三菱UFJ銀行 ソリューションプロダクツ部 部長(不動産ファイナンス担当)兼 地域創生ソリューション株式会社 社外取締役 宮崎 裕和氏
地域創生ソリューション株式会社は、観光ファンド「ALL-JAPAN観光立国ファンド」の運営を通じて国内各地で投資を行い、地域振興を通じた地域活性化を図っている。同ファンドの仕掛け人である三菱UFJ銀行の宮崎裕和部長に話を聞いた。【kankokeizai.com 編集長 江口英一】
メガバンクがエクイティでリスクを取る——融資ではなくファンドという手法を選んだ理由
――なぜメガバンクとして観光を成長戦略の柱に据えたのか。また、従来の融資ではなくファンド(エクイティ)という手法を選んだのか。
お客様の資金需要に対して融資をするというスタイルではなく、自分たちがお客様と一緒に事業を作っていく、あるいは我々自身がビジネスを作っていろんな方に入ってもらう方向に変えていかなければ、銀行の将来はないのではないかと当時から感じていました。
観光とか地域創生に役立つプラットフォームを作りたいと考えたのですが、銀行員はそれぞれの分野のプロではありません。何が一番強いかを考えたとき、お客様それぞれの強みをつなぎ合わせていく、そこから新たなソリューションを創り出す——これは多分、銀行が一番強いと思ったのです。
航空会社、デベロッパー、商社などいろいろな会社に話を聞きに行くと、業界を跨いだ企業同士が接続する機会がなかなかないということが分かりました。そのつなぎ合わせのプラットフォームを作るべきだと。ただ、親睦団体や業界団体のようなものを作っただけでは、誰もサステナブルについてこない。作った人間が自らエクイティを出してリスクを取らなければ持続しないだろうということで、メガバンクとしてエクイティを出すという形を選びました。エクイティをやらないと、リスクの先頭に立つことができないと考えました。
――政府の観光立国推進に対し、民間最大の金融グループとしてどのような役割を果たすべきと考えたか。
観光立国推進の中、民間最大の金融グループとして、観光業界のリーディングカンパニーや地域金融機関と連動したファンドを立ち上げました。体験したことを国に提言し、日本の観光が進むべき方向性を示す、国を動かしていくプラットフォームとしての役割を目指しました。
――ファンド設立の段階で、国内観光産業の課題点はどこだと捉えていたか。
例えば、ラグジュアリーホテルの数が少ないというのは大きな課題でした。海外の旅行者の中には、こうしたホテルがなければその都市に行かないという層もいます。また、観光地化されていない地方部への誘客も重要です。コンテンツが少ない地域に見どころを用意することで、観光を通じた活性化が求められていました。
「オールジャパン」であることの意義——異業種の強みをつなぎ、全国へ展開する
――メガバンク単独ではなく、地域金融機関や事業会社を巻き込んだ「ALL-JAPAN」形式にこだわった理由は何か。
特定のエリアだけでなく、日本全国の金融機関や自治体が参画し、どこにでもソリューションを届けられるプラットフォームを目指しました。メガバンク単独ではなく、観光業界の各分野でエッジの効いた企業が参加する「ALL-JAPAN」体制にすることで、異なる地域の共通課題が見えてきて、解決策を掛け合わせることができます。プラットフォームに事例が蓄積することで、様々な地域で応用可能な「成功の方程式」が生まれます。枠組みが大きいほど、提供できるソリューションも大きくなります。
――各業界の大手と共にプラットフォームを構成する際に苦労した点はどこか。
立ち上げの際、経営陣からは「観光産業のノウハウが少ない中でどういったことができるのか」という意見もありました。また、地域金融機関の関係者間での信頼関係構築には苦労しました。
気づきもありました。立ち上げ当初、「観光」や「地域創生」といった言葉の定義についてはチーム内でも議論がありましたが、立場によって、その考え方は必ずしも一致しないことに気づきました。例えば、「地域創生」と一口に行っても、地元の商店街や旅館をいかに守るかという視点もあれば、新しい活動によって地域を盛り上げるという視点もあります。関係者が多い分、多様な価値観があることは大きな学びでした。
――なぜ不動産とベンチャーの双方を投資対象としたのか。
2つ意味があります。まず、ホテルや旅館などの不動産か、それを運営する会社かスタートアップか、観光と地域創生に関する悩みは全部このプラットフォームに相談してほしい。そういう存在になりたかったので、「会社は投資できない」という存在にはなりたくなかった。
もう一つは、ホテル・旅館の再生にあたって、投資をしたスタートアップの機能を使って旅館を再生し、スタートアップのプロダクトが磨かれて成長するといった、投資先同士の相互補完と相乗効果を出したかったことです。
――現時点でのプラットフォームにはどのような課題点があるか。
エリア全体をデベロップメントしていくところが結構難しいです。ビジネスとしてリターンを返していかなければならないことと、エリア全体に関わっていく労力とのバランスが難しい。リターンを求める純粋なファンドとしての在り方と、周辺も触っていかないとエリア自体がサステナブルに残っていけないという部分のバランスです。
