【新春特別インタビュー】「観光先進国への挑戦」 日本旅行業協会(JATA)会長 田川博己氏


日本旅行業協会(JATA)会長 田川博己氏

国内旅行振興キーワードは「長期滞在」と「日本遺産」

 ――2019年を占うと。(聞き手・板津昌義)

 「19年には、『ラグビーワールドカップ2019日本大会』が開催され、『G20大阪サミット』なども開かれる。世界が日本を注目する。また、天皇の退位と即位があって平成が終わる。19年は新しい時代の幕開けの年だ」

 「旅行が細分化して、テーマや目的をはっきり決めて旅行をする人が増えた。インバウンドについては、さらにFIT化が進むだろう。今は旅行会社から情報をもらうのではなく、デジタル化の中でスマートフォンなどから誰でも旅行の情報がすぐに取れる時代だ。旅行業界にとっては、成熟化するだけでなく多様化し複雑化する市場に対してどういうチャネルで旅行商品を売っていくのかといった経営課題がはっきりする年になる」

 「心配しているのは、大きなイベントがあると国内の人の動きが鈍くなることだ」

 ――国内旅行の動きは。

 「ワールドカップラグビーの試合が全国で開かれる。20カ国から来るが、その多くは富裕層の方々で、このような人たちが日本国内に2、3週間滞在する中でどのように動くのかというのを見ておく必要がある」

 「外国人が行くところを日本人もトリップアドバイザーを見て行くケースが増えてきた。日本人の国内旅行は、温泉地観光がずっと長い間、定番だったが、19年に外国人がたくさん来て日本中を動き回ると、日本人の旅行が温泉地旅行から生活地旅行へと変わるかもしれない。日本人の関心を住民との触れ合いにもっと持っていかないといけない。今、モノ消費からコト消費に移っているが、これからは、人と触れ合う(交流)という消費に変わっていく。温泉は癒やしという意味では非常に日本人にとっては大事だが、温泉に入るだけではなく温泉地を取り巻く環境と自分たちの旅行がどうリンケージするのかというところに日本人の次のステップの旅がある」

 ――国内旅行振興のキーワードは何か。

 「一つは『長期滞在』だ。最近は国内に2週間、3週間泊まる人も増えている。ゴールデンウイークは10連休になる。多くの人が海外旅行に出掛けることが予想されるが、日本で10泊するという勇気のある人が何人いるのか興味がある。1週間ぐらいどこかの地域に泊まって、その地域を一生懸命に愛でるというようなツアーが旅行会社からできてくるのを期待している。外国人がたくさん来れば来るほど日本のいいところを知る1年であってほしい」

 「もう一つのキーワードは『日本遺産』だ。世界遺産は世界的に登録するものなので一つの基準があるのだが、日本遺産は生活地の文化を示したものなので、それを楽しむ。日本人はどうもそういうものに不慣れだ。日本遺産をもっと深めた方がいい。海外旅行をすると必ず『この町に博物館、美術館はあるか』と聞くのに自分の町の博物館、美術館に行ったことがないという人が多い。そういう意味では地元のことをもう少し知るという活動も必要だ」

 ――国内旅行の振興に向けたJATAの活動は。

 「TEJ(ツーリズムEXPOジャパン)が旅の『新しいカタチ』を提案しているから、それを具体的に進めるということだ。それは先ほど言った体験型や長期滞在型の旅の促進などであり、JATAの国内委員会で議論して各社に商品を作らせていく」

 「その前提に『休み方改革』の問題にも踏み込んで取り組んでいかないといけない。観光立国の30年までのビジョンにたくさんの項目があって、その最後に休み方改革と書いてあるのだが、いっこうに進んでいない。政府や経団連は『働き方改革』の方を優先しているので、休み方まで行き着いていない。休みがないと旅行需要の創出はできない。旅行業界にとって休み方改革は旅行マーケットを作り出すための方法論だから、少し焦点を当てて活動したい」

 「東北の震災も熊本の地震も8年目、3年目ということでまだ回復は本物ではない。被災地支援はツーリズムがやるべき大きな仕事として捉え、例えば、東北復興支援活動『JATAの道』なども地道に継続していきたい」

 「インバウンドが増えたので、天変地異が起きた時、あるいは、病気になった時にどのように適切に医療サービスを受けられるかという環境整備にも取り組んでいかなければいけない」

 ――年頭にあたって地域活性化に向けて提言を。

 「国際観光旅客税ができるが、そのお金をどのように地域創生に使っていくか。基本的にはインバウンドで使われる可能性が高いが、その時にわれわれ観光業界は『国内旅行の活性化とセットで使ってほしい』と言わなければいけない。外国人だけが来ればいいとはどこの観光地も思っていない。日本人も外国人も平等に来てもらいたい。そういう意味では国際観光旅客税は地域にとっては交流人口を増やすために使ってほしいという思いがある」

 「地域の開発をいかにしていくのか。それにはDMOの活躍が大きな要素だが、DMOはまだ十分ではない。DMOをどう花開かせるか今年が正念場になる。地元にあるものを深めて磨く。元々、DMOはそういう仕事をするセクションだ。DMOの発信力によって日本のマーケットが豊かになるのが理想だ」

 「DMOのMは『マーケティング』と『マネジメント』なのだが、どちらかと言うとマーケティングの方に近い。観光地経営の中で『人材を作る』ことと『財務』と『組織を作る』という経営課題に関しては弱い。人材に関しては、コンテンツを作るとか地域を活性化するというプロデューサーはすごく育てた。だが、町を活性化するコンテンツを作るのと、経営するのはまた別の話だ。観光地経営というのは、企業経営と同じで、組織をどう作るか、あるいは、人材育成をどうするか、その中で体制をどうするかということだ」

日本旅行業協会(JATA)会長 田川博己氏

 
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