【地方再生・創生論 309】救急車、約3割が不適切な通報 松浪健四郎


 私の友人が、数年前、米国旅行中にデトロイトで倒れた。個人宅から病院へ運ばれ、一命を救っていただいた。脳梗塞だったらしいが、救急車の中で専門的な治療を受けたという。米国の救急車に同乗する救急救命士のレベルは高く、病院の医師に患者を運ぶまで手を尽くしてくれる。が、友人は後日送られてきた請求書を見て腰を抜かした。救急車の利用費が約50万円だったからである。

 1964年の東京オリンピック前、日本も先進国の仲間入りを果たすべく、パトカーや消防車、救急車のデザインを統一した。そして、警察は110番、消防署は119番と統一した。救急車を呼ぶのも119番、うれしいことに無料である。この無料であることで、全国で年間約800万件の119番通報(総務省消防庁)があるのだ(令和2年)。緊急通報であるはずの救急車要請なのに、いたずらや間違い電話も多いばかりか、大した病気でもないのに要請があるらしい。電話する際、110番にしろ119番にしても慎重であらねばならないのに、3割近い通報がいいかげんだと聞く。おそらく、無料という気安さが、ダイヤルを回すのだろうか。もし、無料でなければ、119番は本当の救命のためのダイヤルになるに違いない。

 救急救命士は、国家試験に合格して資格を得る。全国の消防署では、この資格持つ人材を採用している。救急車に同乗するためだけではなく、自然災害もあり、人命救助の幅が広がってきた。とりわけコロナウイルスの影響で、救急車の出動は多忙を極めた。どの消防署もコロナ禍で負担が増し、救急体制が大変な状態に陥った。やっかいなウイルスだっただけに、私たちでも現場の大変さを容易に想像することができる。

 私どもの日体大でも保健医療学部の中に救急医療学科を設置し、救急救命士を養成している。国家試験に合格した多くの卒業生は、ほとんど消防署に就職するが、「命」に関する意識の高さに驚く。女性も多くいて、大学院に進む者も少なくない。基礎医学や臨床医学全般を学び、演習や実習を通して人命の尊さを学ぶ。たいていの救急車は、救命士が同乗しているだろうが、この救急車を無料だからといって、国民・住民は不適切な通報をしてはならない。

 総務省消防庁は、救急車出動依頼に関しては有料を検討すべきである。約3割の不適切な通報があり、迷惑を受ける国民がいる現状をこのまま看過してはならない。政府も増税を考える前に、有料化を研究すべきだ。人命を救助するためとはいえ、無料であるとよからぬことを考える者も出てくる。タクシー代わりに救急車を使われたのでは閉口するしかない。119番通報がコロナ禍で増大し、消防署の担当者の負担は首が回らぬほどに重くなっている。不適切通報を減少させるための広報も求められる。これは各自治体の仕事である。本当に必要な患者だけに救急車が利用されてしかるべきであろう。

 あまり知られていないが、治療のために他人の身体に触れるには資格が必要なのである。医師、看護師、救急救命士、柔道整復師、マッサージ師、鍼灸師等であるが、今、あちこちで資格を出しているトレーナーは厳密には第三者の身体に触れることができない。救急救命士は、患者の症状を把握し、救急車内にあるさまざまな医療器具を用いて病院へ運ぶまで、いかにして命をつなぐかを考える。人の集まるホテルからも救命士の求人があるのは、救急車が到着するまでの患者の扱う知識が求められるからであろう。人生100年時代、どの消防署も消防士が救命士の資格を保持する状況下にある。

 2022年の東京都消防庁への救急車出動要請は103万件であった。やはり、そのうちの3割が、「いたずら」と「間違い」だったという。119番にそぐわない通報、出動要請をしないようにきちんと各自治体は熱心に広報しなければならない。食品ロス問題も大きいが、救急車出動ロスは住民の命がかかっている。3割の無駄をなくすための広報をお願いする。

 
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