お体が不自由な方への三つの対応事例。問題の所在はどこか。
事例(1)車椅子ユーザーが2人の健常者と一緒にレストランに来店した。席案内担当のAさんは、4人掛けのテーブル席へ案内し、椅子を1脚どかしてから車椅子ユーザーに声をかけた。「車椅子のお客さまは、こちらへどうぞ」。席を指し示したあと、Aさんは椅子を店の壁際に並べた。車椅子ユーザーは曇った顔つきでテーブルに着いた。
さて、Aさんのどこに問題があったのか。
事例(2)小型の介助犬を連れた宿泊客に、フロント係のBさんが声をかけた。「可愛いワンちゃんですね。名前は何ていうんですか」。客は一言。「教えられません」と言い放った。
さて、客はなぜ犬の名前を教えなかったのか。
ちなみに、手や足が不自由な人の日常生活をサポートするのは介助犬、目が不自由な人の道案内をするのは盲導犬、聴覚障害者に触れることでドアチャイムや火災報知器などの音を伝えるのが聴導犬である。介助犬、盲導犬、聴導犬の3種を合わせて補助犬と呼ぶ。
事例(3)売店レジで視覚障害の宿泊客から5千円札を受け取り「5千円をお預かりしましたので、お釣りは△△△円でございます」とお釣りを返そうとしたら、客から「預けたのは5千円札ではなく1万円札だ!」と怒鳴られた。
さて、レジ係のどこに問題があったのか。
いずれの行為も、一見何の問題もないように思われる。車椅子ユーザーのために椅子をはずしたのは、車椅子ごとテーブルに着きやすくするためであり、犬の名前を尋ねたのはコミュニケーションの一環である。また、視覚障害者から札を預かったときは、はっきり5千円と声に出して告げている。一体、どこに問題があったのか。
答え(1)車椅子ユーザーいわく「お店の椅子に座って食事をしたいのに、レストランに行くと当たり前のように車椅子ごと席に着かされる。せめて車椅子のままでよいか、店の椅子に移乗したいのかを聞いてほしい」。
答え(2)介助犬を抱いた客いわく「名前を聞いたら呼びかけたくなるのが人の常。使用者以外から名前を呼ばれれば犬は混乱する。補助犬には触れない、名前を呼ばないは絶対厳守」。
答え(3)視覚障害者いわく「札を受け取るときは、札が手の中にあるうちに金額を言ってほしい。そうすれば、自分が1万円だと思って握っていたお札が、実は5千円だったことを支払い前に知ることができる」。
良かれと思った行為でも障害者にとっては見当違いで、ありがた迷惑なときもある。何事にも思い込みは禁物。いったん、立ち止まって想像力を働かせてみることから始めたい。