【特別寄稿】「モバイルビジネスで見逃せない注意事項トップ5」 エクスペディアホールディングス代表取締役 マイケル・ダイクス 


エクスペディアホールディングス(株)代表取締役 マイケル・ダイクス 氏

モバイルビジネスで見逃せない注意事項トップ 5

 日々の生活でスマートフォンがなくてはならない存在になりつつある今、ビジネスにおいて「顧客エンゲージメント」は重要な転換期にある。ターゲット・オーディエンス(顧客層)に対して、自社の製品やサービスをいかに適切なタイミングと方法で提示することができるか、これはビジネスのこれまで以上に大きな課題となっている。

 さまざまな調査報告によると、一般的なモバイルユーザーは1 日 に2,617 回スマートフォンを触り[1]、1 日に携帯電話を確認する回数は、平均的なユーザーで 110 回、ヘビーユーザーは 900 回[2]といわれ、またAppleも同社ユーザーが 1 日 80 回スマートフォンをアンロックするというデータ[3]を公表している。

 では、ビジネスにおいて、世界中の消費者の中から適切な顧客層へリーチし、さらに惹きつけるためにはどうすればよいのか。世界的なテクノロジー企業であるエクスペディア グループ(以下、エクスペディア)が、世界中の旅行者(顧客層)と私たちのビジネスパートナーである宿泊施設や航空会社などの企業との間で、年間総額951億ドルに及ぶ商取引を仲介する中で得た知見から、以下の5つのポイントをモバイルビジネス、特にインバウンド観光ビジネスにおける最重要注意点として挙げたい。

注意点 1 : モバイルの重要性を過小評価しない

 モバイルは経済的に重要な役割を担っており、2022 年までに世界の GDP の 5% にあたる 4.6 兆ドルを生み出すことが見込まれている。これは、モバイルテクノロジーやサービスが GDP の 4.5% (3.6 兆ドル) を生み出した 2017 年を上回る数値[4]だ。顧客の獲得にモバイルを活用しなければ、急成長を続ける顧客層を逃すことにつながる。

 例えば、旅行分野においてモバイルを利用した旅行の検索数[5]は、ヨーロッパ 47%、アジア 40%、中東・アフリカ 38%、南米34%、米国26% を占める。エクスペディアのデータでは、予約の 3 分の1 はモバイル経由で成立[6]し、トラフィックの 50% 以上はモバイルからのアクセス[7]だ。モバイルの利用は世界各国で拡大しており、エクスペディアのマーケットの中で最もモバイル予約が多いのは韓国、次に米国とイギリスが続いている。訪日外国人旅行者数が多い国・地域においてもモバイルの利用は急増している。

モバイル端末からの予約数が多い訪日マーケット トップ 5[8]

1 韓国 120% 増 (前年比)
2 香港 110% 増 (前年比)
3 台湾 80% 増 (前年比)
4 米国 100% 増 (前年比)
5 シンガポール 100% 増 (前年比)

 

注意点 2 : アプリの開発が直ぐに顧客を呼び込むと思わない

 モバイルアプリさえ開発すれば自然と顧客層にダウンロードしてもらえると思うのは間違いだ。現在、Google Play で提供されているアプリは 360 万、Apple Store で提供されているアプリは 210 万[9]。「1 カ月に利用されるアプリの平均的な数は 27で、スマートフォンユーザーの 49%は1 カ月にアプリを一つもダウンロードしない」[10]と言われている。さらに、解約率やアンインストール率の高さも考慮すると、開発したアプリが利用してもらえる 27のアプリの一つになることはもはや僥倖だ。旅行アプリだけを見ると、約 3 分の 2 のユーザーが 30 日後には利用を停止するというデータ[11]もある。

 では、モバイルアプリのダウンロードや利用を促すには何が必要なのか。また、アンインストールされないようにするには、どうすればよいのだろう。

 ユーザーに継続的に利用してもらうには、アプリは、速くて、便利で、充実した機能を備えている必要がある。モバイルユーザーは、アプリが実用的で便利な情報を提供してくれることを望んでいる。旅行アプリの場合、航空会社の搭乗手続き機能やモバイル搭乗券などがこれにあたる。ユーザーはどこにいても便利な情報をすばやく提供するアプリを好むため、エクスペディアのHotels.com では低帯域幅モードのようなオプションを提供し、さらに素早く情報を表示できるようにしている。

 また、ユーザーエクスペリエンスが一定の水準に達していなければ、ブランドロイヤルティーは失われてしまう。一部の旅行者にとって、ホテルチェーンや航空会社のロイヤルティープログラムはそのアプリを利用するモチベーションになるものの、ユーザーエクスペリエンスが悪ければ、そのアプリは利用が減る傾向にある。このため、宿泊施設の検索や予約など主要な機能以外に、アプリからユーザーがどのような恩恵を得ることができるのかを考える必要がある。例えば、エクスペディアのモバイルアプリでは、ホテルへの道順、飛行機の運航状況に関する通知、チェックアウト時間の表示、オフラインでの予約情報へのアクセスなど、旅行中に利用できる機能を提供している。

