国内観光再生と世界遺産 跡見学園女子大学 観光コミュニティ学部准教授 篠原 靖


篠原准教授

文化財の観光価値創造へ

 20年は観光産業にとって歴史的な転換点にあたる年だった。新型コロナウイルスの世界的まん延で、ヒトやモノの移動制限を受け世界経済は大きく混迷し、渦中の観光関連産業は未曾有(みぞう)の危機と直面し生き残りをかけた戦いの日々が続いている。

 しかし、厳しい環境だからこそ、今あるものを変化させて新しい物や考え方を作り出すことも大切だ。今回の特集「今こそ、世界遺産巡り 国内再発見」の視点は、長引くコロナ禍でインバウンドの回復は当面期待できない環境の中、改めて国内旅行需要の拡大を戦略的に行う必要に迫られていることを発信し、今後の観光需要を維持するための提言を伝えようとしている。さて、インバウンド観光の華やかな報道の陰で低迷していた国内旅行。その原因の一つとして、旅人の旅行動機が急速に成熟し周遊型旅行から目的型旅行(テーマ別観光)へのシフトが著しいことを指摘したい。各観光地ともそれらへの対応が大きく遅れていることが否めない。日本の観光は全般的に各コンテンツの奥行きや底が浅く、同じ「世界遺産」でも年齢や該当遺産への興味度を顧客層別にセグメントし、複数の切り口で観光メニューを用意する必要に迫られているが、これらを活用できるマネージメント人材の育成が追い付かないのが現状である。

 そのような中、文化庁も政府の「明日の日本を支える観光ビジョン・世界が訪れたくなる日本へ」の方針を受け、従来の「文化財」を、「保存優先」から観光客目線での「理解促進」、そして「活用」する方向を明確に打ち出した。さらには昨年5月に国会で新たな「文化観光推進法」が可決成立した。

 これに合わせ筆者は、文化財活用に資する文化庁の複数の審査会の委員を委嘱されているが、世界遺産や日本遺産においては認定された地域の取り組みに温度差があることから、全体の底上げを図り、ブランド力を維持、強化していくため、外部有識者で構成する「フォローアップ委員会」で検討し、しっかりとしたコンテンツ作りを観光庁と連携し今までにない大胆な支援を行っていく方針である。

 以上のように21年、観光産業に問われていることはポストコロナを見据えた持続可能な国内観光資源の磨き上げに他ならない。心を新たに日本の観光を官民学共同で大きくリノベーションしていきたい。

篠原 靖(しのはら・やすし)

跡見学園女子大学観光コミュニティ学部准教授。内閣官房地域活性化伝道師や内閣府クールジャパン地域プロデューサー、総務省地域力創造アドバイザー、国土交通省社会資本整備審議会委員などを務める。専門研究分野は「アフターコロナ時代の観光による地域活性化論」「交流・関係人口拡大論」など。

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