【道標 経営のヒント 232】新型コロナウイルスで思うこと 佐々山建築設計社長 佐々山 茂


 コロナウイルスのまん延が観光地を直撃し、4月の旅館は開店休業状態になり、先行きが見えない。昨年末に中国で新型コロナウイルスが発見され、1月末に中国が団体旅行の海外渡航を禁止するまでの間に来日した中国人は200万人前後と思われ、この間にコロナウイルスが持ち込まれるのは当然で、欧州の死亡率に対して日本の死亡率が1桁以上低いのが奇跡に思えてくる。

 思い返してみれば2013年にインバウンドが1千万人を超えてからの7年間はバブルと言ってもいい状態で、宿泊業界に新規参入が相次いだ。その変化は宿泊文化を長年にわたって支えてきた旅館にはあまりに急激な変化であった。

 旅館は息の長い商売で家業が中心で日本文化を支えている。長野県のある旅館の社長は自館を地域の公民館と自認し「二流の上」で必要十分といって地元の顧客を大切にしている。

 中古の重機を使って自ら丸太を切り出し、自分で設置した丸太ボイラーで湯を沸かし、ナンバープレートの無い何種類もの重機が裏山を走り回り大概のことは自前で造ってしまう。設計者に頼むほうが良いと判断したときだけ声が掛かりありがたく思っている。茶人でもあり日常の生活そのものがサスティナブルでさまざまなリスクに強いと感じた。

 設計の仕事を始めた当初にお世話になったクライアントは私が一級建築士になっても自分は特級だと言って、次から次にアイデアを出してきた。公園法や土地開発にまだ規制がゆるかった時代に自分で敷地造成しながら旅館を増築していった。晩年になっても10年後20年後の旅館の在り様の夢を語っていたのを思い出す。

 旅館商売とは立地を見極め、温泉や水を確保して自分たちでもうかる仕組みをつくることであった。今ではネットで世界とつながり、お客さまが海外まで広がり、日本経済を支える産業としての役割を担っているが、その分リスクが高まったことが今回痛感させられた。

 立ち止まらざるを得ないときには足元を見つめるのも意味がある。雇用を維持しながらこの難局を乗り越え、何よりも旅館は継続することに意味があると思う。その上で温泉を正しく使って癒やしの時間と場を提供する温泉旅館の本分を見直したい。

 この難局をなんとか乗り越えて強くなって前に進みたいと思う。

 
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