SDGsを重視する旅行者を分析、総合的に意識が高い層は1割 ホテル選びにみる「価値選択型顧客」の実像


北村

北村氏

 宿泊施設のSDGsへの取り組みは、実際にどれほど旅行者の選択に影響するのでしょうか。環境や社会に配慮したホテルであれば、多少料金が高くても選ばれるのでしょうか。また、そのような旅行者ほど、宿泊予約を早めに行う傾向があるのでしょうか。

 こうした問いを検証するため、直近1年以内に宿泊旅行を経験した500人の回答データを分析しました。その結果、ホテル選び、取り組みへの評価、価格差の受け入れという三つの回答を組み合わせた指標で、平均4点以上となった人は53人、全体の10.6%でした。

 さらに、この層は環境問題だけに関心を持つ人ではありませんでした。価格や立地を確認しながら、ホテルの独自性、食事、接客、客室、地域性などを幅広く評価していました。本稿では、このような旅行者を「価値選択型・高関与型旅行者」と捉え、その特徴と宿泊施設への示唆を整理します。

 

分析対象は宿泊旅行経験者500人です

 最終有効回答者は500人でした。男性250人、女性250人で、年齢は18~19歳から60代まで、各年代がおおむね均等になるよう構成されています。分析対象となった旅行は、国内旅行が431人、海外旅行が69人でした。なお、今回のデータから確認できるのは、最終的に分析対象となった500人です。調査票の初回配信数や、事前調査で除外された人数までは確認できません。そのため、本稿では、この500人を分析の出発点としています。

 SDGs意識は、一つの設問だけでは判断していません。①ホテル選びでSDGsへの取り組みをどの程度重視するか、②多少コストがかかっても、その取り組みは評価されるべきだと考えるか、③SDGsに取り組むホテルが他のホテルより高い場合にどう選ぶか、という三つの回答を組み合わせました。

 三つの回答を点数化し、上位25%を基準に、境界点で同じ得点だった人を含めた140人を「SDGs意識が高い層」としました。これは全体の28.0%に当たります。比較対象として、下位25%を基準に同点者を含めた153人、全体の30.6%を抽出しました。以下では、それぞれ「意識が高い層」「比較対象層」と表記します。

 したがって、28.0%という数字は、日本人旅行者全体に占めるSDGs志向層の市場規模を直接示すものではありません。今回の500人の中から、SDGs意識が相対的に高い人を抽出した割合です。

 一方、三つの回答を組み合わせた指標の平均が4点以上となった、総合的にSDGs意識が高い人は53人で、全体の10.6%でした。また、「SDGsへの取り組みは、多少コストがかかっても評価されるべきだ」と回答した人は34.4%でした。通常のホテルより5%以上高くても、SDGsに取り組むホテルを選ぶとした人は27.6%でした。

 SDGsに賛同する人は一定数存在するものの、ホテル選び、取り組みへの評価、価格差の受け入れを総合した指標で高い水準を示す人は約1割でした。この10.6%は、SDGsへの意識を具体的なホテル選びにつなげる可能性が高い中核的な顧客層と考えられます。

 

国内旅行では予約リードタイムに差がみられました

 旅行の検討を始めた時期には、SDGs意識による明確な違いは確認されませんでした。一方、ホテルを予約してから出発するまでの「予約リードタイム」は、意識が高い人ほど長くなる傾向がみられました。

 特に国内旅行で差が表れました。国内旅行の予約時期について回答した399人を分析したところ、出発1か月以上前に予約した人は、意識が高い層では80.5%、比較対象層では64.4%でした。意識が高い層の方が16.1ポイント高く、この差は統計的にも有意でした。

 出発3か月以上前に予約した人は、意識が高い層では30.1%、比較対象層では11.9%でした。意識が高い層の方が18.2ポイント高く、その割合は比較対象層の約2.5倍でした。この差も統計的に有意でした。

 ただし、SDGs意識が予約リードタイムを直接長くしたと断定することはできません。全回答者では、SDGs意識と予約リードタイムの間に統計的に有意な関係がありましたが、その相関係数は0.123で、関係は弱いものでした。また、年齢、国内・海外、宿泊日数、同行者などを同時に考慮すると、SDGs意識だけの効果は統計的に有意ではありませんでした。

 海外旅行でも、明確な関係は確認されませんでした。海外旅行の予約時期に関する有効回答は63人と少なく、航空券、休暇の取得、渡航先の事情なども予約時期を左右します。

 したがって、「SDGs意識が高いから早く予約する」と因果関係を断定するのではなく、「国内旅行で早期に予約する人には、SDGs意識の高い人が比較的多く含まれる」と理解するのが適切です。宿泊施設にとっては、早期予約プランを訴求する際に、地域食材や環境保全などの情報を併せて発信する余地があると考えられます。