また、観光活性化や地域創生はなんとなく良さそうに見えるのですが、これが地域にどういう効果を生み出しているかを定量化していくことが次の課題だと考えています。社会的インパクト不動産という枠組みで、不動産を通じた社会課題解決の効果を可視化する取り組みを進めており、この枠組みを推進する国土交通省の外部委員も務めています。観光立国ファンドの投資においても、KPIを設定し、投資先や地域への貢献をKPIにそってモニタリングしていくことを考えています。
理想と現実のバランス——成功事例を生む難しさと、星野リゾートとの連携
――ファンド立ち上げから約8年が経過する中で、当初描いていた「観光立国」の理想はどこまで具現化したと感じているか。
正直、理想を追いかけながらリターンも生み出していく難しさに今は向き合っています。我々はなかなか成功事例がないところに成功事例を作っていくことが目的なのですが、リターンが上がらないところとのバランスに苦労しています。
一方で、ある程度リターンが見込める案件で収益を確保しながら、再開発や古民家など難易度の高い案件に再投資する組み立てをしていかなければいけないと整理しています。
具体的な成果も出ています。島根県の旅館再生案件では、LP出資地域金融機関のお取引先の旅館が経営的に厳しくなり、当社に相談がありました。星野リゾートさんと相談をして星野さんに入れ替えて「界 出雲」をオープンしたというパターンです。
――コロナの影響が色濃い中で2号ファンドの組成に踏み切った原動力は何か。
新しい取り組みは、たとえ規模が小さくなってもとにかく「続ける」ことが重要です。一度火が消えると、再燃は難しい。ステークホルダーを巻き込みながら継続していくことが原動力でした。一方で、厳しい局面ではあったものの、観光産業は大きな変化の渦中にあるという状況が、新しい事業を作るというファンドの取り組みと非常に相性が良く、追い風ともなりました。
地方ラグジュアリーの開発——量から質への転換を牽引
――1号ファンドと2号ファンドでは、投資方針はどのように変わったか。
1号ファンドは地域創生のための新規立ち上げに絞っていましたが、2号ファンドでは業界再生や既存物件への関与まで対象を広げました。既存物件の取得や運営にも関与できる立て付けに変えています。
北海道帯広市では2号ファンドでホテル開発の投資を行っています。旧長崎屋帯広店跡地で進む「(仮称)帯広駅南口再開発プロジェクト」のホテル棟で、「サウナ&スパリゾート 北海道ホテル 帯広駅南」として2026年4月に着工、2028年春の開業を予定しています。十勝特有のモール温泉を導入し、本格的なサウナも整備します。帯広は農業も強く、ビジネスで訪れる方も多い一方、宿泊施設が不足しています。高付加価値の施設でその受け皿を作ることを支援しています。
また、株式会社Kiraku及びハイアットホテルズコーポ レーションと戦略的パートナーシップ協定を締結し、「Atona」として日本全国に高級旅館を展開するプロジェクトも推進しています。第1号案件は由布院です。欧米の富裕層に来ていただいて、その地域を知ってもらうことが旅館の価値向上につながると考えています。
――今後の展開として特に注目しているテーマは何か。
観光課題は当初と変わっています。ファンドを構想していた2016年ごろは、いかにインバウンドに多く来てもらうかという量を追いかける時代でした。今は量よりもお客様にいかに長期滞在してもらい、多くの消費を生み出してもらえるかという課題に変わっています。
地方の方々と話すと、「うちなんか観光は絶対無理で、何もないから」と自信を失っている地域が多い。でも例えば「フェアフィールド・バイ・マリオット 道の駅プロジェクト」では、マリオットの会員がそのエリアに最初から行きたかったわけではなくて、マリオットを探していたらたまたまそこにたどり着いた。そこで初めてエリアを知り、こんなおいしいものがあるのかと気づいてもらえる。地域の人も自信を持てる。このコンセプトは素晴らしいと思っています。
最終的には、観光で困ったら「ここに相談すれば良い」という存在になることが目標です。年間100件以上、累計で約1000件の相談が寄せられています。課題とソリューションがここに集まるプラットフォームとして、さらに発展させていきたい。それによって、地域の人が自分たちの地域の魅力に気づき、誇りを取り戻すきっかけを作っていく。それがこのファンドの存在意義だと思っています。

宮崎 裕和(みやざき・ひろかず)氏
株式会社三菱UFJ銀行 ソリューションプロダクツ部 部長(不動産ファイナンス担当) 兼 地域創生ソリューション株式会社 社外取締役。1997年、東日本旅客鉄道株式会社入社。駅前再開発、駅ビル開発など不動産分野に従事。2006年、株式会社三菱UFJ銀行入行。ノンリコースローンのほか、REITの新規組成も多数実現。星野リゾートのREIT立ち上げを支援した。2018年、観光支援・地域創生を目的に「地域創生ソリューション株式会社」および「ALL-JAPAN観光立国ファンド」を立ち上げ、2022年4月より現職。不動産鑑定士。環境不動産普及促進機構 理事、国土交通省 Value-up事業 外部委員も務める。




