【地方再生・創生論 233】農業被害を減少させるために 松浪健四郎


松浪氏

 最近のテレビ番組で人気のあるのは、テレビ朝日の「ポツンと一軒家」であったり、テレビ東京の秘境というか山奥に住む人たちの暮らしぶりを報ずる番組。辺境、異境で生活する人のバイタリティには頭が下がるにつけ、この近代化された都会や町を捨てて、知恵を出して生きる人たちから勇気を得るのが楽しい。

 古代人は、良質の動物性タンパク質は鳥類の卵から入手したと同時に、狩猟によって動物の肉をタンパク源としてきた。弓矢やブーメランを用いた狩りを、銃ができるまで行ってきた歴史がある。近代に入ると鉄線を製造できる発展があり、わなを作って猟をする。鉄線はワイヤーロープへと進化し、より秀でたわなを提供できるようになる。そのわなこそが、辺境や秘境で暮らす人たちの大切な道具だ。

 現代社会では、わな猟をするにしても、網で猟をするにしても資格が必要であるが、わな猟をする女性ハンターが増加し全国にいて、都道府県の猟友会に所属している。ただ、わなにかかったイノシシやシカをジビエ(野生の鳥獣肉)にまで処理するのには経験が求められる。が、わな猟によって年間約20万頭のイノシシ、クマ、シカ等を捕獲している(環境省)。

 さて、一般社団法人である大日本猟友会は、政府と協働して「シカ・イノシシ2023年半減目標」を達成に向けて集中捕獲に取り組む。2021年6月、「鳥獣被害防止特別措置法」が改正され、これまでの市町村単位の捕獲事業から、狩猟期を中心として都道府県全域に対象地域拡大が可能となった(日猟会報第47号)。そこで20万頭の追加捕獲を確実に実行しようとしているという。

 野生鳥獣による農林水産業被害の急増を背景に、農林水産業の発展および農山漁村地域の振興を目的として、2007年12月に議員立法によって「鳥獣被害防止特別措置法」が成立した。自民党のワーキングチームが、鳥獣捕獲緊急対策議員連盟(二階俊博会長)と協力して、大日本猟友会(佐々木洋平会長)の支援を得て全会一致で成立した。野生動物の保護が大切であるという世論から、現実の被害を国会議員に認識させたが、法制化されても被害は増加するばかり。そこで一歩進めて改正する必要が生じてきたのだ。

 山村部を車で走ると、田畑や菜園の周囲を鳥獣が入り込まないようにブロックしている様子が目に飛び込んでくる。都会で生活する人たちは、野生鳥獣の保護を訴えるが、その急増によって毎年150億円から240億円にのぼる農業被害と森林被害のあることを理解していない。農業被害は、鳥類の代表がカラス、ヒヨドリ、スズメと続くが地域によっては他の鳥類によって被害をもたらす。他方、獣類の王様はイノシシではなくシカである。サルも大きな農業被害をもたらす。

 これらの農業被害を減少させるためには、対象鳥獣の捕獲の強化が求められる。費用も必要になってくるが、法改正によって都道府県知事が行う調査・措置に対して、必要な財政上の措置を国が講ずることとなった。一歩前進だ。

 また、多様な人材の活用を規定している。市町村は、鳥獣被害対策実施隊員の任命の際に、意欲と能力を有する多様な人材の活用に配慮することとある。おそらく、猟友会のメンバーの起用の推進を説いているのだろう。

 だが、その猟友会の会員が高齢化しているに加え、減少傾向にあるのだ。現在、総数で約10万人いるが、銃を使えるハンターは約6万5千人にすぎない。銃を購入し、研修を受けて免許取得にまでの費用は大きいためか、なかなかハンターが増加しない。費用補助を行い、ハンターの増加に躍起になっているが、自治体の本気度が伝わってこない。銃の使用には危険が伴うため、どうしても自治体の協力と支援が求められる。

 市街地へイノシシやクマ、サル等の出没のニュースは増加するばかり。当該市町村では、対処マニュアルを作成しておかねばならない。狩猟経験のない警察官だけでは対応できないのは申すまでもなかろう。

 
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