 

年齢、性別、所得だけでは十分に説明できません

 年代別に意識が高い層の割合をみると、18~19歳は34.1%、20代は36.6%、30代は22.6%、40代と50代はともに23.8%、60代は27.4%でした。

 18~19歳と20代でやや高い結果でしたが、年代全体の差は統計的に有意ではありませんでした。したがって、「若い人ほどSDGs意識が高い」とまではいえません。

 男女別では、女性のSDGs意識の平均値が男性より高く、その差は統計的に有意でした。ただし、通常より5%以上高くてもSDGsに取り組むホテルを選ぶかという点では、男女差はほとんどありませんでした。

 世帯年収、学歴、婚姻状況、子どもの有無についても、統計的に明確な違いはありませんでした。SDGs意識の高い旅行者を「若い女性」や「富裕層」といった外形的な属性だけで捉えることは難しいといえます。

 一方、国内旅行では、SDGs意識と予約リードタイムの関係が50代と60代で比較的強く表れました。若年層にはSDGsに肯定的な人が一定数いる一方、中高年層では、その価値観が予約行動に表れやすい可能性があります。ただし、年代別に分けると対象者数が少なくなるため、この点は今後さらに検証する必要があります。

 

ホテルの独自性や接客まで幅広く評価しています

 SDGs意識が高い人は、SDGs以外のホテル選びの項目も幅広く重視していました。

 最も大きな差がみられたのは、独自性・デザイン性です。これを重視する人は、意識が高い層では59.3%、比較対象層では12.4%でした。その差は46.9ポイントでした。

 ブランド・知名度を重視する人は、意識が高い層では56.4%、比較対象層では25.5%でした。食事を重視する人は73.6%と48.4%、スタッフの接客を重視する人は81.4%と54.2%でした。客室の広さ・設備を重視する人は77.9%と56.9%、口コミ・評価を重視する人は80.0%と66.7%でした。これらはいずれも統計的に有意な差でした。

 一方、立地・アクセスを重視する人は、意識が高い層では92.1%、比較対象層では94.1%でした。宿泊料金を重視する人も90.7%と92.8%で、明確な差はありませんでした。

 この結果から分かるのは、SDGs意識の高い旅行者は、価格を気にしない人ではないということです。価格と立地という基本条件を確認したうえで、そのホテルの独自性、料理、接客、客室、ブランドなども含めて、宿泊価値を総合的に判断しているのです。

 旅行計画で利用した情報源の数は、意識が高い層では平均1.63種類、比較対象層では1.64種類でした。ほとんど同じです。多くの情報を集めるというより、同じ程度の情報から、ホテルが持つさまざまな価値を読み取る人だと考えられます。

 そこで筆者は、この層を「価値選択型・高関与型旅行者」と捉えています。環境配慮に共感するだけではなく、宿泊価値全体を丁寧に見極めて選ぶ顧客だからです。

 

日常生活の価値観がホテル選びにも表れています

 海外の社会心理学研究では、日頃から環境に配慮している人ほど、「自分は環境に配慮する人間である」という自己認識を持ち、その考え方に合った商品やサービスを選びやすいことが示されています。

 分かりやすくいえば、ホテルを予約するときだけ突然SDGsを意識するわけではありません。普段の買い物、ごみの分別、寄付などに表れる価値観が、ホテル選びにも表れるということです。

 今回の結果も、この考え方と整合していました。マイボトルを「必ず」または「よく」持参する人は、意識が高い層では67.1%、比較対象層では52.9%でした。リサイクル分別を行う人は、それぞれ86.4%と81.7%でした。

 より大きな差がみられたのは、商品の購入と寄付です。環境や社会に配慮した商品を購入する人は、意識が高い層では48.6%、比較対象層では5.9%でした。意識が高い層の割合は約8.2倍でした。

 寄付活動を行う人は、意識が高い層では33.6%、比較対象層では5.2%でした。意識が高い層の割合は約6.5倍でした。これらの差は統計的にも有意でした。

 つまり、SDGs意識の高い旅行者は、宿泊時だけ環境に配慮する人ではありません。日常生活の中で形成された価値観を、ホテル選びにも持ち込む人なのです。

 

