【地方再生・創生論 346】子どもの声をいかにくみ取るか 松浪健四郎


 大学の学長室が管理する「目安箱」がキャンパスにある。学生たちの声を聴くためである。大学も新しいアイデアを求めている。学生ならではの意見があり、それをくみ上げる必要がある。予算措置の必要な政策、教授会の承認の必要なものもあるが、若い学生の意見は大切だ。高額の授業料を払ってくれている、学生たちの満足度を高めなければならない。

 これらの考え方は、現代社会にあってはどこもかしこも同じである。活力ある組織体にあっては、時代の流れを一刻も早く吸収し、改革に結び付けねばならない。それは国家も各自治体も同様で、若い人、現代人の思考や意見は尊い。社会風潮の変化は、予想以上に早く、高齢者では付いていけない場合がある。

 そこで、2023年4月1日に施行された「こども基本法」を、私たちは理解しておかねばならない。国および各自治体には、施策に子どもの意見を反映させるための措置を講じることが、義務付けられたのだ。

 子どもの権利擁護や意見を表明する機会の確保を定めた法律が、「こども基本法」といえる。地元愛を育成させるために若者たちの意見を吸収する。子どもの声をいかに施策に反映させるか、その具体案を国や自治体が持たねばならなくなったのだ。

 同じ4月1日、政府は「こども家庭庁」をスタートさせた。各省庁から400名の職員を出向させての陣容だが、内閣府の外局として発足。「こどもまんなか」の政策で取り組む。

 わが国では、基本的には子どもたちの意見を取り上げることはなかったが、欧州では若者の意見を取り入れる動きは急だという。読売新聞によれば、アイルランドでは若者の提案によって、公共交通機関を半額で利用できる「ユーストラベルカード」を創設したという。フィンランドでは、全自治体が15、16歳による「若者議会」を設置し、重要なテーマについて意見を表明するそうだ。ポルトガルでは、「若者参加予算」を持ち、若者が提案した政策に用いるという。残念ながら、わが国では上記したような政策を持つ自治体はない。

 少子化が予想以上の早さで進行中である。2022年は79万9728名の出生、この出生者数では国がもたない。既に半数の大学は定員を満たすことができずにいるが、その波は高校、中学へと広がる。少子化に対する政府の鈍感さは異常であり、今になって慌てる有様。「こども基本法」が、少しでも役立つことを期待したい。

 とりわけ、各自治体は、子どもの声を施策に反映させるために取り組む必要がある。既に愛知県新城市や神奈川県鎌倉市では、先行する政策が見られる。

 読売新聞の報道によれば、新城市では16から29歳の20人を「若者議会」の委員に選出し、議会に1千万円の予算が付けられているという。委員は市職員のアドバイスを受けながら会議を重ね、市長に政策案を提出する。委員の選出方法や年齢の幅の広さに疑問もあるにつけ、若者の声を聴く姿勢は重要だ。

 鎌倉市は、こども政策の助言を行う審議会委員に小学1年、4年、中学3年の男女各3人を選出した。未成年の委員も一般委員と立場は同等だという。大人の審議会に未成年の子どもを入れれば、萎縮して意見を出すことができるのだろうか。ちょっと心配である。

 私は、子どもの声をいかにしてくみ取るか、研究の余地があると思う。「こども議会」といっても、自治体の職員がリードしてアドバイスするようでは、本当の子どもの意見は出にくい。地域の特性を学び、地域愛を育むために学校の協力も無視しないで、「こども基本法」を生かすべきであろう。

 地域事情を子どもたちが理解し、郷土に誇りを持たせることも大切である。ただ、大人が全てをリードして委員会や議会を運営すれば、やがて形骸化してしまう。いくら自治体が研究しても、この制度を実効性の高いものにするのは困難である。まず政府は、模範例をいくつかを示して、諸外国の例も提示すべきではないか。

 
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