 世界規模で展開する予算がない場合は、専用の多言語アプリの開発に投資するよりも、レスポンシブデザインなモバイルサイト構築に重点を置き、第三者のアプリを活用することを検討する方が有益かもしれない。エクスペディアでは、2017 年末時点でアプリの累計ダウンロード数が 2 億 5,000 万 (前年比 40% 増) に達しており[12]、ダウンロード数が 1,500 万未満の一般的なホテルブランドのアプリよりも格段に多くのユーザーにリーチ[13]することが可能だ。顧客層に利用されているアプリに、戦略的かつ賢く投資することで効果的にマーケティング費用を使うことができるだろう。

注意点 3 : モバイルユーザーの行動を誤解しない

 ユーザーの行動を誤解することは、ビジネスでよくある間違いの一つだ。モバイルデバイスの宿命として表示スペースが制限されることは理解していても、何がユーザーに必要なのかを把握し、モバイルで優先させるべきコンテンツを判断することは容易ではない。宿泊施設の予約では、予約が成立する前にユーザーは平均 30 ~ 35 枚の写真を閲覧し、実にエンゲージメントの半数以上を写真が担っていることが分かっている。写真以外では、空室状況が 18%、地図は 12%、口コミに 7%という結果[14]が出ている。

 現在のモバイル画面事情を踏まえると、まず始めに小さい画面用のデザインを考える必要がある。コンテンツ情報をまず小さい画面用でまとめてからデスクトップサイズへ移行させることで、大多数のユーザーのニーズを満たせる可能性が高まる。エクスペディアのデータによると、小さなスペースでは、説明文よりも直感的なアイコンの方が情報を伝えるのに有効だ。モバイルユーザーは、直感的なアイコンから必要な情報を簡単に見つけることができる。

 モバイル決済ソリューションを利用するモバイルユーザーも増加している。クレジットカードやデビットカードだけでなく、IC カードやおサイフケータイに加え、WeChat Pay、Apple Pay、PayPal などの電子マネーを利用するユーザーもいる。そのようなモバイルユーザーにリーチするには、ローカライズすることと選択肢を提供することが重要だ。世界規模でマーケティングを展開する場合、オンラインプラットフォームとして、世界的な企業のテクノロジーを活用することも有効だ。例えばエクスペディアでは、Masterpass、Alipay、Paysbuy などの電子マネーや、 JCB など現地のニーズに合わせたオプションを幅広く提供している。分割払い、IBP 経由、ロイヤルティーポイントによる支払いも選択可能だ。

注意点 4 : モバイルは閲覧するだけのものと思い込まない

 モバイルは検索のためだけに利用され、購入には利用されないという誤解が一般的に浸透している。実際は、業界を問わず、世界のほとんどの地域でオンライン取引の半分以上がモバイル経由であり、アプリでの販売も多数を占める。[15] アプリで商品を販売するアジア太平洋地域の広告主の場合、アプリまたはモバイルウェブサイトでのオンライン取引は 75% にも達している。[16]

 モバイルプロモーションは、モバイルでの収益を拡大させる大きなチャンスだ。エクスペディアのデータでは、モバイルでのホテル予約は10 件中 7 件がプロモーション経由であることが分かっている。例えばオーストラリアでは、旅行者の 88% がモバイルでプロモーションを探している。PayPal の最新調査によると、モバイルウィンドウショッパーの 77% は実際に購入する傾向が見られ、オーストラリア人のモバイルでの購入は上昇傾向にある。旅行者のプロモーション利用率は世界的に高く、米国人とカナダ人は 91%、中国人とイギリス人は 88%、日本人は 80%、フランス人は 70%、ドイツ人は 68% となっている。[17] アプリで予約した場合には会員ポイントが 2 倍になるなどのモバイル限定プロモーションを提供することで、旅行者に継続的なアプリでの予約を促進することができるだろう。

 モバイルが取引の最終プラットフォームではない場合でも、顧客の予約プロセスに影響を与えるデバイス間の互換性が重要になる。旅行者を惹きつけるには、プラットフォーム間の閲覧や移動、予約がスムーズに行えることが必要だ。[18]  マーケティング会社 Criteo によると、複数のデバイスを利用した取引の約 3 分の 1 はスマートフォンから始まり、最終的に購入に利用したデバイスの上位 三つは、スマートフォン 28%、タブレット 36%、デスクトップ 31%と、ほぼ均一の割合になっている。[19]

注意点 5 : 戦略を立てたままにしない

 ビジネスの重圧の中で継続的なテクノロジーの革新を行うことは、会社のリソースを逼迫させることがあるため、素晴らしいモバイル戦略を立てたにも関わらず、テストや分析、改良が行われないことがよくある。

