乗務員不足の第2の背景が、バス業界に固有の問題である。
2000年に道路運送法が改正され、特に貸し切りバスの分野において新規参入が容易になった。それまでは、需給調整を目的に、おおむね都道府県を単位として貸し切りバスの総数が決められ、それを超える増車や新規参入が認められなかった。
しかし同年以降は、安全対策などの要件を満たしさえすれば後発事業者による新規参入が可能になったとともに、既存事業者の増車も届け出だけで済むようになった。
乗合バス(路線バス)の分野では、高速バス事業こそ成長基調にあるものの、自家用車の普及のほか、労働力減少による通勤需要低迷、少子化による通学需要低迷により車両数が減少傾向にある。本来、貸し切りバスの分野でも、旅行形態が団体から個人へシフトするとともに、職域旅行など「社会的旅行」の減少で、本来なら需要自体は落ち込むはずである。
しかしながら、規制緩和の成果として、貸し切りバスの輸送人員は、規制緩和が行われた00年からピークの13年までに、約3割増加している。そのため、乗合、貸し切りを合わせたバス乗務員の総数も、同期間に約1万8千人、16%増加している。
貸し切りバス分野の規制緩和の弊害も指摘があるところであるが、「失われた20年」と言われた期間内に雇用を増加させたことも確かである。そして、短期間にこれだけの「需要」が増えたのであるから、「供給」が追い付かないことは容易に想像できる。
質の低下という懸念はあるにせよ、「雇用数が増加したから人材不足」というのは、まだ前向きの痛みであると言える。ただし、前向きな話ばかりではない。
バス乗務員の平均年齢は48.3歳と、全産業平均(男子)の42.8歳を上回る(14年度)。そもそも、バスの運転に必要な大型2種免許保有者が高齢化しており、同免許保有者のうち、40歳未満の比率は1割にも満たない。現役の乗務員がリタイアした後、いずれ人手不足の状態がさらに厳しくなることは明白である。
(高速バスマーケティング研究所代表)