【道標 経営のヒント118】宿泊業の生産性向上 石井敏子


 全国女性経営者の会の定例会に参加するため、岩手県新花巻駅よりバスで40分、山間のお宿、新鉛温泉「結びの宿愛隣館」へ行ってきた。ここは観光庁による「宿泊業の生産性向上事例集」の中にある1軒でもある。定例会では講師に徳江順一郎東洋大学国際観光学部国際観光学科教授を迎え「宿泊産業の生産性向上とホスピタリティの両立~マーケティングの観点を中心に」の講演会が行われた。もちろん、愛隣館の取り組みを主導する、桑波田専務取締役による事例発表も。私が到着する頃はちょうど紅葉の見ごろのピークをあと1週間で迎えるという時期でもあり、山の景色を楽しみながらの有意義な勉強会となった。

 愛隣館ではさまざまな取り組みが行われていたが、働き方を変えることへの抵抗感が現場のスタッフの中にあり、その意識改革が難しいと、正直にお話しいただいたことが印象に残った。一つ一つの作業を根本的に見直す取り組みは根気と時間が必要な作業だ。何十年も働いてきて自身の切磋琢磨によって完成されている作業手順も、トヨタやキヤノンの工場での1秒、2秒刻みでの時短がやがて大きな成果になってきたことを承知していれば、素直な気持ちを持って取り組めるであろう。そう思いながらも、自動車工場の効率化と、温泉旅館のおもてなしの効率化って、同列で論じられるの? という疑問も頭をもたげる。

 朝食バイキング、予約スタッフの作業改善、大広間の掃除機を肩掛け式に変えて移動を楽にしたり、自動精算機、スマホタブレットの導入などなど、作業を一部機械化することで人為的ミスが減り、毎日の集計業務がスムーズになり金銭のやりとりの間違いが減ったそうだ。ゴルフ場などでは今では定番となっている自動精算機もホテルのフロント周りにあるのはまだ珍しい。機械のお値段を聞いたところ数百万ということだが、行燈旅館のような小さな旅館では高額でもあるし、場所も取れない。支配人曰く、「この機械の導入によってチェックアウト集中時間の混雑の緩和、集計は間違わなくなったが、お客さまの中には最近チェックアウト時にスタッフが少なくなったのは寂しいなどの声もある」とのことだ。ここはやはりサービス業とつく限りあまり機械まかせにできない部分とのバランスをいかに保つかが重要だと思った。

 大規模ホテルで取り組むべきこと、小規模ホテルでしかできない緻密なサービスをホスピタリティの質に変えていく形で実践していくことが、これからのサービス業に一番求められていることだと思った。

 
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