった。インバウンド観光客もまだまだで、経営は決して楽でないようだ。

 旅館ファンの筆者としては、このような旅館の苦境が観光立国の将来に影響するのではと、懸念している。同時に、その背景として観光客、とりわけインバウンド観光客に対して旅館の品質・本質が見えにくくなっているのではないか、と危惧している。

 周知のように、旅館といっても温泉旅館、割烹旅館、駅前旅館、民宿など多種多様だ。その上、旅館業法の改正により「和式の構造及び設備を主とする施設を設けてする営業」を旅館営業としてきた規定がホテル営業と統合され、ますます分かりにくくなった。

 こんな状況を踏まえ、筆者は顧客目線で旅館の品質、本質を分かりやすく認証し、明示すべきだと考える。旅館の安全性や基本的品質、日本的しつらえを最低限担保する品質認証とともに、日本文化の継承発展に寄与するなど旅館の本質を認証する制度の創設だ。

 こんな観点から、全国観光圏協議会と一般社団法人観光品質認証協会は、今年度から新たな視点を導入した全国版新生サクラクオリティを開始する。従前の品質認証に加えて、フェーズ2としてほんまものの素材使用、日本伝統を踏襲した意匠性などを評価する。

 世界に通用する旅館にするためにも、品質・本質を分かりやすく明示したい。

(大正大学地域構想研究所教授

 
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