海外研究との共通点と、対照的にみえる点

 海外研究と共通しているのは、環境問題に賛成していても、必ずしも高い料金を支払うとは限らないことです。

 今回の調査では、コストをかけたSDGsへの取り組みに肯定的な人は34.4%でした。しかし、5%以上高くてもSDGsに取り組むホテルを選ぶ人は27.6%でした。さらに、三つの回答を組み合わせた指標で平均4点以上となった人は10.6%でした。

 米国の旅行者400人を対象とした模擬予約実験でも、環境に肯定的な態度を持つこと自体は、予約意向に直接影響しませんでした。海外でも日本でも、「SDGsに賛成すること」と「実際に追加料金を支払うこと」の間には距離があると考えられます。

 一方、海外研究の結果と対照的にみえるのが、認証の受け止め方です。ただし、海外研究と今回の調査では、対象者、設問、分析方法が異なるため、直接的な国際比較ではありません。

 米国の実験では、信頼できるサステナビリティ認証がホテルの環境イメージや宿泊者の共感を高め、間接的に予約意向を強めました。

 これに対して今回の調査で、「認証取得」を評価する取り組みとして選んだ人は、意識が高い層でも6.4%でした。比較対象層では4.6%で、統計的に明確な差はありませんでした。

 一方、意識が高い層で食品ロス対策を評価した人は51.4%、地産地消を評価した人は49.3%、プラスチック削減を評価した人は43.6%でした。地域社会や地域雇用への貢献は27.9%、従業員の労働環境や多様性への配慮は25.7%、生物多様性の保全は23.6%でした。

 今回の日本人調査では、認証の名称そのものよりも、食品ロスや地産地消など、内容が具体的に分かる取り組みの方が高く評価されました。ただし、この結果だけで「日本人は認証を評価しない」と断定することはできません。

 日本では、認証マークだけを示すのではなく、「食品廃棄量を何%削減したか」「地域食材を何%使用しているか」など、具体的な成果を先に伝え、その信頼性を裏付けるものとして認証を示す方法が有効だと考えられます。

 また、7か国5,270人を対象とした国際比較研究では、追加料金を支払う意思は、環境への関心だけでなく、周囲からの期待、自分の選択が環境改善に役立つという認識、個人の道徳意識などにも左右され、その影響は国によって異なると報告されています。

 これに対し、今回の日本人調査で目立ったのは、年齢や所得との関係よりも、ホテルの独自性、料理、接客、客室などを幅広く評価する姿勢との関係でした。また、国内旅行では、出発1か月以上前に予約した人が80.5%、3か月以上前に予約した人が30.1%となるなど、予約リードタイムとの関係もみられました。

 予約リードタイムは、海外の既存研究では十分に扱われていません。国内旅行の早期予約層にSDGs意識の高い人が比較的多く含まれていたことは、今回の調査から得られた実務的な示唆の一つです。

 

SDGsを「宿泊価値」に変えることが重要です

 アメニティを減らす、清掃回数を減らす、タオル交換を控えてもらう。これらにも環境上の意味はあります。しかし、宿泊施設側のコスト削減を環境配慮と言い換えただけでは、価値を見てホテルを選ぶ旅行者には十分に伝わりません。

 地域食材を使うことで料理がおいしくなる。地域の素材や文化を取り入れることで空間に独自性が生まれる。従業員を大切にすることで接客の質が安定する。自然環境を守ることで、その土地でしか得られない体験が維持される。このように、SDGsへの取り組みを、宿泊者に我慢を求めるものではなく、滞在を豊かにする価値へ変えていく必要があります。

 今回、上位層として抽出されたSDGs意識の高い旅行者は140人で、全体の28.0%でした。また、三つの回答を組み合わせた指標で平均4点以上となった人は53人で、全体の10.6%でした。今回の500人の中には、持続可能性をホテル選びの価値として受け止める旅行者が一定数含まれていました。

 この層は、価格を気にしない顧客でも、環境問題だけを見ている顧客でもありません。価格を確認しながら、ホテルの独自性、品質、地域性、社会的姿勢を総合的に判断する「価値選択型・高関与型旅行者」です。

 これからの宿泊施設に求められるのは、SDGsという言葉や認証マークを掲げることそのものではありません。持続可能性への取り組みによって、そのホテルにどのような価値が生まれたのかを、具体的な内容と数字で伝えることです。SDGsを「我慢」や「配慮要請」ではなく、「選ばれる理由」に翻訳できるかどうかが、今後の差別化を左右するのではないでしょうか。

 

株式会社日本ホテルアプレイザル代表取締役/株式会社サクラクオリティマネジメント代表取締役/一般社団法人宿泊施設関連協会副理事長 北村剛史

 
 

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