【ちょっと よろしいですか 131】「日本秘湯を守る会」50周年記念式典に 山崎まゆみ


 「日本秘湯を守る会」(以降、「秘湯の会」と略す)発足から50年、誠におめでとうございます。

 3月13日に東京の有楽町マリオンで開催された50周年記念式典に参加しながら、私が温泉に関わる仕事を始めてから25年間の歳月が走馬灯のように駆け巡りました。とりわけ初めての秘湯を体験した日のことが鮮明によみがえりました。

 私は、どこにやって来たのだろう―。1997年、秋田県乳頭温泉郷「鶴の湯」の本陣を前に、時空間を移動したかのような不思議な感覚に落ちました。そう、この日、私は初めて温泉取材をしたのです。混浴風呂も初体験でした。晩秋で、早くも少し雪が積もっていました。混浴露天風呂では、英国人ジャーナリストと一緒になり、彼は「鶴の湯には神が宿る」と感動しており、私も「ここには日本人のソウルがある」と語りあった記憶があります。

 どこかまだ、おおらかさが残る1990年代後半。見ず知らずの男女が、ごく自然にお風呂を共にする混浴風呂の風景が存在しました。この「鶴の湯」での体験が私の温泉への扉を開いたのです。

 式典では、福島「檜枝岐神楽」が厳かに行われ、次に漫画家・ヤマザキマリさんの記念講演、そしてパネルディスカッションへと移りました。

ディスカッションでは、冒頭にご登壇された「秘湯の会」会長であり栃尾又温泉「自在館」の星雅彦社長が「秘湯は人なり。団体旅行がウケた時代に人としての生き様、旅とは何のためにするものなのかを考えた。大手旅行会社に相手にされず、地図を片手に1軒1軒訪ねて仲間を集め、33軒からスタートした」と、会の原点をお話しされました。

 栃木県「渓雲閣」の君島永憲さんは「地熱開発の波が押し寄せている。宿から2キロ離れた所に試験的に掘る。温暖化や脱炭素化と、社会問題を考えれば避けては通れないが、『100%の安全はうたえない』と説明がある以上、やはり不安がある。親の世代の有識者で語られているが、10年後、15年後、温泉地を背負う私たちも議論に入れてほしい」と秘湯を守るお覚悟を。

 静岡県「かわいいお宿 雲見園」の高橋大志さんは「秘湯の宿の横のつながりの強さを感じる。秘湯の宿は旅人とのつながりも大切にしている。スタッフのネパール人に、『お客さまと話しておいで!』と言っている」と「秘湯は人なり」を実践していることを。

 山形県「滝見屋」の安部里美さんは「秘湯の価値はそれぞれの温泉を生かした宿であること。しかも近年は当たり前に居続けることに、知恵がいるようになっている。それは自然環境の変化、社会環境が大きく変化したため。2年前の春は雪害、夏は豪雨で大きな被害を受けたが、秘湯の宿のつながりで助けてもらい、復旧することができた。私たちもつないでいきたい。外国人、若い人も秘湯の宿で心を開いてほしい」と訴えました。

 大トリとして佐藤好億会長がご講演され、「もうけに走るだけではなく、今一度、立ち止まり、宿の存在意義を問う」と引き締めました。

 秘湯の宿を営まれる皆さんは、決して饒舌(じょうぜつ)ではありません。でも一言一言に重みがあります。それは自ら考え、汗を流し、苦労をされているからこそ紡ぎ出される言葉だからです。まさに“生きた言葉”を聞くことができたことに胸が熱くなり、そして「人を大切にする」哲学に震える喜びを感じたのです。

 令和5年度のインバウンド消費が過去最高の5兆円と報じられているからこそ、「日本人にとって温泉とは、宿とは」と見つめ直し、考える大切な時間となりました。心より御礼を申し上げます。

(温泉エッセイスト)

 
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