 大変な作業と思うかもしれないが、経験や知識が豊富な宿泊施設は、パートナーのテクノロジーを上手く活用して、少しの労力で継続的に大きな結果を手にしている。他の業界でも同様に、パートナーと連携することで大きな利益を生み出すことができる。例えばエクスペディアの「Partner Central」アプリやウェブクライアントでは、提携宿泊施設はいつでもどこでもエクスペディアが提供するプラットフォームで業務を管理したり、顧客エンゲージメントを高めることができる。リアルタイムのマーケットデータ、宿泊客からの意見、早急に確認が必要な通知など、外出中でも重要なデータを確認して直ぐに対応できるため、競争力を維持することも可能だ。また、宿泊施設の運営においてもモバイルチェックインやチェックアウトなどのサービスを提供することで、常に変化する旅行者のニーズを満たすことができる。

 エクスペディアは旅行業界を代表するテクノロジー企業として、チャットボット、自然言語処理、Alexa による音声予約など、次世代のテクノロジーにも投資を行っている。このような取り組みや 15 億ドル以上のテクノロジーへの投資[20]を行い、毎年何千回ものテストを重ね、宿泊施設と旅行者へ世界レベルのモバイルサービスを提供することを目指している。テクノロジーが滞在方法や旅行中の過ごし方、予約方法を変革し続ける中で、常にその変化の最前線にいることがビジネスを成長させる上で重要と信じている。

マイケル・ダイクス

エクスペディアホールディングス株式会社代表取締役

ロッジング パートナー サービス日本・ミクロネシア地区統括本部長

2015年10月 エクスペディアホールディングス株式会社入社。 同年12月、同社 代表取締役に就任。日本でのエクスペディア ロッジング パートナー サービスにおいて、東京を含む6カ所のオフィスを統括。ビジネスパートナーであるホテルや旅館などの宿泊施設と良好な関係を築き、エクスペディアが展開する200を超えるOTA(オンライン旅行会社)を通して、各宿泊施設の戦略に則したレベニューマネージメント、いかに収益を増加させるかをサポート。日本政府が掲げる「2020年までに訪日外国人旅行者4,000万人」を目指し、ホテルなどの旅行関係者や地方自治体、メディアとも連携しながら、目標達成に寄与する重要な役割を担う。現職以前は、12年以上にわたり、日本マイクロソフト株式会社にて業務執行役員SMB営業統括本部長や業務執行役員コーポレート営業統括本部長など、大企業から中小企業までを担当する営業・マーケティング・技術職など幅広いポジションを歴任。

沖縄と米国で育ち、日本語と英語は母国語、ビジネスレベルのドイツ語も堪能。 マサチューセッツ工科大学 応用数学科卒業。

[1] http://www.businessinsider.com/dscout-research-people-touch-cell-phones-2617-times-a-day-2016-7

[2] http://www.addictiontips.net/phone-addiction/phone-addiction-facts/

[3] http://www.businessinsider.com/dscout-research-people-touch-cell-phones-2617-times-a-day-2016-7

[4] 出典 : The Mobile Economy Global 2018 (GSMA Intelligence)

[5] https://www.phocuswire.com/Mobile-first-travel

[6] 2017 年のエクスペディア グループ取引データ

[7] モバイルトラフィックの統計は、2017 年第 4 四半期の Expedia、Hotels.com、Orbitz、Wotif、CheapTickets、ebookers、HomeAway のモバイルトラフィックより

[8] モバイル経由で成立したホテル予約に関するエクスペディア グループ (Egencia、Expedia Affiliate Network を除く) のデータより (2017 年 1 月 ~ 2017 年 12 月のデータを前年同期比と比較)

[9] https://www.tnooz.com/article/mobile-apps-not-dead/

[10] https://blog.appfigures.com/ios-developers-ship-less-apps-for-first-time/

[11] https://www.phocuswire.com/clevertap-travel-apps-benchmark?utm_source=eNL&utm_medium=email&utm_campaign=Daily

[12] 2017 年 12 月 31 日時点のエクスペディア グループ ブランド全アプリの累計ダウンロード数

[13] App Annie (概算データのみ)。これまでの累計ダウンロード数 : 2013 年 1 月以降に発生した新規ダウンロード

[14] エクスペディア グループ US モバイルウェブユーザートレンド (2016 年 12 月までの 12 カ月間)

[15] Criteo (2018 年第 1 四半期)

[16] Criteo (2018 年第 1 四半期)

[17] 2017 年 3 月 30 日から 4 月 7 日に実施した Expedia Group Media Solutions のアンケート (回答者数は 1 カ国あたり約 1,000 人)

[18]エクスペディア グループのデバイス間における旅行予約に関する調査 (2012 年 10 月)

[19] Criteo State of Cross-Device Commerce Report 2016

[20] エクスペディア グループのテクノロジーへの投資 (2018 年第 2 四半期までの 12 カ月間)

 
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