【道標 経営のヒント 273】30年前の提言「女心をモノで射止める時代は終わり」 九州国際大学教授 福島規子

  • 2021年3月10日

 筆者がこのコラムを初めて執筆したのは、1991年3月9日。ちょうど30年前である。バブル景気真っただ中で、東京港区芝浦にジュリアナ東京がオープンし、相撲界は若貴ブームで沸いていた。旅館業界では男性団体客が主流ではあるものの徐々に女性客が増えてきた時期でもあった。当時のコラムを再録する。

 「たとえば、男性客が芸妓をあげる時、芸妓も客と一緒になってとことん遊ぶらしい。これは『サービスは、生産と同時に消費される』という特性を如実に表している好例といえよう」

 「女性を意識した商品づくりが、旅館でも、重視されるようになって久しい。パステルカラーの絨毯(じゅうたん)やら会席料理の日帰りパック、あの手この手の女性向け商品が80年代には一気に開花した」

 「しかし、そろそろこれらも女性にとっては『特別』ではなく『当然』のものになりつつある。『女性のお客様には特別に浴衣を2枚ご用意しました』というサービスも今や珍しくもない。客は旅慣れれば慣れるほど、より高度なもの、高品質なサービスを求め始める。『女性のために〇〇を揃(そろ)えました』という切り口はそれが当たり前になることによって、明らかに魅力が薄れてきている」

 「確かにこれらのサービスは、旅館に女性客を呼びこむ第一弾としては効果があった。しかし、モノで顧客満足度をあげるには限界がある」

 「たとえば、洗面台に洒落(しゃれ)た石鹸(せっけん)が備えてあったとする。女性客はそれを見つけた瞬間に笑顔を浮かべて喜ぶだろう。だがそれで終わりである」

 「ところが、その石鹸を係が直接『私ども(旅館)からのプレゼントです』と言って、手渡したとしたらどうだろう。その瞬間、接客係と客の間には人の手によって生産されるサービスが誕生し、客は、そのサービスを消費することで長く心に残る驚きと感動を覚えるのである。もはや女性客が好きなものは何かという議論の段階ではない。これからは女性客にも、徹底的に様々な『サービスの瞬間』を提供し、ともにそれを消費していく楽しみを仕掛けることが必要なのではなかろうか」

 「男性客が芸妓をあげ、客と接待係が一体となって消費するサービス形態のように、女性客にもサービスを消費することで満足度が上がる『楽しいホストクラブ』などがあってもいい。重要なのは『女性客だから』という先入観を取り除くことだろう」

 サービス提供者と客がともにサービスを作り上げる「共創」の概念は、相手に喜んでほしいという両者の思いが一致したときに初めて成立する。つまり、良いサービスを受けた客は、そのサービスを提供した係が返す笑顔で、顧客満足度をさらに高めていくのである。

 翻って、30年後の2021年現在。今やホテルではロボットがチェックインや配膳業務を行うことも珍しくない。果たして、客とロボットの間に「サービスの共創」は成立するのだろうか。今後も、サービスコンサルタント兼研究者として、現場と学術の両面から接客サービスについて発信し続けていきたい。次の30年に向けて。

 
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